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名物プロデューサー列伝

2020年01月16日 (木) 名物プロデューサー列伝

vol.81 一般社団法人 日本音楽制作者連盟理事長、株式会社ヒップランドミュージックコーポレーション代表取締役社長 野村達矢さん

2019年6月に日本音楽制作者連盟の新理事長に就任した、ヒップランドの野村社長を今回はクローズアップ。2020年の抱負と、現在、音制連が最優先で取り組むべき課題、そして音楽業界は今後どこに向かうべきか、ということをお聞きした。

デジタル化で、グローバル化された今、
日本の音楽業界も“ONE TEAM”という発想を。

音制連新理事長に就任

野村さんは2019年6月に音制連(日本音楽制作者連盟)の新理事長に就任されました。まず抱負から教えていただけますでしょうか。

改めまして、このたび日本音楽制作者連盟の理事長に就任しました野村です。門池(三則)前理事長がおっしゃっていた“共存共栄”というテーマを大切にしながらも、次の時代に向けていろいろなスタンスで動ける新しい音制連を追求していかなければいけないと、決意を新たにしています。そんな意味を込めて恒例の“FMPJ NEW YEAR PARTY”の今年のテーマを“NEXT”にしました。

理事長に就任され、約半年が経ちました。最優先で取り組まなければいけないと感じている課題は何でしょうか?

まだまだ課題や前に進んでいない問題がたくさんあるなというのが、今の時点で感じていることです。とはいえ、ひとつのことを解決するにしても、ハードルがありすぎたり、関わる人たちの感覚の違いというのが大きな壁になっています。デジタル化によって音楽を生み出す環境も聴かれる環境も変わってきているなかで、そういう部分への対応、音制連の権利というものをどう担保していくかということに関しては、至らない部分がまだまだ多いです。先ほど出ました感覚の違いというのが意外と大きくて、デジタル化された時代に向けての感覚を共通なものとして共有しないと、同じ土俵で、共通言語で話もできないということが起こってきます。デジタル化で一番変わったことは、グローバル化されたということです。今まで日本国内で完結していた問題が、世界レベルのものへと変わってきています。我々が権利を守るうえで話をする相手が、国内の人たちというよりも、大小のDemand-Side Platform(DSP)いう場面も増えてきます。そうなってくると、交渉も音制連という一音楽団体でやっていくには限界もあると思いますし、日本の音楽業界も“ONE TEAM”という発想をきちんと持って、日本の音楽業界としての意志表示や、日本のアーティストを守っていくためにはどうすればいいのか、ということをポジティブに考えられる環境を作っていかなければいけません。

新しく理事に就任された方も、みなさんこのデジタル時代にプレイングマネージャーとして、音楽シーンの最前線で活躍している方が揃っています。

私も含めて理事全員がプレイングマネージャーで、現場の感覚やデジタルリテラシーの部分でいうと40歳以下の人たちは時代との親和性が高く、感覚や常識感はそれより上の世代とは変わってきていると思います。なので、そういう人たちが理事のなかに名前を連ね、新しいスタンスで意見を言ってもらえることはすごく大事なことだと思います。

デジタル時代に入ってきて、マーケットにおけるコンテンツ流通の拡大と、権利保護の速度感の相違を実感している方々の生の声、意見がよりクローズアップされそうですね。

権利者側にとって正当であるはずの声が、コンテンツ流通の拡大やダイナミズムを阻害するものになってはいけません。大前提としてリスナー、オーディエンスの不都合には決してなってはいけないですし、そういう意味では実演家、アーティストサイドの権利主張の部分はすごく繊細なフェーズに入ってきていると思います。何かを決めるときは、音楽を届ける先のことを常に念頭に置き、考える必要があります。

世界に先駆けたチケット問題

先程“ONE TEAM”という言葉が出ましたが、やはり野村さんが中心的役割を担ってきたチケット高額転売問題で、業界団体が一致団結して取り組み、2019年6月に「チケット不正転売禁止法」が施行され、ひとつの結果を出したことで、その思いをより強くされたのでしょうか?

そうですね。他団体、チケットのプレイガイド業社とも手を組んで、多くの人たちと一丸となって思いをひとつにしたことで、大きな風を吹かすことができたと思います。そのうえで感じたことは、団体が一致団結することの必要性に加えて、その先には、先ほども出ましたが、オーディエンスやリスナーの存在があるということです。自分たちの権利の主張だけではなく、音楽を聴いたりライブに行ったりする音楽ファンの方たちが、どういう気持ちで今、音楽に接しているのかをちゃんと理解したり、想像することが重要です。そういう人たちとの歩調の合わせ方をどれだけイメージできるか。これが、これからの音制連の在り方であり、日本の音楽業界の在り方という部分に大きく影響してくると思います。

法律が施行された瞬間、問題解決に向け奔走していた野村さんの心のなかには、どんな思いがよぎったのでしょうか。

音楽業界全体で取り組み、法律の制定まで関わりながら実現させた事例は久々のことなので、そういう意味でも感慨深かったです。チケットの不正転売はアメリカやヨーロッパでも問題になっていて、日本での今回の法律の制定は世界に先駆けたものとして注目されているので、誇らしさも感じています。海外のチケット転売業者が日本への参入をあきらめたというニュースも入ってきていて、法整備によるひとつの具体的な結果だと思います。国内でも今回の法律に違反し、逮捕された例も出ているように、実態を伴っているところが大きな成果だと思います。でもこの問題はこれで終わりではありません。これから起こることについて音楽団体全体で、いかにスピーディに事態に対して意見を集約し、行動できるかがますます重要になります。

リスナー、オーディエンスの 不都合になってはいけない。 何かを決めるときは、音楽を 届ける先のことを常に念頭に。

無許諾音楽アプリ問題について

チケット不正転売問題とともに、音楽業界を脅かす大きな問題のひとつにMusic FM等の無許諾音楽アプリの存在があります。今後どのような対策に乗り出していこうと考えていますか?

昨年(2018年)、我々と日本音楽事業者協会、日本レコード協会、日本音楽出版社協会の4団体に加え、AWA、KKBOX、LINE MUSIC、楽天の4社でApple社に対して、無許諾音楽アプリの対策強化について、要望書を提出しました。違法音楽アプリのユーザーは圧倒的に10代が多くて、違法と知りながら使っている人も意外に多いというデータもあります。ユーザーのマインドチェンジ、音楽が正しく使われていないことに対する警告の空気が広がっていくことを期待したい。でも、ただむやみに“使ってはダメ”ということだけを叫ぶのではなく、我々が代替案をあわせて提示していかないと、成立しません。私は音制連の理事長である一方で、プロダクションの社長であり、プロデューサーでもあるので、その立場から言わせてもらうと、YouTubeで聴く音楽は今の日本では現状まだ規制されている部分も大きく、Spotifyのフリーミアムで聴ける音楽も、カタログで聴けない音楽はたくさんあって、だから無許諾音楽アプリに流れてしまうという図式も頭のなかに入れて、たとえば使い勝手の良さやサービスの向上などの対策を考えなければ、リスナーを味方にすることができないと思います。

これからの音楽業界について

今、音楽業界は大きな地殻変動が起こっているときで、アーティストの表現法も変わってきて、プロダクションの社長として、業界に求められる人材も変わってきているのでしょうか?

何かを表現したいと思っている人の表現方法が、プロダクションに所属して、レコード会社からデビューして、テレビや映画でアピールするという既存のルートから、YouTubeやInstagramのようなSNSのなかからユーチューバーやインスタグラマーが出てきたり、WEBのプラットフォームから有名になるルートが開発されています。そうなると既存のプロダクションのシステムも見直しが必要になります。これは音楽にも言えることで、音楽を作る人がメジャーデビューを果たすことの価値も、見直しが迫られていると思う。デビューという言葉に価値を感じなくなっている若い表現者が増えてきて、そういう人がこだわりを持って表現する際に、足りない部分だけを我々がサービスとしてフォローするという考え方が大事になってくると思っています。

なるほど。

たとえば著作権の権利の管理だけ、マーチャンダイジングの部分だけ、海外プロモーションの部分をフォローしてほしいとか、表現する人が欲しいサービスだけを提供していくという関係値を築いていくことが、これからは必要になるのではないでしょうか。弊社の「FRIENDSHIP.」や、ソニー・ミュージックエンタテインメントの「ジ・オーチャード・ジャパン」、ユニバーサルミュージックの「キャロライン」、「TuneCore」など、アーティストの“支援”を行うインディペンデントデジタルディストリビューターが増えてきているのもそういう理由からです。学生や若い人と話す機会が多いのですが、そこで感じるのは“起業”という言葉がよく出てくることです。デジタル業界で起業する学生起業家もたくさんいるし、就職してから起業する人も多い。音楽業界のなかでも、起業支援されることによって音楽業界やエンタテインメント業界で収益を得たいという未来図を描いている人が出てきています。そういう人たちの考え方やアイデアが、未来のトップクリエイターを生み出すことにもつながると思うし、音楽業界の活性化にもつながるはずです。とにかく新しい“発想”を持っている人に、どんどん音楽業界を目指してほしいです。

PROFILE

野村達矢

1962年、東京生まれ。明治大学卒業後、1986年に渡辺プロダクション入社。1989年にヒップランドミュージックコーポレーションに入社し、2019年4月に代表取締役社長に、2019年6月には日本音楽制作者連盟の理事長にも就任した。

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