「音楽著作権」バイブル

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第12回 権利制限規定

これまで、著作者の権利である「著作権」、また、実演家やレコード製作者などが 有する「著作隣接権」という権利について解説してきました。今回はそれらの権利が例外的に 働かなくなる規定である「権利制限規定」を取り上げます。権利制限規定に該当すれば、 楽曲や原盤などのコンテンツが無断で使われても、権利者は文句を言えないことになります。

text:秀間修一(リアルライツ)

今回のポイント

(1)著作物や実演等を例外的に権利者に無断で利用できることを定めた規定を「権利制限規定」と言い、著作権の制限規定と著作隣接権の制限規定がある。
(2)著作物等を個人的にまたは家庭内など限られた範囲内で使用することを「私的使用」と言い、そのためには著作物等を権利者に無断で複製することができる。私的使用のための複製はもっとも一般的で重要な権利制限規定と言える。
(3)権利制限規定の適用を受けて作成した著作物等の複製物を、その使用目的以外の目的に使うこと(複製物の目的外使用)は禁止されている。

権利制限規定とは

 著作権法では、著作物・実演・レコード・放送・有線放送を、一定の例外的な場合には、その権利者(著作物については著作権者、実演・レコード・放送・有線放送については著作隣接権者)に無断で利用できる制度を設けています。つまり、著作権や著作隣接権を制限しているわけです。これが権利制限規定です。権利制限規定は、私的使用目的のほか、主として教育・福祉・報道などの目的で著作物等を利用する場合に適用されます。
 権利制限規定は、利用者にとっては、他人のコンテンツを合法的に無断利用できるありがたい規定ですが、権利者にとっては、自分の権利が制限されてしまうわけですから、非常につらい規定と言えます。

著作権の制限規定と著作隣接権の制限規定の関係
 著作権法では、著作権が制限される場合は、原則として、これに関係する著作隣接権も制限されることになります。たとえば、著作権の制限規定の適用を受けて市販の音楽CDに収録されている音楽の著作物を複製すると、実演とレコードも同時に複製することになりますが、著作隣接権の制限規定により、これらの複製についても無断で行うことができます。  本稿では、著作権の制限規定を中心に解説します。

権利制限規定と著作者人格権・実演家人格権の関係
 権利制限規定は財産権である著作権や著作隣接権を制限する規定であって、人格権は制限されません。したがって、著作物や実演を権利制限規定の適用を受けて無断利用することができる場合であっても、同一性保持権や氏名表示権など著作者や実演家が持つ人格権については、通常の利用と同様の配慮が必要となります。

複製物の目的外使用の禁止
 権利制限規定の適用を受けて作成した著作物等の複製物を、その使用目的以外の目的に使うこと(目的外使用)はできません。たとえば、私的使用目的でコンサートでのアーティストの実演を録音したものを頒布したり公衆に聴かせたりすると目的外使用となり、録音行為自体が違法(著作者の複製権及び実演家の録音権の侵害)となってしまいます。

主な権利制限規定の内容

 ここから権利制限規定の中身の解説に入りますが、多岐にわたる権利制限規定のなかから、特に重要と思われるものや音楽業界に関係の深いものを選んで解説します。

1. 私的使用のための複製(第30条)
 この規定は、個人的にまたは家庭内など限られた範囲内で使用すること(これを「私的使用」と言う)を目的とする場合は著作物を無断で複製(コピー)することができるというものです。ただし、複製行為は、原則として使用する本人が行う必要があります。
 具体的には、テレビやラジオの番組をあとで視聴するために録画・録音すること、CDを車のなかで聴くために車載のハードディスクに音を取り込むこと、自分で歌ったり演奏するためにネット上の歌詞カードや楽譜をプリントすることなどが該当します。
 ほとんどの人が頻繁に私的使用のための複製を行っていると考えられるので、この規定は、私たちが日常生活を営むうえでもっとも恩恵を受けている権利制限規定と言うことができるでしょう。
 ただし、この制限規定は以下の場合には適用されないので、注意が必要です。
 (1)店頭などに設置されている複製機器(コンビニなどに置いてあるコピー機で文献複写のみに用いるものについては当分の間除外される)を使ってコピーする場合
 (2)コピーガードを解除して、またはコピーガードが解除されたものであることを知りつつコピーする場合
 (3)違法にアップされているものであることを知りつつ、そのサイトから録音・録画する(つまり音楽や映像をダウンロードする)場合

2. 引用(第32条)
 著作権法32条1項では、「公表された著作物は、引用して利用することができる」として、自分の著作物のなかに他人の著作物を取り込んで用いることを条件付きで適法化しています。著作物を引用して利用することができる場合は、その著作物を翻訳して引用することも可能です(43条)。
 他人の著作物を適法に引用する場合の条件は次のようなものです。

(1)引用する著作物が公表されたものであること
 引用して利用することができるのは、公表された著作物に限られます。未公表の著作物の引用は許されません。なお、権利者に無断で公表された著作物は、著作権法上は未公表として扱われるので注意が必要です。

(2)公正な慣行に合致するものであること
 公正な慣行とは、著作権法の解説書によれば、まず、他人の著作物を引っ張ってくる必然性がなければなりません。典型的には、報道・批評・研究などの目的で、自説を裏付けたり補強したりするために他人の説を引っ張ってきたり、他人の学説等を論評するためにその著作物を引っ張ってきたりすることです。
 また、引用した部分と自分が創作した部分を区別する必要があります。言語の著作物であれば、引用部分を鍵カッコでくくるなどの対応が求められます。

(3)正当な範囲内であること
 正当な範囲内とは、著作権法の解説書によれば、自分の著作物が「主」で、引用する他人の著作物が「従」の関係でなければならず、また、引用の分量も必要最小限にとどめることです。
 正当な引用目的から外れる場合、また、引用の目的は正当であっても、自分の著作物よりも他人の著作物のほうが多くなる場合や、必要以上に取り込みたい場合は、いずれも著作権者の許諾を得なければなりません。

(4)引用した著作物の出所を明示すること
 これは48条に規定されている条件です。出所の明示とは引用した著作物の出どころを明らかにすることで、出版物からの引用であれば、出版物名・著作者名・出版社名などを表示することです。また、出所明示は引用した著作物に隣接して行うことが必要です。
 出所明示は、複製して引用する場合は必ず行う必要があり、複製以外の方法で引用する場合は、慣行に従って行うこととされています。
 以上の各条件のうち(1)〜(3)の条件に反して引用した場合は著作権侵害となりますが、(4)の条件については、違反しても著作権侵害にはなりません。ただし、出所明示義務違反の罪(122条)に問われます。

3. 営利を目的としない上演等(第38条)
 38条では、営利を目的とせず観衆・聴衆から料金を受けないなど一定の条件を満たす場合には、著作物を無断で上演・演奏・上映・有線放送・貸与など無形的に利用できることを定めています(放送はこの規定の対象外)。無許諾で利用できる場合の条件は、利用形態により第1項から第6項に分けて定められていますが、ここでは、音楽の利用に関係の深い第1項の規定、つまり著作物を無断で上演・演奏・上映・口述することができるケースについて説明します。
 条件は次の4つです。
 (1)公表された著作物であること
 (2)営利を目的としていないこと(非営利)
 (3)観衆・聴衆から料金をとらないこと(無料)
 (4)出演者等に報酬が支払われないこと(無報酬)
 以上の4条件のうち「営利を目的としていないこと」(非営利)とは、その著作物の利用が直接的にも間接的にも利用者の営利につながらないことを言います。したがって、聴衆から料金をとらないイベントで音楽を演奏する場合であっても、何かの商品の販売促進のためのイベントであれば、そのイベント自体に収益性はなくても、営利目的と判断されます。
 次に、「観衆・聴衆から料金をとらないこと」(無料)とは、著作物を観衆・聴衆に提供・提示することの対価をとらないという意味です。この場合、イベントの必要経費だけを入場料として設定することも料金とみなされます。
 また、「出演者等に報酬が支払われないこと」(無報酬)とは、著作物の実演・口述を行う者に、演奏料や出演料などが支払われないことです。なお、出演者等に実費程度の交通費や食事代を支給するのは、ここで言う報酬の支払いに該当しません。
 この規定に該当するものとしては、学校などの学芸会や演奏会、公民館での上映会などが考えられます。
 なお、この規定によって無断で演奏等ができる場合、出所明示の慣行があるときは出所明示を行うことが義務付けられています(48条1項3号)。

4. 放送事業者等による一時的固定(第44条)
 44条は、放送事業者や有線放送事業者は、公衆送信権を侵害することなく放送・有線放送することのできる著作物については、その手段として無断で一時的に録音・録画すること(一時的固定)ができるとする規定です。
 事前に収録された番組を放送することの多い現在では、この権利制限規定は重要な意味を持ちます。特に音楽業界にとっては、楽曲・実演・レコードがほとんどの放送番組に使われていることを考えるととても重要な規定なので、詳しく解説します。
 まず、23条1項に規定の「公衆送信権」を侵害しないで放送・有線放送を行うことができる状態にあることが一次的固定の前提となります。つまり、著作物を放送・有線放送することについて、公衆送信権の許諾を得ているか、権利制限規定が適用されるか、あるいは裁定を得ていることが必要です。
 公衆送信権と複製権は別個の権利なので、本来であれば、著作権法63条4項に規定されているように、放送・有線放送(公衆送信)とは別に録音・録画(複製)の許諾を得ないかぎり番組の収録はできないわけですが、放送・有線放送することについて著作権を侵害していない著作物を、放送・有線放送のために一時的に固定しても複製権の侵害としないというのがこの規定の趣旨です。
 また、この規定は、102条1項の準用規定により著作隣接権についても適用されますが、この場合、23条1項の「公衆送信権」は、「実演」については「放送権と有線放送権」(92条1項)、「放送」については「再放送権と有線放送権」(99条1項)、「有線放送」については「放送権と再有線放送権」(100条の3)と、それぞれ読み替えることになります。ただし、放送を受信して行う有線放送については同時再送信が原則なので、一時的固定は認められていません。なお、「レコード」については放送権や有線放送権など公衆送信権に相当する権利はそもそも著作権法上に規定されていないので、すべてのレコードについて放送や有線放送のための一時的固定が可能となります。
 次に、この一時的固定の規定が適用される範囲や条件ですが、まず、この規定が適用されるのは、放送事業者や有線放送事業者が自ら制作する番組、つまり「局制作」の番組でなければなりません。外部に委託して制作する番組についてはこの規定が適用されないので、収録することの許諾が必要となります。ただし、放送事業者については、1項の「当該著作物を同じく放送することができる他の放送事業者の手段により」という条文の規定により、キー局がネットする番組についても一時的固定が適用されます。この場合、収録する著作物の放送に関する権利処理がネット局のぶんまでなされている必要があります。なお、有線放送事業者は放送のようなネットワークがないため、この条文がありません。
 2番目の条件は、収録した著作物を収録後または放送・有線放送後6ヶ月を超えて保存することができない、つまり6ヶ月以内に消去しなくてはならないということです。ただし、政令で定める公的記録保存所においてはその後も保存することができます。
 このように解説すると、音楽業界の契約担当者は、「うちの原盤が外部制作番組で使われているのに利用申請がないのはなぜか」とか、「うちの原盤が使われている番組が何年も経ってから再放送されることがあるが、これはレコードを複製して6ヶ月以上保存していたことになるのではないか」などの疑問を持たれるかもしれません。しかし、実はこれらの行為はきちんと権利処理がなされているのです。
 実演家の報酬請求権を管理している公益社団法人日本芸能実演家団体協議会(芸団協)・実演家著作隣接権センター(CPRA)とレコード製作者の報酬請求権を管理している一般社団法人日本レコード協会はそれぞれNHKや民放連と商業用レコードの二次使用料について契約を結んでいますが、そのなかで、実演やレコードの外部制作番組の放送用録音と局制作番組の保存についても取り決めがなされているのです。また、有線放送についても同様の取り決めがなされています。つまり、商業用レコードの二次使用料のなかには、実演やレコードが44条の権利制限規定の範囲を超えて放送・有線放送番組に録音され、あるいは保存されることに対する許諾料も含まれているのです。
 レコードに固定されている実演の放送・有線放送番組への利用については、各プロダクションは一般社団法人日本音楽制作者連盟や一般社団法人日本音楽事業者協会を通じて芸団協・CPRAに委任しており、また、レコードの放送・有線放送番組への利用については、大手のレコード会社は直接レコード協会に委任し、インディーズのレコード会社の場合はインディーズの協会を通じて、また、音楽出版社などの原盤制作者は一般社団法人日本音楽出版社協会を通じてそれぞれレコード協会に委任をしているため、放送局は、実演やレコードのこのような利用について、プロダクションや原盤制作者に直接許諾を求める必要はないのです。
 なお、音楽著作物が44条の権利制限規定の範囲を超えて放送・有線放送用に録音され、それが保存され、また、音楽著作物を音源サーバーに蓄積することについては、JASRACなどの著作権等管理事業者が集中管理しています。

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