特集記事

2017.01.19

SPECIAL

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激論!音楽業界は「今」どうあるべきか──

次世代プロデューサー&マネージャー座談会

Rew Kubayashi/宍戸亮太/田村 優/松川将之/柳井 貢/渡辺淳之介

音楽シーンは常に変化している。それに柔軟に対応するには、ユーザーの気持ちが肌感覚でわかる若い感性が必要であるはず。そこで今回は、今現場で勢いのある20〜30代のマネージメントスタッフに集まっていただき、それぞれのこだわりや、音楽シーンを活性化するにはどうしたらいいのかなどを討論していただいた。

text:柴 那典 photo:内海裕之

Rew Kubayashiさん、松川将之さん、渡辺淳之介さん、柳井 貢さん、田村 優さん、宍戸亮太さん

音楽業界は変化に対して腰が重いと思う。でも、いろんなものを変えていかないと。

テーマ1「マネージメントスタイル」

みなさんがアーティストをマネージメントするうえで大事にしているところはどんなところでしょうか?

宍戸僕はまずアーティストの意図や思いをくんで、それを伸ばすということですね。マネージメントをしているSEKAI NO OWARIというアーティストは、いろんなアイデアを自由に言ってくる。そこに最大限ブレーキを踏まず、どう形にできるかということを意識しています。

渡辺僕は真逆ですね。僕はもともとつばさレコーズでBiSを担当していたんですが、解散に伴って2年前に独立して、今はBiSHとGANG PARADEと再結成したBiSの3組の女性アイドルグループをマネージメントしています。基本的には何もできない素人の女の子をいかに輝かせるかというところに注力しているので、それを実現するためにどうするかを自分で考えて、その方向に言うことをきかせることが多いです。

Kubayashi僕の担当しているCrossfaithとはほぼ同世代で、もともと今の事務所に入る6年くらい前からプライベートでもつきあいのある友達だったんですね。自分は世界中で戦えるアーティストを手掛けたいと思っていて、彼らにめぐりあえた。でも、ただの仲良しでやっていてもしょうがない。まだ20代なかばを過ぎたくらいの歳とはいえ、あと10年、20年続けていくためにどうすればいいかを、バンドだけじゃなくメンバー個人個人の活動の目線も含めて考えるのが大事だと思っています。

松川僕は2017年で結成20周年を迎える10-FEETのマネージメントをずっとやってきたんですが、彼らとは学生の頃からの仲間なんですね。で、去年からヤバイTシャツ屋さんのマネージメントも始めた。そこで、バンドとマネージャーにこんなにも距離があるということに初めて気づいたんです。これまで10-FEETというバンドに関しては、ある種一人称的な立ち位置でかかわってきた。でも、最近はあまりそういう考え方をしないように気をつけています。

柳井は以前cutman-boocheという同世代のバンドを担当していて、そのときは機材車を運転してバンドと一緒に車で寝泊まりするような二人三脚の関係性でした。ただ、今はヒップランドで奇妙礼太郎とbonobosを担当しながら、MASH A&Rというオーディションで出会ったTHE ORAL CIGARETTESのマネージメントもしています。どのミュージシャンもお手伝いをさせてもらっている感覚ですが、人によって距離も関係性も全然違いますね。

田村僕はsupercell、livetune、八王子Pなど、ボーカロイドを使ったクリエイターやアーティストの事務所の代表をやっています。10組以上のアーティストが所属しているので、やっぱり常にケースバイケースで考えていますね。

Rew Kubayashiさん

「海外はマネージャー同士のつながりがすごく強いんです。極力現地に行って、直接会ってコミュニケーションを取るようにしています」
Rew Kubayashiさん(1990年生まれ)
株式会社ソニー・ミュージックアーティスツ アーティストマネージャー 担当アーティスト:Crossfaith

テーマ2「やらないと決めていること」

みなさんスタンスは違いますが、これはやらないと決めていること、これをやったらアーティストにとってマイナスになると思うことはありますか?

Kubayashiやっぱりアーティストのイメージを守るためのボーダーラインはありますね。カッコ良く見せるというのが大事なので。特に今の時代はSNSでファンにとってもアーティストのプライベートや裏側が見えやすくなっているので、それをどこまで出すかというコントロールは気をつけています。

渡辺僕も女の子たちに最初に注意するのはSNSについてですね。特にTwitterでは政治の話をしない、人の悪口を書かないというのは言っています。マイナスなことも基本的にはつぶやいてほしくない。僕が一番人の悪口を言ってるんですけど(笑)。

宍戸さんはどうでしょう? SEKAI NO OWARIは前例のないことをやることも多いですよね。

宍戸「できない」ということは極力言わないようにしています。彼らのイメージが大きく進化したタイミングが2013年にやった“炎と森のカーニバル”というライブだったんですけれど、そのときは、まず自分たちの頭にあるものを具現化したいという話がメンバーからあった。野外に30mの巨大樹を立てて、ステージ以外の空間も装飾してその全体を楽しんでもらいたい、と。ただ、最初のミーティングでは、様々な制約で「できない」という話ばかりだったんです。でも、メンバーには実現したい強い思いがあって。あるタイミングから、やれない理由じゃなくてやれる方法を考えようということになった。そこからスタンスが変わりました。

“炎と森のカーニバル”は制作費5億という話を聞きました。

宍戸大赤字でした(笑)。でも、あれをやったこと、やらせてもらったことで彼らの世界観が大きく成長できた。必要なことだったと思います。

宍戸亮太さん

「あるタイミングから、やれない理由じゃなくてやれる方法を考えようとなった。そこから大きく成長できた」
宍戸亮太さん(1982年生まれ)
株式会社TOKYO FANTASY 取締役 SEKAI NO OWARIチーフマネージャー 担当アーティスト:SEKAI NO OWARI

松川僕も否定から入らないようにしています。特にヤバイTシャツ屋さんとは世代も価値観も全然違う。SNSの使い方も違います。たとえばヤバTのメンバーから「僕らのお客さんにはHPで告知してもあんまり意味ないんで」と言われたことがあって。実際、HPよりTwitterで情報を出したほうが大きく反応があった。自分のなかの常識で考えたらダメだと思います。

柳井僕は、基本的に嘘をつかないということを意識してますね。正直になる、正確に伝える、ということが大事というか。もともと改めて考えなくてもそうあるべきだとも思うのですが、2016年はいろいろなことがあって。ミュージシャンが遅刻してライブをキャンセルせざるを得なかったときにどう対応するかで問題になったり、グッズの通販で受注生産と表記し販売開始したパーカーが、1時間で上限に達してしまい、お客さんに混乱を生んでしまったりとか。実際はこれ、セミオーダーのような形でボディ自体には在庫数の上限があったんです。プリントを選べますよ、という意味で使った受注生産の言葉に正確性が足りなかった。そういうこともあって、本人に対しても、世の中に対しても、嘘をつかないというのはすごく大事だということを痛感した1年でした。

田村僕もアーティストやクリエイターに嘘をつかないというのは大事にしています。どうしても伝言ゲームになってしまうところを、できるだけ透明度を上げる。きっちり話が伝わるようにしようと心掛けています。

テーマ3「長所を伸ばすための施策」

これまで「やらないこと」を聞きましたが、担当するアーティストの強みを伸ばすために意識していることはありますか?

渡辺とにかくニュースになるようなことをやろうというのはありますね。たとえばBiSは、アイドルなのに全裸で森を走っているというニュースが話題になって知名度を上げたこともあって。僕はセックス・ピストルズのマネージャーだったマルコム・マクラーレンが大好きなので、音楽と関係ないところでニュースを作ろうとするのは、そこへの憧れが強いせいかもしれないです。

田村 優さん

「音楽業界にもっと若い子たちが入ってくるためには、楽しそうな雰囲気、空気感をうまく出したいと思っています」
田村 優さん(1980年生まれ)
株式会社インクストゥエンター 代表取締役 担当アーティスト:supercell、EGOIST、livetune、八王子Pほか

Kubayashi僕の場合は土俵が国内だけじゃないので、情報収集には時間をかけています。イギリスやアメリカやオーストラリアで、今誰に勢いがあるのか、何が流行ってるのか、それをできるかぎり調べる。それに、海外はマネージャー同士のつながりがすごく強いんです。その関係性でパッケージツアーが決まって、ブッキングエージェントは書面の手続きだけをするような状況もある。なので極力現地に行って、電話、メールだけじゃなく、直接会ってコミュニケーションを取るようにしていますね。もうひとつは、アーティストに1年後、2年後、5年後と、どういう場所に立ちたいかをイメージさせられるようにしています。大きな目標だけでなく、1つめのゴール、2つめのゴールと細かく設定する。

松川10-FEETにも昔、夢を持ってほしいという話をしました。そこから時系列を縮めて考えてほしい、と。2〜3年先の夢は“目標”になる。その目標を今日や今週にまで近づけたら“課題”になる。夢を決めれば、今やるべきことを判断できる。たとえ今やりたくないことがあっても、目標のために必要なことだったらやらない意味がないという。それに、アーティストの活動はお客さんに夢を売ることで成り立っている。お客さんを満足させるため、アーティストがストレスなく活動するために必要な嘘であれば、僕はありだと思います。何事もバランス感覚が大事なんじゃないかと思っています。

田村さんはどうでしょう? ライブを中心に活動しているアーティストとはスタンスが違うと思いますが。

田村うちはクリエイターが多いですし、締め切りがどうしても存在する。たとえばアニメのタイアップでは、1〜2年先の話があったりもする。なのでスケジュールをうまく調整できるようには心掛けていますね。クリエイターは無理すると体調を崩してしまうので、健康管理も意識しています。

松川将之さん

「業界の定休日が変わったらいいんじゃないかと思うんです。日曜日と月曜日を休日にしてほしいです」
松川将之さん(1977年生まれ)
株式会社BADASS 取締役/チーフA&R 担当アーティスト:10-FEET、ヤバイTシャツ屋さん

テーマ4「海外進出の際の注意点」

海外進出についてもおうかがいしたいと思っています。まずKubayashiさんはCrossfaithを海外に広めていくうえで、どんな手応えがありましたか?

Kubayashi日本でイチからライブハウスをまわっていくのと同じ作業を海外でもやってきたんで、かなり大変でした。最初はホテルも1部屋だけとって、そこに全員で寝泊まりするような感じで。今はようやくアメリカ以外の国では収支的に黒字になるワールドツアーが組めるようになった。それをこの先はより広めていきたい。でも国や地域によって攻め方が全然違うので、難しいですね。日々研究しているところです。

メンバーは英語に関してどれくらい堪能だったんですか?

Kubayashi僕は海外経験もあったので英語は多少できたんですが、メンバーは自分が仕事を始めた頃は全然話せてなかったです。でも、海外で通訳を介してインタビューを受けている日本のアーティストの動画を見せて「こうなりたいか」と聞いたら、「こうはなりたくない」と言って。実際、海外のPR会社の人と話すと、日本のアーティストがつまずく一番大きい理由はメディアとの関係作りがヘタだからだと言うんですね。会話の流れが生まれなくて、アーティストの思っていることがダイレクトに伝わらないからだ、と。そこから徐々に英語を話せるようになっていきました。今は、海外ツアーのときは現地のスタッフを雇っているし、アーティスト同士も仲良くなりたいから、英語でフランクにコミュニケーションが取れるようになっています。

SEKAI NO OWARIの海外進出に関してはどうでしょう?

宍戸僕もメンバーが英語を話せるというのは必要だと思います。メンバーは一軒家に4人で住んでいるんですが、そこに外国人のシェアメイトもいて、英語を使える環境にしている。最初にアメリカに行ったときにはまったくコミュニケーションも取れなかったんですけど、今は向こうでレコーディングセッションをやれば自分たちだけでも話をできる。海外用のチームもあって、向こうにいるときには基本的に英語で会話します。アメリカに関しては「SEKAI NO OWARI」じゃなくて「End of the World」として、アメリカでデビューする新人バンドだというスタンスでやっているんです。実際、やっていくなかでいろんな発見はありますね。リリースに向けて徐々に見えてきたところです。

柳井 貢さん

「バブリーな時代はもう戻ってこない。今のスタンスとスタイルでどう面白いことをするかを、自分たちの立ち振る舞いも含めて考えていきたい」
柳井 貢さん(1981年生まれ)
株式会社ヒップランドミュージックコーポレーション 制作本部 制作 チーフ/株式会社MASH A&R 担当アーティスト:奇妙礼太郎、bonobos、THE ORAL CIGARETTES

レコーディングのときに発音の先生をつけてもらったという話も聞きました。

宍戸3人くらいつけてもらいました。1人は歌詞や発音をチェックして、1人は歌をチェックする。もう1人は会話とかインタビューで必要な英語をトレーニングしている。それをやってきて、歌に関してはネイティブの人が聴いても自然に入ってくるレベルにだんだんなってきています。やっぱり、せっかく音楽を届けたいのに、それ以前のところで突き抜けられなくなるデメリットは排したいと思うんですね。「Foreign」というイメージは避けたい。それは悪い意味で「外国っぽい」ということなんです。でも、それを突き抜けると「Unique」になる。オリジナルで独自なものというイメージが生まれる。そこのバランスは数年やってきて学んだことです。

田村うちはアニメにかかわりのあるアーティストも多いので、海外のファンがすごく多いです。アニメはネットを通してすごく観られていますからね。そもそもうちは初音ミクを使って作った曲や動画で有名になったというのもあって。ネットを通じて、特にアジアにはファンがたくさんいる。それは大きいですね。なので楽曲制作やプロモーション、コミュニケーションにおいての英語の使い方にはとても力を入れています。

テーマ5「音楽業界に対しての提言」

最後に、今年の展望と、音楽業界に対しての提言はありますか?

宍戸10年前、20年前とは、音楽の聴き方もとらえ方も変わっていると思うんですね。音楽がエンタテインメントとしてどう人に求められているかを真剣に模索しないといけないと思います。そのためには、いろんな基準も変えていかないといけない。語弊を恐れず言うと、音楽業界は変化に対して腰が重い業界だと思うんです。でも、いろんなものを変えていかないと音楽業界自体が魅力的になっていかないと思います。

田村音楽業界にもっと若い子たちが入ってくるためには、業界が厳しいという話だけじゃなく、楽しそうな雰囲気、空気感をうまく出したいというのは思っていますね。

柳井バブリーな時代はもう戻ってこない。でも、今のスタンスとスタイルでどう面白いことをするか。自分たちの見られ方や立ち振る舞いも含めて考えていきたいなと思います。

Kubayashi自分は19才のときにこの業界に入ったんですけれど、おととしくらいに、早稲田大学で『音楽で食べていく』という講座のゲスト講師に呼ばれたことがあったんです。100人くらい集まったうち半分が裏方になりたい人だった。で、当時は24才で、「こんなに歳の近い人がやっているとは思いませんでした。すごく刺激になりました。私もがんばりたいと思います」と言ってくれた人が多かったんですね。実際にそこにいた子で業界で働き始めた人もいて。だから、僕らがカッコ良くあることもすごく大事だと思うんですけど、大学とか専門学校とかに出向いて話をするだけでも親近感がわくんじゃないかと思います。

渡辺淳之介さん

「とにかくニュースになるようなことをやろうというのはありますね。僕はマルコム・マクラーレンが大好きなので、そこへの憧れが強いせいかも」
渡辺淳之介さん(1984年生まれ)
株式会社WACK 代表取締役 担当アーティスト:BiS、BiSH、GANG PARADE、BILLIE IDLE(R)

松川音楽業界に入った10代や20代の若い子たちに続けてほしいんですよね。昔は大変でもやりがいがあるから続いたと思うんですけど、今はそういう時代じゃない。そのために今日は絶対に言おうと思ってたことがあって。

というと?

松川突拍子もないことを言うんですけれど、業界の定休日が変わったらいいんじゃないかと思うんです。この業界、土日や祝日にライブがあって、そこに仕事があるのは決まっている。でも休みがなかったら続かない。ライブが一番少ないのは月曜日だし、事務所とイベンターに関しては月曜日を休みにするのがいいんじゃないかと思うんですね。ただ、平日に休みがあるだけだと、違う業種の人と合わないし、家族とすれ違ったりする。だから日曜日と月曜日を休日にしてほしいです。

渡辺今は休みを取りづらいですよね。でも若い子が続けてやっていくためには、そうしないといけない。

田村フレックスにしていくというのもいいと思います。

長時間労働を是正していくのは世の中全体の流れでもありますからね。

松川ただ、こういう問題は1人で発信しても状況が変わらないので、同志を増やしたいんですよね。

柳井足並みがそろわないと変わらないこともありますけれど、そこを目指してやっていくということを打ち出すのは不可能じゃないと思いますね。

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