「音楽著作権」バイブル

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最終回 アーティストの権利 総まとめ

このシリーズも20回という節目を迎えたところで終わりたいと思います。 最終回の今回は、これまで取り上げてきたアーティストの権利をおさらいします。 アーティストには判例の積み重ねにより認められた「パブリシティ権」があり、 レコーディング等で実演を行えば「著作隣接権」が発生し、 作詞・作曲等の創作活動を行えば「著作権」が発生します。

text:秀間修一(リアルライツ)

アーティスト活動から発生する権利

 アーティストは様々な活動を行いますが、それらを整理すると次の表1のように分類することができます。アーティスト活動を行うと、多くの場合、著作権法上の権利が生まれます。また、アーティストにはスポーツ選手などと同様に「パブリシティ権」という権利が認められています。

タレントとして発生する権利→パブリシティ権

 

 アーティストなどその存在自体に顧客吸引力を有する者には「パブリシティ権」があります。
 パブリシティ権は、それを規定する専用の法律はありませんが、2012年に最高裁判所が認めたことにより権利として確立されました。最高裁は、もっぱら肖像等の持つ顧客吸引力の利用を目的とすると言える以下の3つの類型についてパブリシティ権を侵害する行為であると認定しました。
 ?肖像等それ自体を独立して観賞の対象となる商品等として使用すること→ブロマイド写真やグラビア写真などが該当するものと考えられる。
 ?商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品に付すこと→キャラクターグッズなどが該当するものと考えられる。
 ?肖像等を商品等の広告として使用すること
 パブリシティ権が認められたことにより、タレントやスポーツ選手など著名人の写真集を出版する場合や、肖像やロゴマークなどを商品の広告に使ったりキャラクターグッズとして製造したりする場合は、本人の許諾が必要となります。

実演活動から発生する権利→実演家人格権・著作隣接権・報酬請求権

 アーティストがコンサートやレコーディングや映画出演などで実演を行うと、「実演家」として「実演家人格権」「著作隣接権」「報酬請求権」が発生します。著作隣接権は実演家の経済的利益の保護を目的とした権利(財産権)、実演家人格権は実演家の人格的利益の保護を目的とした権利(人格権)です。
 また、著作隣接権が、実演の利用を禁止することのできる強い権利(許諾権)であるのに対し、実演の利用を禁止することはできないが、実演を利用したら報酬や補償金を請求することのできる権利が「報酬請求権」です。
 著作隣接権と報酬請求権は他人に譲渡することができますが、実演家人格権は譲渡することができません。レコーディングにおける実演の場合、実演家の著作隣接権は原盤制作者に譲渡されるのが普通です。
 なお、実演家がこれらの権利を取得するのに、何らの手続きも必要としません。実演を行うと自動的に権利が発生します(無方式主義)。
 実演家のこのような権利は、次の表のように細分化されています。

実演を収録して原盤を制作すると発生する権利→著作隣接権・報酬請求権

制作すると、「レコード製作者」として「著作隣接権」と「報酬請求権」が発生します。これらはいずれもレコード製作者の経済的利益の保護を目的とした財産権です。実演家にあるような人格権はありません。なお、音楽業界では、レコード製作者のことを「原盤制作者」と言っており、原盤制作費を負担した者が原盤制作者の扱いを受けます。
 レコード製作者が著作隣接権や報酬請求権を取得する際にも無方式主義が適用されます。
 原盤とは、その制作や利用許諾に関する契約書において、おおむね次のように定義されているようです。
「原盤=録音物として複製、頒布すること、またはその音をネット配信することを目的として制作したもので、アーティストの実演等を収録した編集済みの磁気テープその他の記録媒体を言う」
 この定義のポイントは「編集済み」という点です。編集とは、別々のトラックに録音された音声素材をバランス良くミキシングし、エフェクター処理等も行い、メディアに応じたチャンネル数(通常は2チャンネル)にすることです。このような作業をトラックダウンと言い、トラックダウンを行った音を記録した媒体(マスターテープ)が原盤です。したがって、マスターテープの完成までに要する費用が原盤制作費ということになります。
 レコード製作者が有する著作権法上の権利には、「著作隣接権」と「報酬請求権」があります。いずれも譲渡可能な権利で、実際、レコード製作者がこれらの権利をレコード会社に譲渡しているケースも多く見られます。なお、レコード製作者は、これらの権利のほかに有体物である原盤(マスタテープ)の所有権(民法上の権利)も保有します。

創作活動から発生する権利→著作者人格権・著作権

 アーティストが作詞・作曲・エッセイ・小説など著作物を創作すると、「著作者」として「著作者人格権」と「著作権」が発生します。映画監督として映画製作に関与しても、その映画の著作者となりますが、映画の場合、著作権は映画製作者に帰属するので、著作者は著作者人格権だけを取得することになります。
 著作者人格権は著作者の人格的利益を保護する権利で他人に譲渡することはできません。著作権は著作者の経済的利益を保護する権利で、他人に譲渡することができます。日本を含む多くの国では、音楽の著作物の著作権を音楽出版社に譲渡するのが普通です。
 著作者人格権と著作権の取得にも無方式主義が適用されますので、著作物を創作した時点で自動的に権利が発生します。

著作者人格権に含まれる権利の種類
 著作者人格権は次の3つの権利から成り立っています。

 これらの権利を簡単に説明すると、「公表権」とは、まだ公表されていない著作物を公表するかどうか、公表する場合、いつどのように公表するかを決める権利、「氏名表示権」とは、著作物を公衆に提示・提供する際に、著作者名を表示するかしないか、表示する場合はどのような名前にするかを決定する権利、「同一性保持権」とは、著作物のタイトルや内容を勝手に改変されない権利です。
 これらの権利のほかに、113条7項に「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。」という規定があり、これを「名誉声望保持権」として著作者人格権に加える考え方もあります。

著作権に含まれる権利の種類
 著作権法では、著作権に含まれる権利として、著作物の利用形態に応じて様々な支分権を規定しています。これらを利用形態別に整理すると次の表のようになります。

著作物等の保護期間

 最後に、著作権と著作隣接権の存続期間、つまり、著作物や実演やレコード等が著作権法によって保護される期間について説明します。なお、「レコード」とは、CD等に音を固定したものを言います。
 保護期間を一覧表にすると下の表2の通りです。

 このように、著作権や著作隣接権は一定期間が経過すると権利が消滅します。権利が消滅した著作物や実演やレコード(PD作品)は、無断で利用することができます。
 一方、著作者人格権は著作者が死亡すると消滅し、実演家人格権は実演家が死亡すると消滅します。しかし、著作者や実演家の死後においても、生存しているとしたならば著作者人格権や実演家人格権の侵害となるべき行為をしてはならないと規定されているので(法60条・101条の3)、PD作品であっても、著作物のタイトルや内容や著作者名、実演の内容や実演家名を勝手に変えて利用することはできません。

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