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2016.01.09

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コンサート会場不足がピークに達する

「劇場・ホール2016年問題・記者会見」レポート

本誌69号でも取り上げた「2016年問題」。いよいよその年になり急速な対応が望まれるところだが、昨年11月5日、日本芸能実演家団体協議会ほか(*)主催による「劇場・ホール2016年問題・記者会見」が芸能花伝舎で開かれ、音楽業界全体にとって深刻なこの問題の認知を強く訴えかけた。「2016年問題」とは何かに改めて触れつつ、会見の模様をレポート。

*)主催団体:公益社団法人日本芸能実演家団体協議会(一般社団法人日本音楽制作者連盟、公益社団法人日本オーケストラ連盟、公益社団法人日本劇団協議会、公益社団法人日本バレエ協会、一般社団法人日本バレエ団連盟、公益社団法人日本三曲協会)、一般社団法人日本音楽事業者協会、一般社団法人日本クラシック音楽事業協会、一般社団法人コンサートプロモーターズ協会

登壇者

野村 萬

野村 萬

本芸能実演家団体協議会
会長・能楽師(人間国宝)

山口一郎

山口一郎

サカナクション

斎藤友佳理

斎藤友佳理

バレエダンサー

川瀬順輔

川瀬順輔

尺八奏者

影山ヒロノブ

影山ヒロノブ

JAM Project

「2016年問題」とは?

まず「2016年問題」とは何か。ご存知の通り、近年、CDの売上が急激に減少するいっぽうで、コンサート市場は順調に拡大しています。コンサートは「感動を体験」できると同時に「感動を共有」できる場であり、この傾向は、音楽ファンの「本物に触れたい」という感動欲求が高まっていることの表れにほかならないはずです。
しかし、ここに来て、首都圏のコンサート会場が同時多発的に閉鎖もしくは改修工事に入るという問題が発生しました(別表参照)。建物の老朽化、2020年の東京オリンピックへの対応、運営企業等の経営的な事情など様々な理由によるものですが、これによって、2016年をピークにコンサートで使用できる会場が激減することになり、音楽業界全体が今、大きな危機感をもっています。つまり、コンサート市場は伸びているのに、それを行うに十分な場がないという現象が起きてしまうのです。ファンとの交流の場、文化交流の場、感動を体験する場が十分に確保できなくなる。これが俗にいう「2016年問題」です。
具体的には、劇場・ホールの閉鎖や改修・建替などにより、この10年ほどで累計2.5万席以上が減少し、2016年には横浜アリーナとさいたまスーパーアリーナの長期改修時期が重なり、さらに約6.5万席が減少する危険性があることが調査でわかっています。

2015?2016年に閉鎖および改修・建替を行う主な劇場・ホール(1,000人以上を抜粋)

「2016年問題」の問題点

会見では、サカナクションの山口氏がわかりやすく話してくださいました。「1万人の会場がなくなると、それまでその会場を使っていたアーティストが5,000人の会場を2日間使用することになり、5,000人の会場を使っていたアーティストは2,000人の会場を2日間もしくは3日間使用することになります。玉突き現象によって最後はライブハウスにまで影響するかもしれません。新人アーティストがライブハウスに出たくても隙間がない」ということにつながるのです。

バレエダンサーの斎藤氏も「今ここでこうやって話しているこの瞬間も、バレエ団ではダンサーたちが、そして稽古場では、子供たちが命を賭けて、人生を賭けて必死に取り組んでいるのです。でもその発表をする場が少なくなってきている。それが今深刻な問題になってきているのです」と、同じくバレエ界の未来に対しての危機感をあらわにしました。

さらに、これは決して首都圏だけの問題ではないことを、山口氏と影山氏が明かします。

「コンサートを行う際に、首都圏でのコンサートが一番やりやすさというか、経済的な部分でも収益が一番得られる部分なんです。地方コンサートになると、ツアースタッフごと現地まで移動しなければならなかったり、舞台装置や機材を運ばなければいけないので、経済的にも負担がかかってしまう。なので、僕たちがコンサートを組む際に、首都圏での収益を主にして、地方公演を計画していくという流れがあるので、首都圏でのコンサートが不足すると、地方にも行けなくなってしまうという問題が出てくる」(山口氏)

「今、ちょうどJAM Projectは全国ツアーをやろうということで、スケジュールを組み始めていますが、東京の会館がなかなか決められないので、それに続く地方の規模とかスケジュールもなかなか組めなくて、スタッフが大変な思いをしているという状況です」(影山氏)

また、海外でのコンサート経験が豊富な影山氏は、海外アーティストの来日の機会を奪うことにもなると危惧。首都圏のコンサート会場が不足する「2016年問題」は、実に多くの問題を抱えた、とても深刻なものです。

音楽は人々の心を豊かにしてくれるばかりでなく、国際交流にも役立つ、とても重要な文化です。「文化に対して低い取り組み方では国際的にその国は高く評価されません。また、子供たちに高い文化意識がない国であったら将来がありません」(斎藤氏)。2020年に東京オリンピック/パラリンピックを控える今、関係省庁、自治体、民間団体、大手デベロッパーなど、あらゆる関係者に理解を深めていただくと同時に、音楽関係者とファンが一丸となって、この問題をともに考え、解決に向かっていくことが大事なのではないでしょうか。

なお、この会見の模様はたくさんのメディアで取り上げられました。この問題の注目度の高さがうかがえる証左でもあるので、そのなかから主だったものを抜粋して列挙します。

[テレビ]
・NHK:ニュースシブ5時(11月5日)
・NHK:ニュースウォッチ9(11月5日)
・NHK:NEWS WEB(11月5日)
・テレビ東京:ワールドビジネスサテライト(11月5日)
・日本テレビ:情報ライブ ミヤネ屋(11月6日)
・TBSテレビ:NEWS23(11月23日)

[新聞]
・朝日新聞[朝刊](11月6日)
・東京新聞[朝刊](11月6日)
・日本経済新聞[朝刊](11月6日)
・毎日新聞[朝刊](11月6日)
・読売新聞[夕刊](11月7日)など

登壇者の発言(抜粋)

野村萬氏
「実演芸術の振興に不可欠である劇場・ホールは我が国が真の文化芸術立国を目指すうえで、大変重要な役割を担っております。芸能のいちジャンルにとどまらない実演芸術全体で取り込むべき重要な課題でありますが、まずはそれぞれの立場から実態報告のご発言をいただき、来るべき東京オリンピック/パラリンピックの開催を控えている大事な時期であることをしっかりとご認識をたまわり、国全体の問題として位置づけていただきますよう、よろしくお願いを申し上げて、私からのごあいさつとさせていただきます」

山口一郎氏
「みなさんご承知の通り、コンサートホールの確保が難しくなってきているという問題があります。待ってくれているファンがいて僕たちもそれに応えたいと思っているのにもかかわらず、それが実現できない、あるいは1年先、1年半先まで会場が押さえられないという制約がかかってしまう。今日現在でもこのような状況なのに、これから次々に首都圏の主だったコンサートホールが改修や改築に入ると聞いております。音楽を愛するファンのみなさんと様々なアーティストの出会う機会がなくなってしまうのではないかと、大変危惧しております。ファンのみなさんの安心や安全を保つための改修、改築はぜひ進めていただきたいのですが、可能なかぎり時期の調整をお願いしたい、さらに代替施設の確保や既存のホールの有効活用などについて、関係各所のみなさんと意見交換ができればと思っております」

斎藤友佳理氏
「私は、家庭の関係で人生の半分をロシアで生活してきました。240年の歴史を持つボリショイ劇場が、老朽化のため改修作業に入りました。そのとき、まず最初に取り組んだことは、その工事期間中、国民の舞台芸術への興味と関心が途絶えることのないように、隣りに新しい劇場を建て、そこがある程度始動し始めてから改修作業に入りました。また戦時中ですら、劇場での上演は続けられました。それは、苦しいときこそ、人々に、国民に、舞台芸術を通して夢と希望を与えるためだったと聞いています。来年から東京オリンピック/パラリンピックの文化プログラムがスタートします。オリンピックはスポーツだけのものではありません。文化、芸術の祭典といわれています。文化に対して低い取り組み方では国際的にその国は高く評価されません。また、子供たちに高い文化意識がない国であったら将来がありません。国の関係者のみなさま方、そして行政の方々、民間企業の方々、どうぞご理解とご支援をお願いいたします」

川瀬順輔氏
「邦楽の場合には、生の演奏が多いんですね。ですから、だいたい4〜500席のところでいいんですけど、そういう場がないために、また専門家も食べていけなくなるというような現状でございまして。障子、畳、襖の響きで十分感じられる小さな会場でも結構ですので、ぜひ欲しいなと感じております。オリンピックが終わっても、次の時代になんとか私たちがつなげていこうと思っております。今、外国の方が日本へ来て、日本の文化に触れたい、音楽に触れたいといった場合に、どこもそれをやっているところがないんです。そういった意味で、この機会に、劇場を作っていただきたいということが私どもの望みでございます」

影山ヒロノブ氏
「ほとんどのミュージシャンがステージの上で音楽を演奏して、それでファンのみんなを元気に、ハッピーにすることこそが、自分たちの一番の使命だと思っていると思います。そして、ストレスの多い現代社会のなかでどれだけアーティストたちのライブが社会の元気に直結しているか、そのためにも、巨大都市東京にはたくさんのライブ会場となりえる施設が必要だと思います。もうひとつ、今、日本のアニメはすごく世界中の若者たちに愛されるようになりました。同時に、自分たちアニソンのアーティストも海外で歌うことがとても多くなりました。どこの国へ行っても、たくさんのファンに歓迎してもらっています。大好きなものをきっかけに世界中の若者がおたがいを身近に感じ合い、交流を深めていくことは、今そして未来にとって、とても大切なことだと思います。僕らも若い頃、海外のアーティストの日本公演をいつも楽しみにしていました。今も世界中で素晴らしいアーティストたちは生まれています。そんな彼らはいつも日本でステージに立ちたいと思っています。影響は日本のアーティストだけにかぎらないんです。今日僕らが声を上げることで少しでも多くの方にホールが減少していくこの状況を知ってもらい、あらゆる関係者のみなさんにはいっそう理解を深めていただいて、僕ら出演者や、さらには来場者の視点も加えたご対応をお願いしたいと思います」

[補足] 「劇場・ホール2016年問題・記者会見」に対する東京都知事舛添要一氏の所感
舛添要一知事は11月6日の定例記者会見で「この状況を何とか改善しないと、文化都市として非常に遅れたことになってしまいます」と述べ、すでに都の関係部局に指示をし、全力をあげて、たとえば使える都有地があるか、ないか、そういうことを調べていくとしました。都有地での仮設施設の建設や、規制緩和の手法を上手に使うといった方策なども検討するとのことです。

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