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2018.01.18

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株式会社ブリッジ代表取締役 木崎賢治さん

歌謡曲からロックまでプロデュース

木崎賢治さん 株式会社ブリッジ代表取締役

木崎さんは、渡辺音楽出版時代からたくさんの ヒット曲を世に送り出している音楽プロデューサー。 ここでは、今の時代にヒット曲を生み出すヒントを、音楽制作者たちに 愛を持って教えてくださった。 ヒットとは本来、かくあるべきなのだと思う。

text:吉田幸司 photo:岡本麻衣(ODD JOB LTD.)

音楽を聴くと同時に、リスナーは物語を聴いているんです。
だから、物語を語れる制作者やアーティストが必要なんですよね。

YouTubeでどうやったら聴かれるか考えて作るように

木崎さんご自身、もちろんヒット曲は大事だと思ってらっしゃいますよね。

あんまり思ってなかったです(笑)。前は世の中、アルバム志向が強かったですから。でも、今はみんながYouTubeで聴くようになったり、ダウンロードだったり、サブスクリプションで曲を聴くようになって、僕も1曲1曲にこだわる気持ちが強くなってきましたね。YouTubeでどうやったら聴かれるか考えて作るようになってきて、昔、沢田研二、吉川晃司、アグネス・チャンのシングルヒットを狙って1曲1曲にすべてを込めていたときの感覚が蘇ってきてます。

シングルが重要だった歌謡曲の時代と今のYouTube等の時代は、根本は一緒かもしれないということですね。

そうですね。それで、何年か前から洋楽がまたすごい好きになって。ケイティ・ペリーとかあのへんからいろいろ歌もののヒット曲が出てるじゃないですか。ヒップホップじゃなくて。そういう曲の多くはマックス・マーティンっていう人がプロデュースしているんですね。その人の曲の作り方っていうのが、昔、僕がシングル曲を作っていたのとすごくダブって、気持ちがすごくわかる感じがするんですよ。

それは、たとえばどういうところに感じるんですか?

ひとつは、メロディライティングですね。メロディのキュンとくるポイントとか。

それを具体的な言葉にはできます?

できますけど、ここではちょっと(笑)。

そこは企業秘密で(笑)。

アーティストには説明してますけどね、ここを大切にしたほうがいいっていうのは。聴いた感じで、メロディのキュンとくる感じが足りないなと思ったら、だいたいそこが抜けてるというポイントが2つ―いや、もっといっぱいありますね。それのどれかを使ってそこだけをちょっと直すと、すごいキャッチーになったりメロディックになったり切ない感じになったり。ヒット曲をいっぱい作った人はそこをだいたいわかってるんじゃないかな。それは音階的なことで、売れてる曲にはうまくそこが入ってることがやっぱり多いですね。

魔法のレシピがあるんですね。

自分のなかには法則みたいなのがたくさんあります。作るってことは、分解できないと作れないじゃないですか。洋服を作るのもそうですよね。袖はどうなってるんだろうとか襟の開き方とか。そういうのを研究しないと作れないから。音楽もそうで。適当にベースとかキックが入っていればいいっていうものじゃなくて、ひとつひとつに意味があって入れてるんだから、無駄なものが本当にまったくないですよ。

だから、自分がカッコいいと思った曲があったら、それをとことん聴いて分解してみることが大事だと。

あと僕は、今流行ってるものじゃないものを作りたいなっていうのがずっとあって。ないものを作りたいなって。

つまり、木崎さんにとって、ヒットは結果であると。

あ、でもヒットさせなくちゃいけないと思って作ってますよ、全部。野球の選手でも、イチローとかバッターボックスに入ってるときは毎回ヒットを出してやろうと思ってるに決まってるじゃないですか。で、毎回100%の力でやってるけど、3割くらいしか打てないわけで、7割は失敗してるわけだから。僕もそういう意味ではまったく一緒で、ヒット曲を出すための100%の集中力で、知識と感性をフル動員させて仕事してますし、そのためのトレーニングもずっとやっています。

同じやり方でそれを超えられるヒット曲はないと思う

そのひとつがさっきおっしゃっていた好きな曲の分解ですね。ちなみに2017年の年間ヒットチャートには2016年リリースの曲が多いんですけど、木崎さんはこれをどう分析されますか?

たぶんいろんなものがうまくからみ合って立体的に聴かれたんじゃないですかね、そういう曲たちのほうが。でも、僕は音楽を作ってるんだけど、音楽っていうのは聴いてくれないんだなって思っていて。

どういうことですか?

今の時代、“聴かれる”んだなと思って。YouTubeでも6割7割は画を観てるんだと思うんです。音楽がメインじゃなくて画のほうが強い。音楽を作っていてこういうことを言うのはあれだけど、最近そういうふうに音楽の存在感が弱くなっている気がします。目から入る情報のほうが耳から入る情報より圧倒的に強いですから、しょうがないんですけど。

そうやって音楽が弱くなってしまった原因は何だと思います?

作るほうももっとがんばりたいと思っていて。レコード会社のA&Rも宣伝も。今日本でヒットしてる曲をお手本にして次の曲を作ることが多いと思うんですよ。その人のなかに音楽やヒット曲に対するフィロソフィがないんだと思うんです。制作者で、自分で新しいものを生み出せる人は1割か2割くらいいますね。あとの人は、その人たちの真似をする。選ぶ人もそんな感じがします。

一度ヒットしたやり方をそのまま踏襲しているという。

だから一回ヒットが出たやり方はもうやめたほうがいいのにって思うんです。同じやり方でそれを超えられるヒット曲はないと思うし。なぞったら8割7割って絶対劣化していくわけで。自分も昔ヒットチャートを気にしながら音楽を作ってたときに、なかなか1位を取れなくて。そのときの感想で、1位になってる曲っていうのは、突拍子もない曲だなって思うんですよ。想像を超えるものが1位になってる。ピコ太郎もそうですよね。どうやったらあんなこと考えられるの?って。ああいうのが1位をさらっていく。

新しいものってないんですよ。組み合わせが新しいだけ

もはや発明ですよね、あれは。

ものを作るって、まさにあれだなと思って。今まで誰も思いつかない2つを組み合わせるっていう。たとえば鉛筆に消しゴムがついてるのあるでしょ。あれを考えた人も偉いなと思うんだけど、それまでに鉛筆もあったし消しゴムもあったわけじゃないですか。それをひとつにしようと考えただけなのに、普通の人はそれができない。

ペンとパイナップルを普通はくっつけないですからね(笑)。でもその違うものを合わせたら、そこに新しいものが生まれた。

だから、すべてに新しいものってないんですよ。組み合わせが新しいだけ。ベックを最初聴いたときもビックリして。アコースティックギターでヒップホップで、メロディはちょっとビートルズっぽくてみたいな。EDMでいうと、アヴィーチーの「Wake Me Up」っていう曲もEDMなのにアコースティックギターでっていう。それもピコ太郎と一緒ですよね。

ペンパイナッポーと。

だからBABYMETALはすごいなと思う。アイドルとヘヴィメタルをくっつけたわけですから。

組み合わせで考えると可能性は無限大ですからね。

そう。何でも組み合わせしかないんだなと思って。結局、化学元素ってあるじゃないですか、HとかOとか。H2O自体がペンパイナッポーだから。水素と酸素がくっついて水ができてるわけだから。

確かに。いきなり水が生まれたんじゃなくて、酸素と水素というすでにあるものをくっつけて水ができたわけですからね。

だから好きなものを集めてくればいいんですね。だけどその混ぜるっていうこともなかなかできない。そのくらい柔軟でいたいですね。それと、次の問題として媒体。ラジオのDJとかそういう人が自分が本当に感動している音楽をかけているかどうか。アーティストが感動して作ったものを、レコード会社の人も感動して選ぶ。それを、こんな良い曲だって感動してかけるメディアの人も少ない気がします。なんかもう流れ作業でかけてる感じがして。

それだと感動はなかなか伝播しないですよね。

そう。感動って伝播するものですから。その個人から出てくる感動は必ず伝わるはずですから。で、アーティストももっと音楽を語ったほうがいいと思うんです。今はあんまり語られなくなっていて。だから音楽に物語がなくなってきている。音楽にストーリーがないと立体的になっていかないから。どんなときに作ったとか、どんなふうに作ったとか、このギターがどうでとか、このアンプがこうでとか、こういうところで録音したから鳥の声が入ってんだよねとか、いろんなストーリーがあるはずなのに、コンピュータでやると余計そういうのがなくなっちゃうんですかね。

お城で録ったからリバーブがすごいとか、そういう物語も楽しいですからね。

音楽を聴くと同時に、リスナーは物語を聴いているんです。だから、物語を語れる制作者やアーティストが必要なんですよね。

足りないことを補う。だから、なぞっちゃいけない

ご自分が関わられたなかで特に勉強になったことがあればそれも教えてください。

曲作りで阿久悠さんと仕事をしたときですね。沢田研二で、阿久悠さんの詞に大野克夫さんがメロディをつけることがあって。大野さんは詞に沿うんじゃなく、詞と逆のメロディをつける。詞に足りないことをメロディで補うみたいな。阿久悠さんの詞も沢田研二にないものを詞に表していくんですよ。だから、なぞっちゃいけないんだなって。たとえば「勝手にしやがれ」という詞も沢田研二の二枚目のカッコいいイメージと逆の、ちょっと情けない詞でした。“ワンマンショーで”という歌詞があって、自分は恥ずかしいなって思ったの。だけど、沢田研二が歌ったらすごくカッコ良くなって。どんなものでもカッコ悪いものをカッコ良くできる人がヒーローになっていくと気づきました。こんなことは今でも制作するうえで忘れないようにしています。

ギャップのある相反する要素で補い合うことで、曲やアーティストの個性が生まれていくということですね。

詞と曲、アーティストが離れていればいるほど、包容力のある曲になれる可能性が高くなると思います。

profile

1946年生まれ。これまでに沢田研二、アグネス・チャン、吉川晃司、槇原敬之、山下久美子、大澤誉志幸、福山雅治、TRICERATOPS、BUMP OF CHICKENらをプロデュース。著書に『ものを作るということ』(銀色夏生との対談)。

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