「音楽著作権」バイブル

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第3回 実演を録音した原盤に関する権利

今回は、前段で実演家の報酬請求権について解説したのち、 実演家の権利と密接な関係にある「原盤」について解説します。 原盤とは一言で言うとレコーディングした音を編集した「マスターテープ」のことです。 原盤に固定されている音には著作隣接権が発生し、「レコード製作者」に帰属します。 実演を録音して制作された原盤には実演家の著作隣接権も含まれます。

text:秀間修一(リアルライツ)

今回のポイント

(1)著作権法上の「レコード製作者」は音楽業界で言う「原盤制作者」のことである。
(2)「原盤制作者」とは、具体的には、「原盤の制作を発意し、その制作費を負担した者」と考えられる。
(3)「レコード」とは、音楽業界では録音物を言う場合が多いが、著作権法では、録音物に音を固定したもの「レコード」と言う。

実演家が有する報酬請求権の種類と内容

 原盤の権利について解説する前に、実演家の持つ報酬請求権について触れます。
 著作隣接権が実演の利用を拒否することのできる「許諾権」であるのに対し、報酬請求権は、利用を拒否することはできないものの、利用されたときにその報酬を請求できる権利です。報酬請求権は、実演に関する著作隣接権の存続期間内(実演後50年以内)の実演に限って認められます。
 実演家が有する報酬請求権には、以下のように多くの種類があります。

(1)二次使用料請求権(著作権法95条1項)
 二次使用料請求権は、貸与報酬請求権とともに報酬請求権の代表的なもので、実演が録音されている商業用レコードが放送や有線放送(放送を受信して行う非営利・無料の同時有線放送を除く)されたときに、実演家がその放送事業者や有線放送事業者に報酬(二次使用料)を請求できる権利です。
 これは、許諾を得て録音・録画されている実演を放送や有線放送することについて実演家の許諾権が働かない代わりに、実演が録音されている「商業用レコード」を放送した放送局や有線放送した有線放送局に対し、報酬の支払いを義務づける制度です。

(2)貸与報酬請求権(法95条の3第3項)
 期間経過商業用レコード(発売から1年が経過して貸与権が消滅した商業用レコード)がレンタル店で貸与された場合、実演家がそのレンタル店に報酬を請求できる権利です。
 期間経過商業用レコードの貸与について貸与報酬の支払い義務のあるのは、これを営業として行う者(貸レコード業者)に限られるので、個人が営業とは関係なく期間経過商業用レコードを公衆に貸与しても貸与報酬を支払う必要はありません。

放送の許諾を得た実演を許諾に係る放送以外に利用することができる範囲
(1)許諾の対象となる放送のための録音・録画(法93条1項)
(2)許諾を得た放送局における再放送(リピート放送)…実演家に報酬請求権あり
(3)許諾を得た放送局が作成した録音・録画物の提供を受けて行う放送(テープ・ネット放送)…実演家に報酬請求権あり
(4)許諾を得た放送局から放送番組の提供を受けて行う同時放送または異時放送で上記(3)以外のもの(マイクロ・ネット放送)…実演家に報酬請求権あり
 以上のような利用方法のうち(2)(3)(4)について実演家に報酬請求権が認められています。

(4)入力型自動公衆送信による放送番組の放送対象地域内同時再送信に係る補償金請求権(法102条6項)
 入力型自動公衆送信による放送の放送対象地域内への同時再送信(このような送信を「IPマルチキャスト放送」と言う)で実演が送信されたときに、放送事業者に補償金を請求できる権利です。非営利・無料で行うものについては適用されません。

(5)放送の同時有線放送に係る報酬請求権(法94条の2)
 放送される実演が同時に有線放送された場合、実演家がその有線放送事業者に報酬を請求できる権利です。非営利・無料で行われる有線放送については適用されません。

(6)私的録音録画補償金請求権(法30条2項・102条1項)
 実演を私的使用のためにデジタル方式で録音または録画することに関して補償金を請求できる権利です。ユーザーが補償金の対象となる機器や記録媒体を購入するときに課金されます。

(7)試験問題用複製等補償金請求権(法36条2項・102条1項)
 営利目的で行う試験問題として実演を複製または送信可能化することについて補償金を請求することができる権利です。

原盤に関する権利

 ここからが今回のテーマである、実演を録音した原盤に関する権利の解説です。
 原盤を制作すると、その制作者である「レコード製作者」に著作隣接権が発生します。実演を収録した原盤であれば、実演家の著作隣接権も含まれます。実演や著作物が収録されていない原盤でも、何らかの音が収録されていれば著作隣接権が発生します。
 レコード製作者が著作隣接権を取得するには、実演家が著作隣接権を取得する場合と同様、何らの手続きも必要ありません(無方式主義)。原盤を制作すると、レコード製作者に自動的に著作隣接権が発生します。

原盤とは

 原盤に関する契約書では、原盤についておおむね次のように定義することが多いようです。
「原盤=録音物として複製、頒布すること、またはその音をネット配信することを目的として制作したもので、アーティストの実演等を収録した編集済みの磁気テープその他の記録媒体をいう」
 この定義のポイントは「編集済み」という点です。編集とは、別々のトラックに録音された音声素材をバランス良くミキシングし、エフェクター処理等も行い、メディアに応じたチャンネル数(通常は2チャンネル)にすることです。このような作業をトラックダウンと言います。トラックダウンを行った音を記録した媒体(「マスターテープ」と言われる)が原盤です。

レコードとは

 著作権法では、レコードを「蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの(音をもっぱら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)をいう。」と定義しています(2条1項5号)。
 この定義によれば、「音が固定されている物」ではなく、「物に音を固定したもの」、つまり、抽象的で形のない存在(無体物)をレコードと言っています。いっぽう、音楽業界でレコードと言うと、CDのように「音が固定されている物」、つまり「有体物」(著作権法上の「商業用レコード」に近い概念)を指す場合がほとんどです。このように、同じ「レコード」でも著作権法と音楽業界ではとらえ方が異なっています。本稿で「レコード」と言うときは、特にことわりを入れない限り、著作権法上のレコードを指すものとします。

レコード製作者とは

 著作権法では、「レコードに固定されている音を最初に固定した者」をレコード製作者と定義しています(2条1項6号)。レコードに固定されている音を最初に固定した者とは、レコードの原盤を制作した者であり、音楽業界で言うところの「原盤制作者」のことです。

誰がレコード製作者になり得るか

 では、原盤制作者つまり著作権法上のレコード製作者とは具体的にどういう役割を担った者を言うのでしょうか。送信可能化権の帰属について争った事件に関する平成19年1月19日の東京地裁判決では、レコード製作者とは「レコードの原盤の制作者を指す」としたうえで、次の趣旨のことを述べています。
・物理的な録音行為の従事者はレコード製作者には該当せず、自己の計算と責任において録音する者、通常は原盤制作費を負担した者がレコード製作者に該当する。
・レコード製作者は原盤制作と同時に原始的に決定されるべきものであり、原盤制作後に制作費負担の変更があっても、レコード製作者の地位に変化はない。
 このように、この判決文では、原盤制作費を負担した者がレコード製作者であって、それは、原盤制作時に決定されるべきものであると述べています。これを換言すれば、「原盤の制作を発意し、その制作費を負担した者」と言うことができるでしょう。したがって、以下の者はレコード製作者にはなり得ないことになります。
(1)レコーディングエンジニア
(2)プロデューサーやディレクター
(3)原盤制作業務の受託者
(4)原盤の制作には関与せず、原盤の完成後に原盤制作費の全部または一部を負担した者
(5)原盤の制作には関与せず、原盤の完成後に著作隣接権の譲渡を受けた者

レコード製作者の権利

 レコード製作者が有する著作権法上の権利には、「著作隣接権」と「報酬請求権」があります。いずれも譲渡可能な権利で、実際、レコード製作者がこれらの権利をレコード会社などに譲渡しているケースも多くみられます。なお、レコード製作者は、これらの権利のほかに有体物である原盤の所有権(民法上の権利)も保有します。

著作隣接権

 レコード製作者の著作隣接権は、以下の4つの支分権から構成されています。

(1)複製権
 複製権とは、レコードを複製することを許諾する権利で、レコード製作者はこの権利を専有します。レコードが複製されている録音物をコピーするときにもこの権利が働きます。

(2)送信可能化権
 送信可能化権はレコードをインターネットにアップロードするなど、自動公衆送信を可能な状態にすることを許諾する権利で、実演家が持っている送信可能化権と同様の権利内容です。

(3)譲渡権
 譲渡権は、レコードをその複製物の譲渡により公衆に提供するときに働く権利で、実演家が持っている譲渡権と同様の権利内容です。

(4)貸与権譲渡権
 貸与権は、レコードをそれが複製されている商業用レコードの貸与により公衆に提供するときに働く権利で、権利の内容は実演家が持っている貸与権と同じです。

報酬請求権

 レコード製作者にも以下の報酬請求権が認められています。権利の内容は、いずれも実演家が有する報酬請求権と同じです。

(1)二次使用料請求権
 商業用レコードが放送や有線放送(放送を受信して行う非営利・無料の同時有線放送を除く)されたときに、レコード製作者がその放送事業者や有線放送事業者に報酬(二次使用料)を請求できる権利です。

(2)貸与報酬請求権
 期間経過商業用レコードがレンタル店で貸与された場合、レコード製作者がそのレンタル店に報酬を請求できる権利です。
 期間経過商業用レコードの貸与について貸与報酬の支払い義務のあるのは、これを営業として行う者(貸レコード業者)に限られるので、個人が営業とは関係なく期間経過商業用レコードを公衆に貸与しても貸与報酬を支払う必要はありません。

(3)私的録音補償金請求権
 レコードを私的使用のためにデジタル方式で録音することに関して補償金を請求できる権利です。ユーザーが補償金の対象となる機器や記録媒体を購入するときに課金されます。

(4)試験問題用複製等補償金請求権
 レコードを営利目的で行う試験問題として複製または送信可能化することについて補償金を請求できる権利です。

(5)入力型自動公衆送信による放送番組の放送対象地域内同時再送信に係る補償金請求権
 入力型自動公衆送信による放送の放送対象地域内への同時再送信(このような送信を「IPマルチキャスト放送」と言う)でレコードが送信されたときに、放送事業者に補償金を請求できる権利です。非営利・無料で行うものについては適用されません。

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