「音楽著作権」バイブル

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第15回 JASRACとNexToneの使用料規程と管理手数料

前回解説したように、文化庁に登録されている著作権等管理事業者は多数ありますが、 今回は、そのなかでも音楽著作物を管理する中心的な著作権等管理事業者であるJASRACとNexToneを取り上げ、その使用料規程と管理手数料を見てみます。

text:秀間修一(リアルライツ)

今回のポイント

(1)使用料規程はJASRACとNexToneで大きな違いはないが、管理手数料はNexToneのほうが安く設定されている。
(2)JASRACは、収支差額金が発生したときは委託者に還元している。

両事業者の概要と特色

 最初に、JASRACとNexToneという2つの著作権等管理事業者(以下「事業者」)の特色について触れます。
 まず、管理委託契約の種類ですが、JASRACは「信託契約」でNexToneは「委任契約」における「取次ぎ」です。この契約形態の違いのひとつは、前号でも触れましたが、信託契約の場合は、契約期間中、著作権が委託者(権利者)から受託者(事業者)に移転するので、管理作品が第三者に無断で利用された場合は事業者が著作権者となって訴訟を提起することができるのに対し、委任契約では著作権が事業者に移転しないので事業者に訴権はなく、無断利用に対して事業者が自ら法的対応をとることが困難とされている点にあります。
 管理範囲については、JASRACはすべての支分権と利用形態について管理しているのに対し、NexToneの場合は、文化庁長官に届け出ている管理委託契約約款上はすべての支分権と利用形態について管理するようになっていますが、現時点では演奏権については管理を行っていません。
 契約の対象者については、JASRACは著作者と音楽出版社が対象ですが、NexToneの場合は、原則として法人つまり音楽出版社のみであり、個人の作詞者や作曲者は契約できません。
 外国地域での管理については、JASRACは外国の127の管理団体と相互または片務の管理契約を結んでいますが、NexToneは一部の外国管理団体と片務の管理契約を締結しているにすぎません。
 管理委託契約を締結する際に委託者が支払う費用については、JASRACの場合は、信託契約申込金として、著作者は27,000円(税込)、音楽出版社は81,000円(税込)かかるのに対し、NexToneの場合は無料です。

(両事業者のホームページに掲載されている資料などをもとに作成)

使用料規程の意味と性質

 使用料規程は、事業者が管理する著作物等の使用料の額を定めたものであり、著作権等管理事業法によって文化庁長官への届け出を義務付けられている資料のひとつです。いったん届け出た使用料規程を変更しようとするときも届け出る必要があります。
 使用料規程には以下の事項を記載しなければなりません。
1.著作物の利用区分に応じた使用料の額
2.使用料規程の実施日
3.その他文部科学省令で定める事項(使用料規程において具体的な額を定めることが困難である場合におけるその決定方法など)
 使用料規程は使用料の額の上限規定なので、事業者は、実際の管理業務において、使用料規程に定める額を超えて使用料を請求することができません。ただし、利用者との交渉により使用料規程に定める額より安くすることは禁止されていません。

○使用料規程の策定および実施の条件
 事業者は、使用料規程を定めるときや変更しようとするときは、利用者またはその団体からあらかじめ意見を聴取するように努めなければなりません。また、JASR ACのように指定著作権等管理事業者(その利用区分におけるシェアが大きい事業者や、使用料規程がその利用区分における使用料の額の基準として広く用いられている事業者として文化庁長官が指定した事業者)は、その利用区分にかかる利用者代表(その利用区分において、利用者の総数に占めるその直接または間接の構成員である利用者数の割合、利用者が支払った使用料の総額に占めるその直接または間接の構成員が支払った使用料の額の割合その他の事情から当該利用区分における利用者の利益を代表すると認められる団体または個人のこと)から、文化庁長官に届け出た使用料規程に関する協議を求められたときは、これに応じなければなりません。
 事業者は、届け出た使用料規程の概要を遅滞なく公表する義務があります。また、文化庁長官が使用料規程の届け出を受理した日から30日を経過するまでは、当該届け出にかかる使用料規程を実施することができません。

○両事業者の使用料規程の概要
 JASRAC、NexTone両事業者の使用料規程において定められている主な利用形態についての原則的な使用料は次のページの表2の通りです。細かな条件は省略しています。詳細については各事業者のホームぺージをご覧ください。
 これを見ると、音楽DVD等への複製については考え方に違いがあるものの、ほかの利用形態については大きな差異はないようです。

※「調整係数」とは、当該DVD等に収録されているすべての音楽著作物の再生合計時間を、すべての音楽著作物の累計利用時間により除して得られる割合をいう。
※「累計利用時間」とは、当該DVD等に収録されている各著作物それぞれの利用時間の1分未満を切り上げたうえで合計したもの(分数)をいう。
※「指し値」とは、委託者が決める額をいう。

管理手数料とは

 管理手数料とは、事業者が利用者から徴収した著作権使用料を委託者に分配するときに控除する手間賃で、これが事業者の運営資金となります。
 管理手数料率は使用料の区分ごとに定められており、オーディオ録音のような有形的再生に属するものは管理が比較的容易ということもあり低い料率が設定されているのに対し、演奏のような無形的再生に属するものは管理が困難なことから費用がかさむので、料率も高めになってしまいます。

○両事業者の管理手数料率の比較
 両事業者が現在実施している管理手数料率は下の表3の通りです。
 これを見ると、JASRACよりNexToneのほうが料率が低く設定されていますが、JASRACの場合は、年間の管理手数料収入が年間の運営費用を上回って余剰金(収支差額金)が出たときは、これを翌事業年度に委託者に還元しています。また、JASRACは無断利用に対する訴訟費用も管理手数料収入でまかなっています。

 以上、JASRACとNexTone両事業者の使用料規程と管理手数料を比較して見てきました。著作権者としてどちらの事業者に管理委託すべきかの判断材料になれば幸いです。
 NexToneは法人のみ対象なので、著作者が直接NexToneと管理委託契約を締結することはできません。著作者がNexToneに管理してもらいたいと考えるなら、その前提としてNexToneと契約している音楽出版社と著作権譲渡契約を締結することが必要です。
 また、NexToneに管理委託する場合でも、コンサートなど演奏利用が多く見込まれる作品や、海外で多く利用されることが予想される作品については、それらの区分だけでもJASRACに管理委託することが望ましいと考えます。
 なお、音楽出版社によっては、著作者のニーズに合わせていくつもの事業部を作り、JASRACとNexToneに管理委託する支分権・利用形態の区分について様々な組み合わせを用意しているところもあります。

注)委託者が指定した使用料額が300万円以下の部分については8%、300万円を超え1,000万円以下の部分については2%、1,000万円以下の部分については1%を適用する。委託者が使用料を指定しなかったときは、複製の形態に応じ使用料規程所定の使用料の額をもって許諾することとなるから、これに対応する使用料の区分の実施料率を適用する。

最近の著作権ニュースから

text:秀間修一(リアルライツ)


JASRACの音楽教室における演奏等の管理について文化庁長官の裁定が出る

 音楽教室(JASRACは「楽器教室」と表現している)での演奏等についてJASRACが使用料を徴収する方針を発表して以来、これに反対する音楽教室事業者とJASRACとの間で様々な駆け引きが行われてきたが、本年3月、音楽教室の運営事業者等が結成した「音楽教育を守る会」(以下「守る会」)が文化庁長官に対して行った裁定の申請について文化庁長官の裁定が出た。
 この場合の「裁定」とは、著作権等管理事業法に規定されている使用料規程に関する手続きのひとつで、JASRACのような指定著作権等管理事業者に義務付けられている利用者団体との使用料規程に関する協議が不成立に終わった場合に、当事者が文化庁長官に申請できる。
 この間のJASRACと守る会の動きを整理すると次のようになる。
・2017年2月…JASRACが楽器教室における演奏等の管理開始にかかる方針を発表
・2017年2月…音楽教育事業を営む7つの企業や団体が「音楽教育を守る会」を発足
・2017年6月7日…JASRACが文化庁長官に「音楽教室における演奏等」を含む使用料規程を届け出る
・2017年6月20日…守る会がJASRACを被告として「音楽教室における著作物使用にかかわる請求権不存在確認訴訟」(音楽教室での演奏については演奏権がおよばないことの確認を求める訴訟)を東京地裁に提訴
・2017年7月4日…守る会がJASRACに協議を申し入れる(協議は不成立に終わり、文化庁長官が協議再開の命令を行ったが、なお協議が不成立に終わる)
・2017年12月21日…守る会が文化庁長官に対し裁定の申請を行う
・2018年3月7日…文化庁長官の裁定が出る
・2018年4月1日…JASRACが楽器教室での許諾手続きを開始

 守る会が裁定の申請にあたって求めたのは、「音楽教室における著作物使用にかかわる請求権不存在確認訴訟の判決が確定するまで当該使用料規程の実施を保留すること」というものであったが、裁定では、守る会が求める実施の保留は行わず、本裁定の日をもって実施の日とするとした。
 しかし、この訴訟が継続中であることから、裁定では、音楽教室における演奏について演奏権がおよぶことについて争う利用者(原告の立場に立つ音楽教室事業者)に対しては、司法判断等によって請求権が認められるまで個別の督促を行わないこと、また、演奏権がおよぶことについて争わない利用者に対しても、利用実態を踏まえ、利用者と適宜協議して適切な使用料の額とすることなどを求める通知をJASRACに提出している。
 この訴訟の判決が待たれるところである。

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