音楽にまつわる「ちょっといい話」

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第39回 音楽プロモーターというお仕事[麻田 浩]

今回のゲスト

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麻田 浩さん

(株式会社ASADA代表取締役)
1944年、横浜生まれ。1976年にトムス・キャビンを立ち上げ、トム・ウェイツやエルヴィス・コステロなどを招へい。スマッシュの設立にも携わり、独立後はSION、ピチカート・ファイヴらのマネージメントも。“SXSW”のジャパンナイトのオーガナイザーも務めている。

 トム・ウェイツなど海外のシンガーソングライターや、ラモーンズなどのパンクバンドを日本に次々と招へい、かのエルヴィス・コステロの銀座ゲリラにも関与、逆にピチカート・ファイヴをアメリカのヒットチャートに送り込み、今現在も“サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)”へ日本のアーティストを届け続けている伝説のプロモーター、麻田浩(トムス・キャビン)。「音楽が好きなんで」――その思いだけで走り続けてきた人生に迫った。

本来は若い音楽家を育てなきゃいけないんですよ

 国内外のアーティストを未開の地に送り届け続け、伝説のプロモーターとも称されるようになった麻田さんだが、そんな彼の主義と今の音楽業界には大きなかい離がある。

麻田さんから見た今の音楽業界はどんなふうに映っていますか?

きついことを言ってもいいですか(笑)? 若手やインディーズにもすごく良いバンドがいるんだけれども、そこにプロモーターたちがあまり手をつけられていない。プロモーターがビジネスとしてコンサートをやって儲けるのは当然なんですけど、本来は同時に若い音楽家を育てなきゃいけないんですよ。すでに売れているアーティストと仕事すれば楽だし、お金も入ってくる。でもそこで儲けているなら、まだチャンスに恵まれていない人たちをもうちょっと育ててもいいんじゃないかと思いますね。

洋邦ともにまだ知られていないアーティストを売り出していく流れは、確かに年々減少している印象があります。

地方のプロモーターが地元の若手をあまり盛り上げられていないですよね。たとえば、ノースキャロライナに住んでいるバンドがインターネットだけで宣伝していて、そういう人たちも注目されるようにサポートする地元の動きがアメリカにはある。でも日本の場合はメジャー主義になりすぎちゃって、若手まで目が届きづらくなっている。ま、僕自身がメジャー主義とは違うところにいたから気になっちゃうのかもしれないんですけど。

麻田さんがトムス・キャビンで招へいしていたアーティストは、まだ日本ではメインストリームではないジャンルの方々でしたもんね。

当時仕事をしてたプロモーターの人に「シンガーソングライターを呼びましょうよ」と言っても「そんなの、誰も観に来るわけがねーだろ」とか言われて。だったら自分でやるしかないと思って、それでエリック・アンダーソンを京都の拾得というライブハウスに呼んだら、外タレをそういうところで観る前例がなかったから、みんな面白がってくれて成功したんです。でもそれでお客さんが入ることがわかると、大きなプロモーターも同じことをやり出すんですよね。そうなると僕はまた違うことをやらなきゃいけないから、今度はソウルとかパンクの人たちを日本に呼ぶようになったんです。

中国の音楽マーケット、音楽プロモーター事情

 世界トップクラスの潤沢な音楽市場を持つ日本。そのイメージも崩壊しつつある昨今、麻田さんは中国の音楽市場に多くの衝撃を受けてきた。

麻田さんのように新しい何かを仕掛ける人が減ってはいますよね。

たとえば、アメリカの新しくて面白いアーティストを呼びたくても、レコード会社の人に相談すると「今呼んでもらいたくないんだけど」と否定的な答えが返ってくる。でも中国は逆に海外のアーティストを次々招へいしているんですよ。中国のシリコンバレーと呼ばれている深センには芸術村があって、そこにある本屋さんが800人キャパぐらいのライブハウスを運営しているんだけど、そこで「マーク・リボーのライブをやりたいんですけど」と相談されて、“え、中国でやって人入るの?”と思いながらやってみたら満杯だったんですよ。あと、そこは毎年春と秋にフェスをやってるんですけど、金曜日にクラフトワーク、土曜日にジェームス・ブラッド・ウルマー、日曜日に戸川純ちゃんを呼ぶことになって…。

ヤバいラインナップですね(笑)。

“中国でこんなんやっていいの?”って思ったんですけど、ちゃんと成功したんですよね。戸川純ちゃんなんて5分で完売しましたから。マーク・リボーの公演をやる前に、どんなところか見ておかなきゃと視察がてら山下洋輔さんのライブを観に行ったときもソールドアウトだったし、次の日にそのライブハウスの隣のカフェで「音楽セミナーをやるから来ませんか?」と誘われて行ったらそれも満杯で、3分の1は女の子だったんですけど、そのセミナーのタイトルが“1960年代のドイツのアバンギャルドミュージックについて”だったんです(笑)。で、みんなメモを取ってるんですよ。中国の若い人たちって、1960年代の海外の音楽なんて規制の問題で聴ける機会がなかったから、知らない音楽を知りたい、そういう向上心があるのかもしれない。

それを知れる純然たる喜びがある。

そうそう。だからクラフトワーク、ジェームス・ブラッド・ウルマー、戸川純ちゃんが満杯にしちゃうんですよ。そういう面白いアーティストを次々と呼んで、教育していると言うとおかしいかもしれないけど、中国の若い人たちに楽しんでもらっているんですよね。もちろん難しい問題もあって、今年あたりは“アメリカのミュージシャンは呼べないんだ”みたいな話もあったりとか、数年前にマーク・リボーが北京のブルーノートでライブすることになったときも、曲目を提出したら「この3曲はやっちゃダメだ」と言われたりね。でもそれもすごいなと思って。ラディカルな歌詞だからダメだったんですけど、日本だったら英語で歌っちゃえば何も言われない。中国はちゃんと聴いて調べているわけじゃないですか。それも驚きました。

音楽が好きなんで。まず自分が聴きたいんですよね

 世界中の音楽シーンに目を張り、アクションを起こし続けている麻田さん。その精力的な活動の根底にある思いとは――。

中国の音楽シーンがそれだけ盛り上がっているなか、日本の音楽シーンには今後どんなことを期待していますか?

毎年10月の週末にサンフランシスコのゴールデンゲートパークで“ハードリー ストリクトリー ブルーグラス フェスティバル”という無料の音楽イベントが開催されていて、ステージが5つぐらいあって、エミルー・ハリスとかシブめのロックアーティストがたくさん出ているんですけど、なんでそれが無料で観られるかというと、アメリカの大金持ちが自分の好きな音楽を聴きたいということで、ものすごい費用を負担してくれているからなんです。その方は5年ぐらい前に亡くなったんですけど、ちゃんとファンドを組んでいて「10年ぐらいはこれで開催できるから」って死んだらしいんですよ。

マンガみたいな話ですね。

日本でも孫正義さんとかがそれをやればいいのに(笑)。規模は全然違いますけど、僕も狭山で“ハイドパーク・ミュージック・フェスティバル”というのを2年連続でやったんですよ。僕は今も狭山に住んでいるんですけど、昔は細野晴臣とか小坂忠とか吉田美奈子とか錚々たるアーティストがみんな住んでいて、子供は親に「あそこには近づいちゃいけない」って言われていたんです(笑)。みんな、長い髪してさ、変な格好してさ、ヒッピーみたいな感じだったから。当時子供だった彼らに、そういう人たちをまた狭山に呼んでフェスをやってほしいと言われたんです。地元の歯医者さんとか自転車屋さんとかいろんな人たちに。それで細野くんに話してみたら、彼はその当時2年間ぐらいライブをやっていなかったんですけど、でも「狭山でやるなら出ます」と言ってくれて。小坂忠も出てくれて、高田渡のトリビュートバンドを組んだり、僕が海外のアーティストを2組ぐらい呼んだりとか、それが大成功したんです。

麻田さんは国内外で音楽シーンを盛り上げるために動き続けています。その熱量はどこから湧いてくるんですか?

僕は音楽が好きなんで。だからまず自分が聴きたいんですよね。それでいろんなアーティストに「来てほしい、出てほしい」とお願いしている。外国からいろんな人たちを呼ぶのも自分が聴きたいから。そういう欲望が確かにあるんですよ、相変わらず。

 「音楽が好きなんで」そう照れくさそうに笑いながら語っていた麻田さんは、このインタビューの翌日、中国へ向かった。日本のアーティストが中国で活躍できるシステムを学ぶために。そんな彼の生き様が若いプロモーターやアーティストたちにどんな光明をもたらすのか。ワクワクせずにはいられないインタビューとなった。

text:平賀哲雄

『聴かずに死ねるか! 小さな呼び屋トムス・キャビンの全仕事』

『聴かずに死ねるか!
小さな呼び屋トムス・キャビンの全仕事』

60年代、モダン・フォーク・カルテット(マイク眞木も在籍)でウッドベースを担当し、全米ツアーも経験した麻田さんは、ソロデビューを経て、“小さな呼び屋”を自称するトムス・キャビンを立ち上げ、1977年のトム・ウェイツ、1978年のエルヴィス・コステロ、1979年のトーキング・ヘッズ、XTCなど、数々のオルタナティブなアーティストを日本に招へい。倒産後は(1999年に再開)、SMASHの立ち上げに関わったり、マネージメント会社の麻田事務所を設立したり、米国オースティンで毎年開催されている音楽見本市“SXSW”のアジア代表を務めたり―そうした麻田浩さんの半生を記した自叙伝。

『聴かずに死ねるか!
小さな呼び屋トムス・キャビンの全仕事』
麻田 浩/奥 和宏共著
リットーミュージック

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