「音楽著作権」バイブル

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第9回 創作活動と権利その5(著作物の流通に関する権利)

著作権は著作物が複製されたり再生されたりするときに働くだけでなく、 著作物の原作品やその複製物が流通する場面でも働くことがあります。 今回取り上げる「頒布権」や「譲渡権」などの支分権がこれに該当します。 これには、著作者に著作物の流通をコントロールする権利を付与することによって 著作者の経済的利益を保護しようという狙いがあります。

text:秀間修一(リアルライツ)

今回のポイント

(1)展示権は、美術の著作物と未発行の写真の著作物の原作品だけに適用される。
(2)頒布権は、映画の著作物だけに適用される。
(3)譲渡権と貸与権は、映画以外の著作物に適用される。
(4)譲渡権は、一度適法に譲渡された物については権利が消尽する。
(5)貸与権は、著作物の原作品の貸与については適用されない。

展示権(第25条)

 美術の著作物と未発行の写真の著作物には「展示権」という支分権が与えられています。展示権は、美術の著作物と未発行の写真の著作物を、それらの原作品によって公に展示する権利です。展示権があるのは原作品つまりオリジナルによる展示だけですので、複製物による展示の場合は、展示権は働きません。
 また、写真の著作物の場合は、原作品とコピーの区別が困難であることから、未発行のものにかぎって展示権を認めています。したがって、写真集として出版されているなど発行済みの写真については、その原作品による展示であっても展示権は働きません。
 なお、美術の著作物の原作品はひとつだけとはかぎりません。手刷りの版画などは原作品が複数存在し得ます。
 展示権は「公に展示」する権利なので、展示権の対象となる著作物であっても、これを個人の家の居間などに飾ることについては、権利がおよびません。

展示権の制限(第45条)
 展示権は45条の権利制限規定(美術の著作物等の原作品の所有者による展示)によって働きが制限されます。すなわち、美術の著作物もしくは写真の著作物の原作品の所有者またはその同意を得た者は、美術の著作物の原作品を屋外の場所に恒常的に設置する場合を除いて、著作権者の許諾を得なくても、これを公に展示することができます(「屋外の場所」とは、「街路、公園その他一般公衆に解放されている屋外の場所又は建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所」を言います)。
 したがって、美術館で絵画展を行う場合、その主催者は、展示したい絵画について、その所有者の同意を得るだけで足りることになり、原画の所有者は、著作権者の同意を得ないでも絵画展などに貸し出すことができます。また、美術の著作物の原作品は、後述する「貸与権」の対象外になっているので、原画の所有者は、展示以外の目的でもこれを貸し出すことができることになります。

「追及権」について
 ここで、美術の著作物に特有の支分権である「追及権」について簡単に触れます。
 追及権とは、美術の著作物の原作品がオークションやディーラーの仲介によって転売された場合、その著作物の著作者や相続人等がその販売価格の一部を徴収することができる権利を言います。この権利は譲渡したり放棄したりすることができないとされています。
 美術の著作物の著作者である画家や彫刻家などの芸術家は、音楽や文学作品の著作者と異なり、創作した美術の著作物の原作品の販売代金を主な収入源としています。このため、無名時代に安く販売した作品が、その後有名になって高値で転売されてもその恩恵に預かれません。そこで、その救済措置として制定されたのが追及権です。
 追及権はフランスで最初に導入され、その後ベルギーやイタリアなどでも導入され、現在ではEU加盟の各国で採用されています。
 我が国の著作権法では、美術作品の公開競売制度が確立されていないことから、追及権は採用していません。

頒布権(第26条)

 26条1項で、「著作者は、その映画の著作物をその複製物により頒布する権利を専有する。」と規定し、映画の著作物の著作者に頒布権を付与してします。もっとも、29条1項の規定により、映画の著作物の著作権は映画製作者に自動的に帰属してしまうので、頒布権は映画製作者が持つことになります。
 頒布とは、「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい、映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物にあつては、これらの著作物を公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与することを含むものとする。」と定義されています(2条1項19号)。
 この規定により、映画の著作物の著作権者は、その複製物の頒布先(譲受人や借受人)や頒布場所を指定したり、さらには頒布期間を限定したりすることが可能となります。
 頒布権は映画の著作物に特有の権利ですが、映画の著作物以外の著作物であっても、26条2項により、映画の著作物に複製されているものについては、その映画の著作物の複製物の頒布について頒布権が発生します。
 頒布権は、劇場用映画フィルムの配給権などとの関係から、いったん適法に頒布されても消尽しない権利とされています。しかし、中古ゲームソフトの頒布権について争われた事件の上告審での最高裁判決(2002年4月25日「中古ゲームソフト差止請求事件」判決)により、公衆に提示することを目的としないビデオソフトやゲームソフトなどは、映画の著作物ではあっても、いったん適法に譲渡されたあとは、頒布権のうちの「譲渡」についての権利は消尽することになりました。

譲渡権(第26条の2)

 著作権法第26条の2第1項では、著作物の譲渡権について規定しています。
 譲渡権は、著作物をその原作品または複製物の譲渡によって公衆に提供することを許諾する権利です。なお、映画の著作物と映画の著作物において複製されている著作物については、譲渡権を含む権利である「頒布権」が認められているため、譲渡権の対象から除外されています。
 譲渡権は、著作物の公衆への譲渡に対して働く権利なので、公衆に該当しない「特定かつ少数の者」への譲渡については権利がおよびません。
 同条第2項では、譲渡権の適用を除外する場合が規定されており、以下に該当するものについては譲渡権が働かないことになります。
 (1)譲渡権を有する者またはその許諾を得た者により公衆に譲渡された著作物の原作品または複製物
 (2)文化庁長官の裁定または許可を受けて公衆に譲渡された著作物の複製物
 (3)裁定中の著作物の利用規定にもとづいて公衆に譲渡された著作物の複製物
 (4)譲渡権を有する者またはその承諾を得た者により特定少数の者に譲渡された著作物の原作品または複製物
 (5)国外において、譲渡権に相当する権利を害することなく、または譲渡権に相当する権利を有する者もしくはその承諾を得た者により譲渡された著作物の原作品または複製物

 以上の適用除外規定を簡単に言えば、いったん適法に譲渡されたものについては譲渡権が消尽し、以後の譲渡については譲渡権が発生しないということです。たとえば、レコード店で買ったCDは譲渡権が消尽しているので、これを中古CD店に売り渡しても譲渡権侵害にはなりません。
 著作物の複製物に関する譲渡権が消尽しているかいないかは、複製物ひとつひとつについて個別に判断されるので、たとえばお店で正規に買ったCDは譲渡権が消尽し、レコード会社の倉庫から盗み出されたCDは譲渡権が生きているというように、同じ品番の複製物であっても、物によって譲渡権が存在していたり消尽していたりするわけです。
 また、海賊版(無断複製物)は譲渡の許諾も得ていないと考えられるので、海賊版を買った者がこれを公衆に再譲渡すると、次に解説する113条の2の規定に該当しないかぎり譲渡権の侵害になります。

譲渡権に関する特例

第113条の2(善意者に係る譲渡権の特例)
 著作物の原作品若しくは複製物(映画の著作物の複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を含む。)を除く。以下のこの条において同じ。)、実演の録音物若しくは録画物又はレコードの複製物の譲渡を受けた時において、当該著作物の原作品若しくは複製物、実演の録音物若しくは録画物又はレコードの複製物がそれぞれ第26条の2第2項各号、第95条の2第3項各号又は第97条の2第2項各号のいずれにも該当しないものであることを知らず、かつ、知らないことにつき過失がない者が当該著作物の原作品若しくは複製物、実演の録音物若しくは録画物又はレコードの複製物を公衆に譲渡する行為は、第26条の2第1項、第95条の2第1項又は第97条の2第1項に規定する権利を侵害する行為でないものとみなす。
 この条文は、著作物やレコード等の円滑な流通に配慮する観点から、善意無過失の者が行う違法譲渡については譲渡権を侵害していないものとみなす特例を規定したものです。
 つまり、譲渡権が消尽していない著作物やレコード等の譲渡を受けた者が、譲渡権が消尽していないことを知らず、かつ、知らないことについて過失がない場合(このような状況を「善意無過失」と言います)は、それを公衆に再譲渡しても譲渡権の侵害とはしないということです。
 善意無過失かどうかの判断基準は著作物やレコード等の「譲渡を受けた時」なので、その時点で善意無過失であれば、その後これを公衆に再譲渡する時点で悪意となった、つまり譲渡権が消尽していないことを知ったとしても、当該再譲渡行為は譲渡権侵害行為ではないとみなされます。
 なお、この規定が適用された著作物やレコード等については譲渡権が消尽していないので、その後の違法譲渡については、再びこの規定が適用されないかぎり譲渡権の侵害となるので注意が必要です。

貸与権(第26条の3)

 著作権法第26条の3では、著作物の貸与権について規定しています。
 著作物をその複製物の貸与によって公衆に提供する権利が貸与権です。なお、映画の著作物と映画の著作物において複製されている著作物については、貸与権の対象から除外されています。それは、これらの著作物には貸与権を含む権利である「頒布権」が認められているからです。
 貸与権は、貸レコード業の出現によって経済的損失を被っている著作権者を救済する目的で創設された経緯もあって、この権利の創設当時は、書籍のレンタルについては、楽譜などを除き適用されませんでした。しかし、その後の法改正により、現在ではCDなどの録音物のほか書籍・雑誌等のレンタルについても貸与権がおよぶことになりました。
 貸与権は譲渡権と同様、公衆向けに行うときに働く権利なので、公衆に該当しない特定少数の者にCDや本などを貸すことについては権利がおよびません。
 いっぽうで、貸与権は譲渡権と異なる点もあり、著作物の複製物にしか権利が認められていません。これは、特に絵画などの場合、その原作品に貸与権をおよぼしたとしても、所有権との問題で権利の実体がなくなってしまうことなどの理由によるものです。また、著作物の複製物が一度適法に貸与されても権利が消尽しないことも譲渡権と異なる点です。

貸与権の制限
 38条4項では貸与権の制限について規定しています。それによれば、公表された著作物の複製物の非営利かつ無料の公衆への貸与については貸与権がおよびません。図書館などの公共施設において行われている本や視聴覚資料などの貸出しサービスがこれに該当します。

著作権としての貸与権と著作隣接権としての貸与権の比較
 著作権としての貸与権と、以前この講座で解説した著作隣接権としての貸与権とでは、権利の内容に大きな違いがあります。
 この違いを表にすると次のようになります。

最近の著作権ニュースから

text:秀間修一(リアルライツ)


NexToneが新使用料規程による業務を開始

 音楽著作物の著作権等管理事業者であるe-LicenseとJRCが昨年2月1日に合併して誕生した株式会社NexToneは、合併後も前身となる2社がそのまま事業部という形態を保って業務を行ってきたが、いよいよ本年4月1日から、統一された新しい「管理委託契約約款」と「使用料規程」による管理業務を開始した。
 JASRACとNexToneの違いは、管理委託契約の種類(前者は信託契約、後者は委任契約の取次方式)や管理範囲(前者は全支分権/利用形態、後者は演奏権以外)などの基本的な事項のほか使用料率や管理手数料率にも見られるが、特徴的なのは、JASRACにくらべNexToneのほうが規定に柔軟性を持たせている点であり、それは、使用料の免除・軽減の範囲や方法によく表れている。
 規定に柔軟性があるということは、委託者つまり権利者側にとって使い勝手が良いという利点がある反面、時として「プロモーションになるのだから使用料を安くしてほしい」とか「免除してほしい」という利用者の意向に委託者が押し切られる危険性をはらむ。これに対し、JASRAC管理の場合は、規定の非柔軟性を盾にこれを拒むことが可能である。
 委託者にとってどちらが望ましいのか、悩ましいところではある。

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