「音楽著作権」バイブル

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第8回 創作活動と権利その4(著作物の無形的利用に関する権利)

今回は、著作者が持つ財産権としての著作権のうち、著作物を無形的に利用するときに働く権利である「上演権」「演奏権」「上映権」「公衆送信権」「伝達権」および「口述権」の6つの支分権を取り上げて解説します。音楽業界ではこれらの支分権のうち「演奏権」と「公衆送信権」が特に重要です。

text:秀間修一(リアルライツ)

今回のポイント

(1)著作物の無形的利用に関する権利は、公衆に直接見せ、または聞かせることを目的として行うときに働くので、自宅での演奏等については権利が働かない。
(2)著作物を無断でインターネットにアップロードするとアクセスがまったくなくても公衆送信権の侵害になる。
(3)「非営利・無料・無報酬」の場合は、公表された著作物を著作権者に無断で上演、演奏、上映または口述することができる。

 前回解説した「複製権」は著作物を有形的に利用するときに働く権利ですが、これに対し、今回取り上げる「上演権」「演奏権」「上映権」「公衆送信権」「伝達権」および「口述権」は、いずれも形に残らない利用形態に関する権利です。

上演権・演奏権(22条)

 著作権法22条では、「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下『公に』という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。」と規定し、著作者に「上演権」と「演奏権」を与えています。
 「上演」とは、「演奏(歌唱を含む。)以外の方法により著作物を演ずること」(2条1項16号)を言います。したがって、音楽の著作物を演じるときに働く権利が演奏権で、舞踊や無言劇の著作物、また、演劇や落語や漫才の台本のような言語の著作物など音楽の著作物以外の著作物を演じるときに働く権利が上演権ということになります。
 22条にもあるように、著作物の無形的利用に関する権利を規定する
条文には「公に」という用語が頻繁に出てくるので、まずこの用語の意味から解説します。  22条で、「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的」とすることを「公に」と定義しています。「公衆」については、2条5項で「この法律にいう『公衆』には、特定かつ多数の者を含むものとする。」と規定しています。したがって「不特定の者」だけでなく「特定多数の者」も「公衆」に該当します。換言すれば「特定少数の者」以外は公衆ということです。
 「直接見せ又は聞かせる」という条件には、聴衆の面前で演奏したり上演したりする場合はもちろんのこと、演奏や上演をしている場所には聴衆や観衆はいなくても、その模様を回線等で結んで別の場所にいる公衆に見せたり聞かせたりする場合も含まれます。
 上映権や演奏権は「公に」行うときに働くので、公に行われない上演や演奏については、権利が働きません。たとえば、家で家族の前で芝居をしたり歌ったりすることは、公衆を対象としたものではなく特定少数の者が相手なので、また、舞台やコンサートのリハーサルで上演したり演奏したりすることは、公衆に見せまたは聞かせることを目的としていないので、いずれも上演権や演奏権は働かないことになります。
 演奏権が働くのは、典型的には、コンサート会場、ライブハウス、カラオケボックスなどでの生演奏ですが、CDなどに録音した音楽を再生するときにも演奏権が働くので(2条7項)、喫茶店、スナック、デパート、遊園地などでの再生演奏や、ファッションショー、シンクロナイズドスイミング、新体操、サーカスなど再生演奏をともなうイベントや競技会での音楽利用にも演奏権が働いてきます。公に音楽が流れるところでは、ほとんどのケースで演奏権が働いてくるものと考えて良いでしょう。
 ところで、著作物を利用する際は、その利用主体とされる者つまり「利用者」が著作権者の許諾を得、使用料を支払わなければなりません。では著作物を上演したり演奏したりする場合、その利用者は誰なのでしょうか。それは、著作物を演じている実演家でも、イベントが行われている会場の持ち主でもなく、そのイベントの主催者です。もちろん、実演家自身が主催する場合や会場の自主公演の場合は、それらの者が利用者となります。
 また、お店でカラオケを伴奏にお客が歌う場合やライブハウスで出演者が生演奏を行う場合の利用者は、それらの施設の経営者です。カラオケ施設での歌唱やライブハウスでの生演奏に関する利用主体についてのこのような考え方は、裁判の積み重ねにより確立されたものです(末尾の「最近の著作権ニュースから」参照)。

上映権(22条の2)

 著作者は、著作物を公に上映する権利である「上映権」を専有します。上映とは、「著作物(公衆送信されるものを除く。)を映写幕その他の物に映写することをいい、これに伴つて映画の著作物において固定されている音を再生することを含むものとする。」と定義されています(2条1項17号)。
 上映権は、以前は映画の著作物にかぎって認められていましたが、その後の法改正によって、映画の著作物以外の著作物の場合も、スクリーンやディスプレイ画面などに映写して公衆に提示するとこの権利が働くようになりました。
 なお、定義にもあるように、映画の著作物の上映にともなって、映画に固定されている音楽や言語の著作物が再生されることも上映にあたります。したがって、フィルムコンサートを行うときに働く音楽著作権に関する支分権は、演奏権ではなく上映権になります。

公衆送信権(23条1項)・伝達権(23条2項)

 23条1項で「公衆送信権」を、同条2項で、公衆送信される著作物を受信機を用いて公に伝達する権利である「伝達権」を規定しています。
 「公衆送信」とは、「情報を公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うこと」です(2条1項7の2号)。公衆によって「直接受信」されることを目的とする送信を対象としているので、情報制作者と情報発信者の間を有線でつないで情報の電気信号を流す行為は、公衆送信に該当しません。また、同一事業者における同一構内での送受信については、プログラムの著作物を送信する場合を除き、公衆送信から除外されます(2条1項7の2号)。
 著作権法では、公衆送信を次のように4つに分類しています。
 まず、同一の内容の送信が同時に公衆によって受信されることを目的とするもの(同一の情報を一斉に送信するもの)と、情報の送信をユーザーからの求めに応じて行うものに分類し、さらに、前者の送信を、無線による送信(放送)と有線電気通信による送信(有線放送)に分け、後者の送信を、これを自動的に行うもの(自動公衆送信)とそうでないもの(たとえばFAXサービスのようなもの)に分けています。
 ユーザーからの求めに応じた送信について、これを自動的に行うものとそうでないものに分類しているのは、自動的に行うものに「送信可能化」の権利を付与するためです。
 また、同一の情報を一斉に送信するものについて、無線である「放送」と有線である「有線放送」に分類したのは、条約上保護の義務を負うのが「放送」だけなので、両者を区別する必要があったからです。
 これらの分類を図式化すると図1のようになります。
 公衆送信権は、著作物を放送、有線放送、自動公衆送信などの方式により公衆送信することを許諾する権利ですが、このうち自動公衆送信を行うときに働く公衆送信権には「送信可能化」を許諾する権利(送信可能化権)も含まれます。

送信可能化とは
 「送信可能化」は著作権法の2条1項9の5号において定義されていますが、簡単に言うと、インターネットに接続されているサーバーに情報を入力したり、情報が入力されているサーバーをインターネットに接続したりして自動公衆送信を可能な状態にすることです。
 このように、送信可能化権は、自動公衆送信を可能にする行為に対して働く権利なので、著作物を無断でインターネットにアップロードすると、実際には自動公衆送信は行われなくても公衆送信権の侵害になります。
 なお、自動公衆送信について働く公衆送信権(送信可能化権付きの公衆送信権)を、放送や有線放送など自動公衆送信以外の公衆送信について働く公衆送信権と区別して「自動公衆送信権」と呼ぶことがあります。つまり「公衆送信権+送信可能化権=自動公衆送信権」というわけです。「音楽配信」は自動公衆送信なので自動公衆送信権が働きます。
 「伝達権」とは、公衆送信される著作物を、受信装置を用いて公に伝達するときに働く権利で、たとえば、テレビやラジオの放送を受信してそれを店内のお客に見せたり聞かせたりするときに働きます。ただし、権利制限規定により、通常の家庭用受信装置による伝達については、伝達権が働きません(38条3項)。

図1 公衆送信の著作権法上の分類

口述権(24条)

 言語の著作物を公に口述する権利が「口述権」です。著作権法では口述を、「朗読その他の方法により著作物を口頭で伝達すること(実演に該当するものを除く。)をいう。」と定義しています(2条1項18号)。朗読以外の口述の方法としては、演説や講演などが考えられます。なお、言語の著作物を実演すると上演権が働くことになります。
 録音された口述を再生するときにも口述権が働きます。ただし、映画の著作物に録音された口述を再生するときは、口述権ではなく上映権が働きます。
 口述権は、小説、詩歌、論文など言語の著作物に特有の権利ですが、音楽の著作物のうち「歌詞」は言語の著作物でもあるので、歌詞を朗読すると演奏権ではなく口述権が働くことになります。

非営利、無料の場合の演奏権等の制限

 次に、上演権、演奏権、上映権、口述権を制限する規定について解説します。
 38条1項では、営利を目的とせず、かつ観衆や聴衆から料金を受け取らないなど一定の条件を満たす場合は、公表された著作物であれば無許諾で公に上演し、演奏し、上映し、または口述することができると定めています。この規定が適用される典型的な例としては、学校などでの学芸会や演奏会、公民館での上映会などが考えられます。
 この権利制限規定の前提となる条件を箇条書きに整理すると次のようになります。なお、これらの条件に加え、48条1項3号の規定により、慣行があるときは出所明示(著作者名の表示など)を行う義務が生じます。
(1)公表された著作物であること
(2)営利を目的としていないこと(非営利)
(3)聴衆・観衆から料金をとらないこと(無料)
(4)出演者等に報酬が支払われないこと(無報酬)
 これらの条件のうち「営利を目的としていないこと」(非営利)とは、その著作物の利用が直接的にも間接的にも利用者の営利につながらないことを言います。したがって、商品のキャンペーンイベントなどで音楽を演奏することは、イベント自体は収益を目的としていないものの、商品の販売促進を目的としているので営利目的と判断されます。
 次に、「聴衆・観衆から料金をとらないこと」(無料)とは、著作物を聴衆・観衆に見せたり聞かせたりすることの対価を徴収しないことですが、この場合、イベントの必要経費だけを入場料とすることも料金とみなされます。
 また、「出演者等に報酬が支払われないこと」(無報酬)とは、著作物の実演・口述を行う者に演奏料や出演料などが支払われないことです。なお、出演者等に実費程度の交通費や食事代を支給するのは、ここで言う報酬の支払いに該当しません。
 ところで、38条1項の権利制限規定は、著作物を翻案等により利用することまでは認めていないので(43条)、音楽を無断で編曲して演奏することはできないことになります。もちろん、この場合の「編曲」とは、著作権法上の編曲、つまり二次的著作物と評価できるような創作性のある編曲を言います。したがって、原曲をボーカル担当のキーに合うように移調するとか、伴奏をバンド編成に合わせて手直しする程度のことは、そもそも編曲に該当しないので問題にはなりません。
 音楽の発表会やコンクールで音楽を器楽演奏する場合などに、音楽出版社に対して編曲の許諾を求める問い合わせが入ることがありますが、これは、38条1項の権利制限規定によって無断で演奏できる場合であっても、編曲については許諾を得る必要があるからです。
 しかし、筆者の権利者サイドと利用者サイドの両面での経験からは、無断で演奏できる場合に編曲の許諾を求めるケースは少なく、二次的著作物に相当するような編曲を無断で行って演奏してしまうことのほうが多いような印象を受けます。そもそも音楽を演奏するには著作権者の許諾が必要という大原則すら知らない人がいるなかで、無断で演奏できる場合であっても編曲の許諾は必要となることを知っている人などほとんどいないのが現状ではないでしょうか。
 なお、無断演奏が可能なケースで編曲の問い合わせがあった場合、音楽出版社は、その演奏の収録物を頒布しないことを条件に編曲を認めることが多いようです。
 余談ですが、JASRAC管理作品を編曲したり訳詞したりすることを許諾する権利(著作権法27条の権利)はJASRACではなく音楽出版社が管理しています(音楽出版社のついていない作品は著作者が管理)。このへんのことはいずれ詳しく解説します。

最近の著作権ニュースから

text:秀間修一(リアルライツ)


news01 JASRACシンポジウム「カラオケ著作権管理30年」開催される

 2月9日、有楽町朝日ホールにおいてJASRAC主催のシンポジウムが開催された。今年は、1987年にJASRACがカラオケ店での演奏使用料の徴収を開始してから30年にあたることから、上記のようなタイトルでの開催となった。
 JASRACがカラオケ店での演奏使用料を店の経営者から徴収することの正当性は、1988年の「クラブ・キャッツアイ事件」の上告審で最高裁が「カラオケで歌唱しているのは物理的には客だが、客は店の管理のもとに歌唱しており、店はそれによって利益の増大を図っているのだから、著作権法上の規律の観点からは店の経営者による歌唱と同視できる」という趣旨の判決を出したことにより確定した。この「規範的利用主体論」は「カラオケ法理」とも呼ばれ、その後の著作権関係の裁判における利用主体論に大きな影響を与えている。
 1971年に8トラックテープにより誕生したとされるカラオケはその後急速に普及発展し、カラオケカセットテープ、静止画付きカラオケ、ビデオカラオケ、CDオートチェンジャー式カラオケ、カラオケボックスの登場、通信カラオケへと進化を遂げ、現在に至っている。
 JASRACはこの間、当初は5坪までのお店に適用されていた使用料免除措置を廃止するなどカラオケの管理率(全カラオケ店に占めるJASRAC契約店の割合)の向上と使用料の増額に努め、その結果、2015年度におけるカラオケ管理率は91.4%に達し、使用料徴収額は127億6千万円にのぼったそうだ。この間のJASRACの努力と関係団体の協力に敬意を表したい。

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