話題はディープですが、音楽に詳しくない僕でも
テレビ的に楽しめるように、と考えて作っています。
音楽的なバックボーン
藤城さんはもともと、どういう音楽を聴いて育ったんですか?
実はこういう場で語れるほど聴いていないんですよね(苦笑)。ライブに足を運んだのも数回程度で…有名なアーティストを少し聴いていたぐらい…冒頭からすみません。音楽番組は観ていましたがバラエティ番組と同じような感覚で楽しんでいました。
なぜテレビ業界に入ろうと思ったんですか?
“何をやっても許されそうだから”という理由でしたね。昔のバラエティ番組には、自由さを感じていたので。でも、まさか自分が番組を作る側に回るとは思っていませんでした。僕が入社した年に『稲妻!ロンドンハーツ』が始まって、僕はそこに配属されて、途中でほかの番組を担当したりもしましたけど、『ロンハー』はADの頃から21年、ずっと離れずに続いています。
では、バラエティ畑で仕事をしてきた藤城さんがなぜ『関ジャム 完全燃SHOW』という音楽番組に携わることになったんでしょうか。
テレビ朝日の制作部は班で分かれているんですけど、『ミュージックステーション』を作っている班から「関ジャニ∞をメインにした音楽番組を始めるから演出をやらないか」と言われて、やらせていただくことになりました。なので、自分で企画書を作ったわけではないんです。
音楽経験が浅いなかでそういった番組を担当することに、戸惑いはありませんでしたか?
“なんで僕なんだろう?”とは思いました。おっしゃる通り、僕には音楽的なバックボーンがまったくなかったので、“どうしたら楽しい音楽番組になるか?”という気持ちでのぞみました。
『関ジャム』のこだわり
そんな状態でどうやって番組作りに取り組んだんですか?
企画のベースはあったので、“こういうことをやってみたらどうかな”というアイデアを提案して、『ミュージックステーション』のスタッフやバラエティの構成作家にも入っていただいて、数年間本当に試行錯誤しながら作っていきました。
普段、テレビではなかなか取り上げられることのない音楽のマニアックな部分を追求しつつ、それをわかりやすく視聴者に提示しなければならないという、かなり高度な番組作りが要求されますよね。
それは今でもみんなで相談しています。あるテーマのすごさを扱う際、どうしても話題はディープになるのですが、それをそのままやってもお堅い内容になってしまう。なので、音楽に詳しくない僕でもテレビ的に楽しめるように、どうしたらいいかということを考えて作っています。
音楽のことをよく知らないからこそ、自分の感覚を基準にできるわけですね。そういった試行錯誤が実を結び、音楽業界での評価が非常に高まっています。
こちらとしてもみなさんの反応はすごく気になります。番組としては面白くできたと思っていても、アーティストさん側から見たときに“あ、こういうふうになっちゃったのか…”みたいにがっかりさせることは極力避けたいので。
音楽業界の方々からはどんな言葉をかけられますか?
寺岡呼人さんからは「こんなこと(機材回)を扱ってくれるのは『関ジャム』しかないんだよね」と言っていただいたり。あと、蔦谷好位置さんが出演される回は視聴者からの反応が大きいのですが、収録が終わってから「もっとこうするべきだったかな…」という反省をご本人から聞いたこともあります。
本間昭光さんも本誌88号で“マニアックなことを、わかりやすく、深くやっている”というようなことをおっしゃっていました。番組を作るうえで苦労する点は?
“テレビ番組としてどうやったら楽しく観ることができるか”というところです。しかも、先ほどお話したように僕は音楽の知識が浅いので、“本当にこれでいいのかな?”という不安が毎回あって、それも大変ですね。
藤城さんの体感として、これまでにもっとも反応が多かった回は?
最近だと、蔦谷さんとヒャダインさんが出演された、「これを踏まえて聴いてみて!売れっ子音楽プロデューサーが嫉妬する名曲6選」でキリンジさんなどを紹介した回は、視聴率とは別の大きな反応を感じましたね。
ゲストの方々がおすすめ楽曲を紹介する回は鉄板ですよね。ここで紹介される楽曲は配信で如実に伸びるそうです。
ただ、そういう回は音楽偏差値が高めなので、そこまで音楽に興味のない世間の人にとっては知らない名前ばかりということもあって、音楽好きな人たちとは反応が異なることが多いんです。
音楽好きもそうでない人も納得できる企画というのはなかなか簡単に出てくるものではないんですね。個人的には和楽器の紹介をした回も楽しかったです。
ああ、あの回は音楽に詳しくない方でも楽しんでいただけたみたいですね。
音楽業界と音楽について
番組を作っているなかで、音楽業界について感じることはありますか?
音楽業界について、自分がどうこう言う立場にはありませんが、もっと掘ったら面白い音楽の話題はたくさんあるだろうなという希望を持って番組を作っています。たとえ世にあまり知られていないとしても“実は和楽器ってすごいんですよ”と紹介することもできますし。
番組を通じて音楽の魅力を伝えたいという思いはあったりしますか?
それを僕が言うのはおこがましいですね(笑)。でも、番組がきっかけになっていろんな音楽を聴いてくれるのはうれしいですし、蔦谷さんも「自分が紹介することで過去の音楽が再評価されたり、真っ当な評価が得られるならありがたい」とおっしゃっていましたね。
『関ジャム』の果たす役割
話をうかがっていて感じたのですが、『関ジャム』はいい意味で音楽に入り込みすぎていないからこそ成り立っている番組なのかもしれないですね。この番組には音楽好きな人が陥りがちな押しつけがましさがないんですよ。
関ジャニ∞はプレイヤーであると同時に番組ホストとして視聴者との間を取り持ってくれて、古田新太さんはものすごく豊富な音楽知識を楽しく披露してくれて、芸人さんは音楽を知らない視聴者が“あ、そういうことだったんだ”と思えるような質問をゲストのミュージシャンにしてくれる。そして、番組の中身に関しては、音楽業界の方に間違いがないか確認を取り、最後は僕が責任を持って、バラエティ番組で培ったやり方でディレクターと編集する。それがこの番組のバランスだと思います。
スタッフや出演者の方々の連携がしっかり取れているんですね。
そうですね。僕は毎週必死になって取り組んでいますけど、なかには“なんでこんなことやるのかな”と思うような企画ももしかしたらあったかもしれないんです。だけど、それを音楽バラエティとして見せるためにはどうしたらいいかということをみんなそれぞれが考えながら作っていくことで、少しずつ認めてもらえるような番組になれたんだと思います。
今後、何かやってみたい企画はありますか?
番組を4年もやっていても音楽についてわからないことがまだまだたくさんあるんですよ。だから、会議ではいつもおっかなびっくりで、“この音楽は…こういうことでしたっけ?”の繰り返しなんですよね。でも、それは視聴者の方も同じかもしれないので、“じゃあ、思い切って最初から説明しようか”という企画をやってもいいのかもしれないですね。
“今さら聞けない○○”みたいな。
今までもそういうことをやってはいたんですけど、まだまだやれていないことがあるのかなと。あとは、音楽業界の方々に楽しんでいただけているのは本当にありがたいんですけど、音楽に詳しくない人でも観たくなるような回を今後も作りたいですね。
なるほど。
4年も続けていると良かれ悪しかれ『関ジャム』っぽさというのが出てきてしまうし、番組のカラーを守ることも大事なんですけど、“あ、こんなこともやるんだ”と思ってもらえるような挑戦もしないと飽きられてしまうのかなという危機感がありますね。
PROFILE
藤城 剛
1975年生まれ。早稲田大学卒業後、1999年にテレビ朝日に入社。現在、毎週日曜23時10分より放送されている音楽バラエティ番組『関ジャム 完全燃SHOW』の演出プロデューサーを担当している。また、『ロンドンハーツ』(毎週火曜23時20分より)には入社以来関わり続けている。