「音楽著作権」バイブル

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第5回 創作活動と権利その1(著作物と著作者)

このシリーズではこれまで、アーティストが行う活動のうち「実演」と、その実演を収録した「原盤」にかかわる権利について解説してきましたが、今回からしばらくは、「創作活動」にかかわる権利について解説します。ここでの「創作活動」とは、「著作物」を創作する活動のことを言います。1回目は、基本中の基本である、著作物とは何かということと、誰が著作者になり得るのかということについて解説します。

text:秀間修一(リアルライツ)

今回のポイント

(1)著作物とは、思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものを言う。
(2)著作者とは、著作物を創作する者を言い、会社や団体が著作者になる場合もある。

アーティストと創作活動

 アーティストは、自分(たち)で歌ったり演奏したりする曲を自分(たち)で作詞・作曲することが多いと思います。また、エッセイや小説等を執筆したりイラストや漫画を描いたりするアーティストもいるでしょう。映画をプロデュースするアーティストもいるかもしれません。これらは著作物を創作する活動であり、特に作詞や作曲は、歌唱・演奏等の実演活動とともに、アーティストの本分である音楽活動を構成する重要な要素です。

著作物の定義とは

 著作権法では、「著作物」について「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義しています(2条1項1号)。
 この定義で述べられている著作物であるための要件を分解して説明すると、次のようになります。


1.「思想又は感情」が入っていること
 「思想又は感情」が入っていることが著作物であるための最初の要件です。したがって、山の高さや川の長さなどのデータは著作物ではなく、機械が自動的に撮った写真や映像なども思想や感情の入る余地がないので著作物とは言えません。また、あくまでも「人間」の思想または感情であることを前提としているため、チンパンジーが絵を描いたとしても、著作物を創作したことにはなりません。

2.「創作的」であること
 次に、「創作的」であることが要求されます。創作的というのは、クリエイティブであるということです。既存の作品の単純な模倣は創作的とは言えないので、著作物を創作したことにはならず、既存の著作物を複製したにすぎません。また、簡単なキャッチフレーズやスローガンや単なる言葉の羅列も創作性はなく、著作物とは言えません。
 なお、著作物の題号(タイトル)は、それ自体に創作性がないかぎり著作物ではないので、ほとんどの場合、著作権はないと思われます。実際、JASRAC(日本最大の音楽著作権管理団体。正式名称は「一般社団法人日本音楽著作権協会」)のデータベース「J-WID」を検索すると、同一タイトルの楽曲が無数に存在します。もし、これらの楽曲のタイトル自体に著作権が存在するとしたら、作詞者や作曲者は自作の曲に既存曲のタイトルを使えなくなってしまいます。

3.「表現したもの」であること
 3番目の要件は「表現したもの」であることです。「思想や感情」が頭のなかにあるだけではダメで、それを、口述、文字、楽譜、図画など人が知覚できる形でアウトプットしなければ表現されたことにはなりません。また、アイデア、構想、理論などは、それ自体は著作物ではないので著作権法では保護されません。そのアイデアを文章などに表現したものが著作物であって、その表現が保護の対象となるのです。
 なお、「表現した」ではなく「表現したもの」とひらがなで表していることからもわかるように、著作権法は著作物が固定・収納されている有体物を保護するのではなく、表現されている「無体物」を保護の対象としています。

4.「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」であること
 上記の3要件を満たしていても、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属さないものは著作物に該当しないことになります。

へたでも著作物
 以上の4点が著作物であるための要件です。ということは、著作物であるための要件に、芸術性や表現力についての優劣や巧拙は含まれないことになります。つまり、「うまい、へた」は関係ないのです。したがって、幼稚園児が描いた稚拙な絵であっても、素人が撮ったスナップ写真であっても、自分なりの思想・感情を表現していると考えられるので、経済的価値の有無は別として、立派な著作物なのです。
 ただし、表1に出てくる「建築の著作物」については「建築芸術」とも言うべき芸術性が必要とされるので、建売住宅など平凡な建物は「建築の著作物」に該当しません。
 なお、著作物であるためには何かに固定されている必要はありません。即興演奏された音楽も著作物として保護の対象となります。ただし、「映画の著作物」にかぎっては固定要件があります。

具体的にどういうものが著作物か

 著作物であるための要件は以上の通りですが、具体的にどういうものが著作物なのでしょうか。
 著作権法では、10条で著作物を例示しています。また、これとは別に、11条で「二次的著作物」、12条で「編集著作物」、12条の2で「データベースの著作物」についてそれぞれ規定しています。これらをまとめたのが次の表です。

 このように多くの種類のものを著作物として例示していますが、表1の?から?はあくまでも例示なので、これらのどれにも属さないと思われるものであっても、2条1項1号の定義を満たしていれば著作物になり得ます。たとえば、囲碁や将棋の「棋譜」は著作物と考えられているようです。また、生放送されたテレビ番組は放送時点では物に固定されていないので映画の著作物に該当しませんが、多くの番組は作り手の思想や感情が創作的に表現されていると思われるので、何らかの著作物と考えられます。


著作権のない著作物もある
 著作権法では13条で「権利の目的とならない著作物」という条項を設け、憲法や法律、国や地方公共団体が発する通達、裁判所の判決などの著作物については、著作権法による保護の対象から除外しています。これは、法令や通達などは国民に広く開放し、自由に利用してもらい、その内容を周知させる必要があるからです。
 これら著作権のない著作物の翻訳物や編集物で国や地方公共団体などが作成したものも自由利用が可能です。ただし、民間が作成した判例集や法令集(編集著作物)には著作権があるので、注意が必要です。

応用美術は美術の著作物か
 絵画や彫刻など芸術としての美術(純粋美術)を実用品に応用する美術を「応用美術」と言いますが、この応用美術については、物品のデザインの保護を目的とする意匠法による保護の対象となるため、著作権法でも重複して保護する必要がどの程度あるのかという議論があります。
 著作権法では、「『美術の著作物』には美術工芸品を含むものとする」と規定しており(2条2項)、応用美術のうち壺などの一品製作の手工的な美術作品を指す「美術工芸品」については美術の著作物として保護する旨を定めています。いっぽう、美術工芸品以外の応用美術については、従来の裁判例では、意匠法等の産業財産権制度との関係から、純粋美術と同視できるような高度の美術性が認められる場合にかぎり著作権法による保護の対象となるという考え方が一般的でした。つまり、応用美術の著作権法による保護のハードルはかなり高かったわけです。
 そんななか、最近の裁判で「TRIPP TRAPP チェア」という幼児用椅子が著作物と認定され(TRIPP TRAPP事件/知財高裁平成27年4月14日判決)、大きな話題となっています。
 この判決では、応用美術には利用目的が様々あり、表現形態も多様であるから、高い創作性の有無を応用美術の著作物性の判断基準に一律に適用すべきではなく、個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきであるとし、その結果、当該椅子は作成者の個性が発揮されているとして、美術の著作物に該当するとしました(著作権侵害は否定)。
 この判決により、今後応用美術の著作権法による保護のハードルが大きく下がる方向に流れが変わるのか、注目されます。

AI(人工知能)による創作物は著作物か
 最近、AI(人工知能)技術の進歩に関する報道が相次いでいます。主なものは以下の通り。
・AIに小説を創作させる研究をしている大学教授らが、第3回日経「星新一賞」にAIの創作による4作品を応募したところ、その一部が一次審査を通過した。
・イギリスのケンブリッジ大学出身者を中心としたクリエイターのグループが、AIを利用した楽曲作成オンラインサービス「Jukedeck」を公開した。
・米国Googleでディープラーニング(深層学習)プロジェクト「Google Brain」に取り組むグループが、楽曲やアートを自動生成する「Magenta」プロジェクトを始動させた。
・将棋のプロ棋士の代表とAIを使った将棋ソフトの代表が戦う第1期電脳戦二番勝負で将棋ソフト「PONANZA」が2連勝した。
・Google Researchが開発した囲碁のAIソフト「AlpfaGo」が韓国の世界的プロ棋士を破った。などなど。
 このようなAI技術の急速な進歩とともに議論になっているのが、AIが創作した音楽や小説などは著作物に該当するのか、つまりAI創作物に著作権はあるのかということです。
 そのひとつの考え方が、AI創作物の作成に、人が、創作の意図、創作過程における創作的寄与などの面でどの程度関与しているかを判断し、関与の度合いが高い場合は、人が創作した著作物として保護されるというものです。この場合、著作者は誰なのか(AIの開発者、学習データ提供者、創作の指示者などが考えられるとのこと)という問題もあります。

誰が著作者になり得るのか

 著作権は原則として「著作者」に与えられるので、著作者が誰かということは非常に重要です。では、著作者とはどのような者を言うのでしょうか。著作権法では、著作者を「著作物を創作する者をいう」と定義しています(2条1項2号)。
 つまり、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を創った者が著作者なので、著作者であるためには「思想又は感情を創作的に表現した」と評価できるだけの行為を行っていなければなりません。たとえば、AがBに委託してコンピュータプログラムを開発してもらった場合、Aがそのプログラムの仕様や要件をBに伝え、開発費用も負担したとしても、Aは著作者ではありません。著作者はあくまでもBであり、そのプログラムの著作権はBに帰属することになるのです。もっとも、AはBから著作権の譲渡を受けることはできます(著作権の譲渡については、今後本講座で解説する予定)。
 単に創作のアイデアやヒントを与えただけ、あるいはアドバイスや監修をしただけでは著作者の地位には立てませんし、創作活動を金銭面で援助しても著作者にはなれないのです。

著作者は著作者名を表示することが重要

 では、自分がその著作物の著作者である場合、どのように主張すれば良いのでしょうか。
 著作権法では、著作物の原作品に、あるいは著作物が利用されるときに実名(本名)や周知の変名(筆名・雅号)が著作者名として通常の方法によって表示されていれば、その者がその著作物の著作者と推定すると規定しています(14条)。
 したがって、著作者名を表示することは、著作者を判定するうえで非常に重要な要素となります。著作物を創作した者は、まずはその著作物の原作品や複製物に自分の実名や周知の変名を表示すべきでしょう。音楽の場合で言えば、CDのジャケットや楽譜・歌詞カードなどに著作者名を印刷することです。

法人が著作者となる場合もある

 会社の従業員などが業務上作成した著作物は、その会社が著作者となる場合があります。実際は従業員である人間が創作するのですが、その人間を雇っている会社がその著作物を作成したことにするのです。このように、法人などが著作者となることを「法人著作」あるいは「職務著作」と言います。法人著作が成立するための条件は次の通りです(15条)。法人には人格なき社団も含まれます。
 (1)法人その他使用者(法人等)の発意にもとづくものであること
 (2)法人等の業務に従事する者が作成するものであること
 (3)職務上作成するものであること
 (4)法人等の著作名義で公表するものであること(プログラムの著作物を除く)
 (5)契約や勤務規則などに従業員を著作者とするという定めがないこと

映画の著作物の著作者

 映画製作には多くのスタッフがかかわりますが、著作権法では、それらスタッフのうちどのような役割を担った者が著作者の立場に立てるのかを明確にするための規定を置き、「制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」を映画の著作物の著作者としています(16条)。なお、映画が法人著作に該当する場合は、これらのスタッフの使用者である法人等がその映画の著作者となります。
 なお、映画は小説や脚本を原著作物とする二次的著作物であり(原作をもとにして脚本を書いた場合は、その脚本も二次的著作物)、映画の著作物の原著作物の著作者は小説家や脚本家です。

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