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2016.05.13

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special interview クリス松村さん 音“楽”家(おんらくか)/タレント

special interview クリス松村さん
音“楽”家(おんらくか)/タレント

音楽好きで知られ、テレビやラジオの番組監修、パーソナリティなども務めるクリス松村さん。ミュージカルをはじめ、“本物”のエンタテインメント作品をおすすめしてくださいました。

text:長谷川幸信

強く生きていくことを教えてくれたのが
音楽だしミュージカル。
だから私は悩まない。

『ジョーズ』とか、効果音や音楽にも興奮をおぼえました

クリス松村さんといえば、80年代アイドルに詳しいイメージが世間に浸透していますが、ラジオ番組では70年代の洋楽からマニアックな選曲をしたり、あと映画紹介番組のMCも務めていたりします。

でも恐ろしいことに70年代中盤はもう40年前なんですよ(笑)。当時、チャート1位になっているような曲も今はわからないリスナーがいたりして。この間もバーブラ・ストライサンドの「スター誕生」のスパニッシュバージョンをかけたけど、みんな、名前も曲もわかってないんです。それにビックリします。

70年代をリアルタイムで経験しているクリス松村さんが、初めて衝撃を受けた映画や音楽は何だったんですか?

『オリバー!』(1968年)かな。それがたまたまミュージカル映画で、アカデミー賞も取っている…なんてことを意識して観に行ったわけでもないんだけど。

本当に“たまたま”観た感じで?

親に連れていかれたという感じで、選択肢はなかったですね。ロンドンで観たから英語だったんですよ。男の子の歌もあれば、おじいさんの歌もあるし、娼婦の歌う曲もあって。いろんな声の色を使ったり、いろんな表現の仕方があって、すごく感動したんです。サウンドトラックも買って、何回も何回も聴いて。だから、音楽と映画の私のなかでの基本は『オリバー!』なんです。あとクラシックですね。親がクラシックとオペラしか聴いてなかったから。『ジョーズ』とか『タワーリング・インフェルノ』とか、歌ではないけど、効果音や音楽にも興奮をおぼえました。でも80年代中盤に入る頃から、ヒットするサウンドトラックを作るためのような映画も出てきましたよね。その頃からミュージカル映画もなくなったんです。だから2006年に『ドリームガールズ』が出てきたとき、私はすごいうれしかったです。ダイアナ・ロスのストーリーをビヨンセが演じる作品で。…私、ずいぶん時代を飛ばしてお話しているけど、どこをどうまとめたら雑誌的にいいのかわからないから、今エサだけまいてますよ(笑)。

すべてに歴史があるってことをまずは知るべきだってことです

じゃあ、パクっと食いつきます(笑)。ミュージカル映画で、いまだに好きな作品というのは?

みなさんに観ていただきたいのは『ザッツ・エンタテインメント』(1974年)ですよ。パート3まであるんですけど、観るならパート1からですね。いわゆるトーキーの時代から70年代中盤までが描かれている作品なんですけど、どうやって音楽と踊りと表現がリンクされていくかってことが描かれているんです。「雨に唄えば」はジーン・ケリーのバージョンが一番有名だけど、もともとあった古い歌で。あと、それまでは歌のヘタな人でも、代わりにうまい人に歌ってもらっていたのが成功してたわけです。でもそれが通用しなくなってくるとか、そういった流れもずっと見ることができるんですね。あと映像もカラーになっていくとか。音楽と映画の大切な部分が『ザッツ・エンタテインメント』に凝縮されています。今、観ても感動します。パート3で、ジーン・ケリーがディレクターチェアから立って、ヨロヨロと歩いてるのを観たときは、私、泣きそうになって。アクロバット的な踊りを加えたのは、ジーン・ケリーが最初なんですよ。だからね、のちのマイケル・ジャクソンなどにつながるところもある。『ザッツ・ダンシング!』(1984年)という映画で、マイケルは素晴らしいってジーン・ケリーも評価している場面があるんです。でも彼らがいなければ、ということですよ。そこを忘れてほしくはない。

原点という?

そう。ラップやヒップホップもあるけど、それらの原点はもともとドゥーワップなわけです。今、当たり前のようにラップはすごい、マイケルも素晴らしいと言ってるけど、その前を忘れちゃいけない。『ザッツ・エンタテインメント』を観て感動しない人はいないと思う。これ、本当に生の肉体でやっているんだって驚きますよ。ジーン・ケリーが、何これってぐらいの距離感を飛んだり跳ねたり。最近は大勢で魅せているようなことを、ジーン・ケリーがたった1人でやっているんです。それから映し方ですよね。CGがない時代にどういうふうに映しているかっていう技術も描かれていて。そういうところも全部、観てほしい。たとえばコンサートに行っても、あと紅白なんか観ていても、ステージ衣装は『マイ・フェア・レディ』(1964年)などを参考にしていて、その当時が原点なのかなと思っちゃいます。マイケル・ジャクソンが「ハートブレイク・ホテル」でシルエット姿で踊る演出があって、当時すごく斬新って報道されたんですけど、私は1981年のイヴ・モンタンのコンサートでそういう演出を観てるんです。これはイヴ・モンタンがやっていたよって思うわけ。すべてに歴史があるってことを、まずは知るべきだってことです。

いい映画は、映画館から出たあとでも
メロディがずっと流れ続けます。

やっぱり華やかなほうが好き。魅せてくれないと嫌ですね

最近の作品で魅力を感じたものも?

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999年)とか画期的だった。一般の人たちもクローズアップされていて。あとイギリスのオーディション番組に出てきたスーザン・ボイルがいるじゃない。あの人自体がドラマだと思っちゃうの、映画にはなってないけど。ドキュメントではなく、誰かを演じている映画ってことだと『ドリームガールズ』かな。やっぱり私、華やかなほうが好き。魅せてくれないと嫌ですね。

観ていて、ときめかないと?

映画に求められるのは華やかさだと私は思っているから。映画館の大きなスクリーンでワーッと楽しみたいというのはありますね。だから『プロデューサーズ』(2005年)も好きだし、『シカゴ』(2002年)や『ムー ラン・ルージュ』(2001年)とか、派手なのが私は好き。そういうのを積極的に観に行って喜ぶタイプです。昔のMGMの映画の話に戻ると、お金がかかってるの。お金をかけずに誰でも作れますみたいな方向に走らないでほしい、映画は。『ドリームガールズ』は、華やかなショウビズの世界とその裏側やいろんな歴史も描かれていて、それが一流の音楽と歌唱力によって表現されているのがいいんです。いい映画というのは、映画館から出たあとでもメロディがずっと流れ続けます。街中を歩いていても、そこは『ドリームガールズ』の世界じゃないの に、自分が『ドリームガールズ』の世界にいる気分で。音楽と映画の結びつきという意味では『スター・ウォーズ』とか『フラッシュ・ゴードン』もそうですよね。誰もが曲を思い浮かべることできるでしょ。でもクイーンの「フラッシュのテーマ」は、リリース当時は語り継がれるようなヒットでもなかったんですよ。だから岩崎良美さんの「タッチ」みたいな感じ。ご本人もきっと複雑な気持ちだと思いますよ(笑)。いつも「タッチ」ばかり取り上げられるけど、良美さんにはほかにも名曲多いですからね。「赤と黒」とか。

原点を見ずしてどうする、本物を知っておきなさいって

「赤と黒」はデビュー曲ですよね。

そう、つまり原点も忘れてほしくないのよ(笑)。もともとラップとかヒップホップには、人種差別とかいろんな叫びやソウルも入っていたわけじゃないですか。歌でもよくテーマになるでしょ? わかりやすいところでいうと、80年代には飢餓問題などから「ウィ・アー・ザ・ワールド」や、バンド・エイドの「ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス」が生まれてくるんです。時代は変わっても人種とか差別とか戦争というテーマはなくならない。もっと身近なことでいうと、同性愛は排除しろっていつの時代も差別があるけど、そこを強く生きていくのが私たちなのよ。そういうのを教えてくれたのが音楽だしミュージカル。だから私は悩まない。同性愛者を差別する意見や記事に対して、私はよくコラムで“残念に思います”とか書いているけど、それはそう書かないとかわいらしく見えないから。

そこ狙いですか(笑)。

本当なのよ(笑)。困難ななかでも強く生きていきなさいと描いているのが『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年)や『ウエスト・サイド物語』(1961年)なんです。それまで音楽と一緒に流すミュージカルは、もっとアメリカ寄りとかそういう演出だった。それが60〜70年代にかけて変わってきたんです。『グリース』(1978年)はまた違うけどね。30才になろうという人が高校生の役をやっているんだから(笑)。オリビア・ニュートン・ジョンじゃなきゃできなかった。でも何回も観ちゃう。ミュージカルじゃないけど、『大いなる遺産』(1998年)も音楽がいいです。今でも自分のラジオ番組でかけているぐらい。『大いなる遺産』の歌なんて今では誰も知らないのに(笑)。もちろん今の歌や映画も素晴らしいけど、原点を見ずしてどうするってことです。本物を知っておきなさいって思いますよ。

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