みなし侵害の内容
著作権法では、これまで取り上げてきたように著作者等の権利者に様々な権利を与えて著作物等を保護しています。そして、これらの権利を侵害する行為について罰則規定を設けています。また、113条では以下の行為を著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権または著作隣接権を「侵害する行為とみなす」と定めています。みなし侵害行為も、一部を除き刑事罰の対象となります。
1.海賊版(無断複製物)を頒布(譲渡・貸与)目的で輸入する行為や、海賊版に関し、情を知って(海賊版であることを知って)、頒布したり、頒布目的で所持したり、頒布の申出をしたり、業として(継続・反復して)輸出したり、業として輸出目的で所持したりする行為(113条1項1号・2号)。
2.海賊版コンピュータソフトを、その取得時に情を知って業務に使用する行為(同2項)。
3.著作物等の利用を管理する技術的手段(いわゆる「アクセスコントロール」)を権限なく回避する行為(同3項)。この行為自体は、商売として行わないかぎり刑事罰の対象とはならないが、アクセスコントロール回避装置の販売等の行為については刑事罰の対象となる。
4.著作物等の権利管理情報として虚偽の情報を故意に付加したり、権利管理情報を故意に除去もしくは改変したり、または、それらの行為が行われた著作物等の複製物を、情を知って、頒布したり、頒布目的で輸入もしくは所持したり、または、当該著作物等を、情を知って公衆送信もしくは送信可能化したりする行為(同4項1〜3号)。
5.国外頒布目的商業用レコードに関し、情を知って、頒布目的で輸入したり、頒布したり頒布目的で所持したりする行為(同6項)。ただし、所定の条件を満たす場合にかぎられる。この規定は、「商業用レコードの還流防止措置」と言われている。
6.著作者の名誉や声望を害する方法でその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす(同7項)。
罰則規定
権利者は、著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権または著作隣接権を侵害した者に対して処罰を求めることができます。この場合、被害者である権利者は「告訴」(被害者自身が捜査機関に犯罪事実を申告して犯人の処罰を求めること)を行う必要があります。公訴を提起する(検察が裁判所に訴える)のに告訴が要件となる罪を「親告罪」と言います。著作権法違反の罪の多くは親告罪ですが、告訴を必要としない「非親告罪」もあります。
また、2018年12月30日から、親告罪のなかの一部の侵害行為について非親告罪になりました(内容は後述)。
以下、罰則規定のなかからいくつか取り上げて説明します。
著作権法に定められた権利の侵害行為でもっとも重い罰が科せられるのは、著作権、出版権または著作隣接権を侵害する行為で、「10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処し、又はこれらを併科する」(119条1項)という罰則規定の適用を受けることになります。また、法人がこれらの侵害行為を行った場合は3億円以下の罰金刑となります(124条1項)。
次に重いのが、著作者人格権や実演家人格権を侵害した場合などで、5年以下の懲役または500万円以下の罰金でこれらを併科される場合もあります(119条2項)。法人の場合は500万円以下の罰金刑です。
変わったところでは、「著作者でない者の実名又は周知の変名を著作者名として表示した著作物の複製物を頒布した者は、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」(121条)という罰則もあります。著作者名を偽って著作物を頒布するとこの罪に問われます。これは非親告罪です。
懲役刑はなく、罰金刑のみの罰則もあります。著作者や実演家の死後における人格的利益の保護規定(60条・101条の3)に違反した場合がそうで、この場合、500万円以下の罰金が科せられます(120条)。
違法ダウンロードの刑事罰
2012年の著作権法改正により違法ダウンロード行為について罰則規定(2年以下の懲役または200万円以下の罰金。併科あり)が設けられました(119条3項)。この規定により刑事罰を受ける違法ダウンロードの条件を整理すると、次の通りです。
(1)私的使用の目的であること
自分で個人的に楽しむためなど私的使用の目的でダウンロードすること。ダウンロードしたものを複製して販売するなどの行為については別の罰則規定が適用され、もっと重い刑罰を受けることになる。
(2)有償著作物等であること
ダウンロード対象物が「有償著作物等」であること。有償著作物等とは適法に有料で販売(パッケージ販売やネット配信など)されている著作物や実演やレコードなどを言う。
(3)違法サイトであること
「著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信」つまり違法サイトからのダウンロードであること。外国のサイトであっても日本法を適用すれば違法となる場合は対象となる。
(4)デジタル方式の録音・録画であること
デジタル方式の録音と録画だけが対象となる。したがって、文章や楽譜やイラストや写真データなどをダウンロードすることは、録音・録画に該当しないため、罰則の対象とならない。
(5)自らその事実を知りながら行うこと
上記の(2)と(3)に該当すると知ったうえで行うダウンロードであること。したがって、有償著作物等であることと違法サイトであることを知らないでダウンロードしたのであれば、罰則の対象とならない。
(6)その結果、著作権または著作隣接権を侵害していること
上記(1)〜(5)の条件を満たしていても、その行為が著作権や著作隣接権を侵害していなければ本規定の適用外となる。文化庁の資料によれば、たとえば、動画の視聴の際にPCにキャッシュができる場合(プログレッシブダウンロード)は、動画視聴を円滑・効率的に行うためのものであり、権利制限規定が適用されるので、著作権または著作隣接権を侵害したという条件は満たさないから、罰則の対象とはならないとのこと。
民事による救済措置
著作権などが侵害された場合の民事による救済措置としては「損害賠償請求」「不当利得返還請求」「指止請求」「名誉回復等の措置の請求」があります。
(1)損害賠償請求(民法の規定)
損害賠償請求は民法の規定に基づく請求です。民法709条は、故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者はその損害を賠償する責任がある旨規定しています。
損害賠償を請求する場合、損害の額は損害を受けた側が立証しなければならないのですが、著作権、出版権、著作隣接権の侵害については、損害額の立証が困難であることから、著作権法では、権利者保護の観点から損害額の推定規定を設け、侵害者の利益を損害額として認めるなどの便宜を図っています(114条)。
(2)不当利得返還請求(民法の規定)
不当利得返還請求も民法上の規定によるものです。損失を被った者(損失者)は利益を得た者(利得者)から利益の返還を請求することができます。この請求は損害賠償請求と異なり、利得者の故意・過失を問いません。そして、利得者が利得に法律上の原因がないことを知らなかった場合には「その利益の存する限度において(現存利益)」(民法703条)、知っていた場合には「利益の全額に利息を加えた額」(同704条)を、利得者に請求することができます。
(3)指止請求(112条)
著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権または著作隣接権を侵害された権利者は、侵害者に対しその「侵害行為の停止」を求めることができます。また、これらの権利が侵害されるおそれがある場合には、「侵害の予防措置」を求めることができます。これらの請求は、侵害者の故意・過失を問いません。
具体的には、以下の物の廃棄を請求することができると規定しています。
(イ) 侵害行為を組成した物
(ロ)侵害行為によって作成された物
(ハ) もっぱら侵害の行為に供された機械や器具
(4)名誉回復等の措置の請求(115条)
著作者人格権を侵害された著作者や実演家人格権を侵害された実演家は、侵害者に対し、名誉回復等の措置を請求することができます。ただし、この場合、侵害者に故意または過失があることが必要です。この請求は、損害賠償の請求とは別に行うことができます。
名誉回復等の措置の具体例としては、無断改変された著作物が出版されたような場合に(同一性保持権の侵害)、新聞や雑誌などに謝罪文を掲載させることなどが考えられます。
紛争解決あっせん制度について
紛争が生じ、これを当事者だけで解決できないときは、訴訟を提起して裁判で決着を図るのが一般的ですが、著作権法では、著作権法上の権利に関する紛争を実情に即してより迅速に解決するために、裁判によらない紛争解決手段である「紛争解決あっせん制度」を設けています(105条〜111条)。
この制度を利用する場合は、文化庁長官に申請し、手数料を納付する必要があります。申請は両紛争当事者が行うことが原則ですが、一方当事者による申請の場合でも、他方当事者がこれに同意すれば受理されるとのことです。
なお、あっせんの結果、あっせん委員から示されたあっせん案を受け入れるか否かは当事者の自由です。