チケット高額転売規制法が成立
去る12月8日未明、チケットの高額転売を規制する法律(特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律)が参議院本会議で全会一致で可決、成立しました。12月14日の官報で公布されましたので、6ヶ月後の2019年6月14日が施行日となり、それ以後の不正転売行為が処罰対象となります。
法律の施行前に発売されたチケットであっても、そのチケットが特定興行入場券に該当する場合には、施行後の不正転売行為は処罰対象となると考えられますので、注意が必要です。
チケット高額転売規制法の概要
1.規制の対象となる「不正転売」とは
この法律においては、チケットの不正転売行為が禁止されるとともに、チケットの不正転売目的の譲り受けも禁止されています。ここで言う「不正転売」とは、「興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするものをいう」とされています。
規制対象となるのは「有償譲渡」ですので、現金による売買のみならず、チケットの販売価格を超える価値を持つ物品との交換なども該当すると考えられます。
2.「業として」とは何を意味しているか
次に、「販売価格を超える価格」という要件は比較的明確ですが、「業として」とは、どのような場合を指しているのでしょうか。
法的には、「業として」と言えるためには、反復継続し、社会通念上、事業の遂行と見ることができる程度のものであることが必要であると解釈されています。
この法律は、一般の音楽ファンが、都合がつかなくなったなどの理由で家族や友人に譲渡する場合についても罰則をもって規制するものではありません(ただし、主催者などの販売条件において、主催者が認める方法以外での入場者変更が認められない場合もあります)ので、家族・友人間などの偶発的な譲渡を除外するために、このような要件が設けられました。したがって、一般的な音楽ファンの行為が対象となることはなく、いわゆる転売ヤーによる大量転売が規制の中心となります。
「業として」要件については、これに当たらないとする様々な「言い訳」が考えられるところですが、自身で参加できる程度を越えてチケットを大量に購入し、チケット入手後まもなく販売価格を超える価格で転売に供しているような実態がある場合には、「業として」であると認められるものと考えられるでしょう。
3.対象となる「特定興行入場券」とはどんなチケットか
規制の対象となる「特定興行入場券」には、紙チケット以外に電子チケットも含まれます。座席が指定されている一般的なチケットについては「購入者」の氏名および連絡先が券面等に表示されていることが必要ですが、座席が指定されていないスタンディングやフェスなどのライブについては、「購入者」ではなく、「入場資格者」の氏名および連絡先の表示が必要になります。
主催者やプレイガイドにおいては、高額転売が禁止されている「特定興行入場券」であることが容易に判別できるような券面とする必要があるでしょう。
法律の成立による影響
以上の通り、不正転売による罰則の対象となる「特定興行入場券」は、厳しい要件が設定されており、これまで販売されてきたチケットのなかにも対象となるものとならないものがあるでしょう。特に、フェスやスタンディングのライブであっても、入場者の特定まで行っているケースは少なかったのではないでしょうか。しかし、法律が成立することとなった以上、各プレイガイドや主催者は、販売するチケットを特定興行入場券に該当させるために、必要な対策を行ってくるでしょう。
また、非公式の転売プラットフォーマーが不正転売を放置し利益を上げていたような場合には、不正転売を幇助するとして検挙される可能性が従前より高まった点も大きな影響としてあげられます。規制の対象となる不正転売行為は、取り引き内容や取り引き件数が確認できるプラットフォーマーからは比較的容易に把握できるものと思われますので、違法な取り引きが行われないよう、プラットフォーマーは十分な監視を行わなければならないと言えるでしょう。
なにより、この法律の施行により転売を目的とする大量購入が減少することになり、少なくともこれまで高額転売に供されてきたチケットについても、音楽ファンのもとに直接届けられることになります。
主催者等への努力義務
この法律には、主催者等に、チケットの適正な流通が確保されるよう、主催者等の承諾のもとでチケットを譲渡できる機会を提供するという努力義務も定められています。
このような法律上の要請にも応える形で、ライブの主催者や音楽団体は、より安全で利便性の高いチケット販売システムをすべての音楽ファンに提供すべく、「チケトレ」など公式チケット二次流通網の整備や新たな入場システムの研究を進めています。