特集記事

2018.07.19

SPECIAL

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飯尾芳史さん 株式会社オフィス・インテンツィオ

名匠に聞く!
レコーディングエンジニア

飯尾芳史さん
株式会社オフィス・インテンツィオ

80年代にYMOのレコーディングに関わり、渡英しトニー・ヴィスコンティのスタジオにいた経験もある飯尾さん。アナログの魅力とともに、デジタルの可能性についても話してくださった。

text:今津 甲

アナログはいろんなメンバーでうまく構成されたチーム、
ハイレゾは全員4番バッター。

デジタルは音の立ち上がりが速くアナログはフワッと出てくる

飯尾さんはアナログ盤時代から打ち込み混じりの音楽を得意とする珍しい立場にありましたよね。

YMOの『BGM』(1981年)からはもうデジタルで録音してたんですけどね。

あ、そんな早くから! デジタル録音第一世代でもあったわけですね。

はい。上の世代の人からはよく「デジっ子」って言われてました(笑)。もっともビートルズの作品にしても、本当に再現できたのはデジタルリマスターとかされてからだと思うんですよ。彼らが60年代当時やってた、テープを使ったピンポン録音(限られたトラック数のなかで録音をするため、複数のトラックの音をミックスして空きトラックにまとめて入れてしまう録音方法)って、やればやるほどノイズが増えて最初のほうに入れた音は聴こえなくなったりする。それがデジタルになって“あ、こんな音も入ってたのか!”ってわかったりしましたから。そういうことからするとデジタルってすごくいいんです。あと編集もすごく便利。僕は編集のしやすさって部分で世の中が早くデジタルになるのを待っていたぐらいで。

ヘー!

ただ、音っていうところでいうとアナログのほうが優しいですよね。僕、左耳がすごく聴こえにくくなったことがあって、その理由がデジタル録音なんです。プロトゥールスの初期、(PC操作で)モニタースピーカーに対して横向きに座って作業していた期間があったんですけど、そしたらいきなり片耳がダメになっちゃって。

もし同じ配置のままアナログ環境で仕事していたらどうだったんでしょうね?

絶対大丈夫だったと思います。デジタルって音の立ち上がりが速いんです。アナログはフワッと出てくるけど、特に初期のデジタルは情け容赦なく無音からいきなりパーンと出てきた(笑)。当時のシンガーで「こんな音じゃ歌えない」って言って帰っちゃった方もいるぐらいで。

デジタルもアナログのようにフワッと音が出てくる感じになればいいですかね。

最近のデジタルはそういう設定もできるようになっていたりします。ただ、CDの場合、20~2万Hzの外はいきなりバッサリ切られていて、そこも耳に優しくない原因だったりする。なので僕は昔から、デジタル録音のなかでアナログなカーブを作るように心掛けてきたんですけどね。ゆるやかに低音が立ち上がって、ゆるやかに高音が減衰していく、という。最近はまたアナログ向けの仕事も再開したんだけど、作業としてすごく楽なんですよ。

というと?

デジタル上では“うーん、どうかなー?”と思う音でも、アナログ回路を通すと“お、いいじゃん!”ってなるんで(笑)。

近頃よくあるデジタルマスターから作られたアナログ盤はどう思われます?

利便性でやっている部分もあるんじゃないですかね? 歌の修正とかの編集はデジタルのほうが便利だからそっちでやって、っていう。あと、アナログ盤も外で聴こうと思ったらまたデジタルに録音するしかない。そうするとそこでデジタルな音になってしまいますよね。

飯尾さんのラックにはフェアチャイルドのコンプ、クオンテックのルームシミュレーターなど、ヴィンテージのアナログ機材もセット。

飯尾さんのラックにはフェアチャイルドのコンプ、クオンテックのルームシミュレーターなど、ヴィンテージのアナログ機材もセット。

アナログは100%完成された世界、デジタルはまだ伸びる余地がある

デジタルの進化形であるハイレゾについてはどんな印象ですか?

たまにハイレゾ向けの仕事もやっているんですけどね。ただ、僕らってそうじゃなくても録ってる音は(ハイレゾと同じ)96kHzだったりするんですよ。いつもはそれを44.1kHzにダウンコンバートしてCD向けにしている。だから特別なものじゃなんですよね。

ハイレゾもさらに上のレートのものまでありますが?

レートが上がれば上がるほどミックスって難しくなるんですよね。アナログの世界を、バントのうまい人、足の速い人…いろんなメンバーでうまく構成された野球チームでとらえるとしたら、ハイレゾって全員4番バッターみたいなもので。全部の音が“俺が俺が!”って感じで全然溶け合わないんです(笑)。だからアナログ時代よりマイクの距離を離すんです。お互いの音が少しでもかぶるように。

実はそういう面倒くささもあると。

そういうこともあるからアーティストはアナログの良さを追求するのもアリですよね。でもエンジニアはデジタルのこれからを見るべき。音の心地よさでいえば、アナログは100%完成された世界だけどデジタルはまだ30%ぐらいしか完成されてない。まだまだ伸びる余地があるんですよね。

Yoshifumi Iio

アルファレコードでYMOなどYENレーベル全般のレコーディングに関わり、1982年の細野晴臣『PHILHARMONY』でエンジニアデビュー。1983年に独立し渡英後、現在の会社を設立。