ワールドワイドに成功する方法

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vol.49 “少しずつ好きになっていく曲”を作るという実験

楽曲の“好き嫌い”の判断

 楽曲の勢いは、その楽曲が本来持つ資質によって形成されます。まずリズムが決められ、コード進行かリフを反復させます。曲のキーが、耳が最適と判断した場所に収まると、耳のなかに広がる想像世界にあらゆるメロディの可能性が充満していきます。
 そしてメロディが奏でられていきます。最初の言葉にはいくつもの構成要素が内包されています。音程、言葉、アクセントという選択的要素。そして部屋の反響、シンガーの声質と響きといった天然的要素。
 作曲者はすぐに自らが曲のなかに入り込めているか、あるいは曲から拒否反応を食らい、突き返されているかを知ることになります。ものの1分もしないうちに、曲を受け入れて“よし”とするか、“本当はもっと良くできるはずなのに”という直感を抑えつつ消極的に“よし”とするか、あるいは完全に“ダメ”か。“ダメ”な場合でも“許容範囲内”“許容できない”“まったくあり得ない”と、反応は様々です。“ダメ”となると、我々の心は、その曲の構成要素、歌詞、雰囲気をエクスキューズにして守りに入ります。すると判断能力が乗っ取られてしまうのです。
 この世でこれほど即時的かつはっきりとした反応が出るものというのはほかにないでしょう。一見小汚く騒音に満ちていて、そこにいるだけで不快な街だったとしても、最高の思い出を宿す場所となることもあります。しかし、その街に到着した瞬間に好き嫌いを判断することはまずありません。恋人との関係も同様です。当初はさほど魅力を感じなかった相手であっても、その人を少しずつ知ることによって、当初は見えなかった魅力的な部分を認識するようになり、愛情を抱くようになるのです。もともと備わっている魅力に、あなたが気づかなかっただけなのです。
 これは私にかぎったことかもしれませんが、楽曲に関しては、聴く回数を重ねたからといって、“嫌い”から“好き”に転換するようなことはありません。“ダメ”な曲は、聴くたびに嫌いになっていくいっぽうで、それを何度も聴かされるのは拷問でしかありません。1曲通して聴く苦しみを味わうぐらいなら、部屋を出て行きます。しかし、“よし”と判断した曲の場合はこの正反対の反応となります。聴くたびに細部に新たな発見があり、耳に新たな響きをもたらします。興味がつきないのです。

“好き嫌いを即決させない楽曲”

 私は、リスナーが即座に好き嫌いを判断するのではなく、“少しずつ好きになっていく曲”の作曲法というのを試してきました。私は自らに問いかけます。どういった言葉、メロディ、サウンドを最初に持ってくれば、聴く者の興味を引くことができるだろう、リスナーに“こんな曲を期待していたんじゃないよ! でも面白そうだからもう少し聴いてみようかな”と思わせるのはいったい何なのだろうか、と。楽曲がセクションごとにモジュラー化し、その場所や順番が入れ替っても成立する多くのポップミュージックとは違い、この楽曲は最初から最後までが綿密に設計、構築されています。
 正直に言ってこの実験が成功と言えるかどうかは何とも言えないところです。それを証明できるほどのリスナーのサンプル数もなければ、私が想定していた形で作用しているのかもわからないからです。ただ、面白いアイデアであることは間違いありません。これは“好き嫌いを即決させるのではなく、その判断を保留させるように設計された楽曲”という美しいコンセプトなのです。楽曲のある“ポイント”を用いてリスナーに刺激を与えようと企てたり、リスナーの心をガッチリつかむことだけを意図した曲作りとは別物なのです。
 音楽とかけ離れたところでこれに似たものがあります。味覚です。最初の一口ではその魅力を理解できなかったものが、何度か口に運んでいるうちにその味の虜になってしまっていることってありますよね?
 私の楽曲は、果たして塩キャラメルアイスクリームになれるのでしょうか? 最初の一口の、甘味が舌に広がるほんの一瞬前、エッジの効いたビターな風味と塩味、そして冷たい刺激が渾然一体となると…“ん?”としかめっ面になった直後、フェイバリットソングとの出会いに気づくのです。

PROFILE

Benny Rubin

Benny Rubinベニー・ルービン

マーケティングおよびセールスの専門家。日本に断続的に10年近く住み仕事をしている。日本の主要なレーベル、映画会社、ブランド、広告代理店と豊富なマーケティングの仕事経験がある。連絡先は、b@bennyrubin.com

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