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特集

2019年05月24日 (金) 特集

Lesson 1 歴史から役割まで! SSTVプロデューサーインタビュー ミュージックビデオとは?

沢田房江さん

SPACE SHOWER MUSIC AWARDS統括プロデューサー

株式会社スペースシャワーネットワーク コンテンツプロデュース本部 アーティストプランニング部 ゼネラルプロデューサー

SSTV開局直後から関わり、現在“SPACE S HOWER MUSIC AWARDS”のプロデューサーも務めている沢田さんは、おそらく日本でもっともMVを観ているだろう方。ここでは、日本の音楽シーンにおけるMVの役割や潮流の変遷を同氏に教えていただいた。

MVは様々なクリエイターが集まって生み出す作品。
そこに感謝とリスペクトを込めています。

映像作家が憧れの職業になりスター監督がたくさん出てきた

かつてプロモーションビデオ(PV)と言われていたミュージックビデオ(以下MV)は、現在、コンテンツマーケティングの一環として、広告やアートなど様々な分野で“伝わる表現ツール”として注目されています。そもそもMVは、音楽業界が育てたカルチャーですよね?

スペースシャワーTVで“ミュージックビデオアワード”を開催した際、“ミュージックビデオ”という言い方にこだわりました。プロモーションコンテンツというだけでなく、MVはアーティストの楽曲と様々なクリエイターが集まって生み出す作品なんですよね。そこに感謝とリスペクトを込めて1996年に“SPACE SHOWER MUSIC VIDEO AWARDS(通称MVA)”を現在の社長の近藤を中心にスタートさせました。その後、海外でも日本でも楽曲のヒットにはMVの存在が不可欠となり、映像作家がクローズアップされて、憧れの職業になっていきました。

昨今、宣伝力でニューカマーによるヒットを生み出しづらい時代ではありますが、Suchmos、King Gnu、ヤバイTシャツ屋さんなど、MVをきっかけに新しいスターが続々誕生しています。MVからヒットが生まれる現象をどのようにお考えですか?

そもそも以前はMVを観られるメディアがあまりなかったんですよ。それで、音楽チャンネルとして1989年にスペースシャワーが設立されました。24時間音楽だけのチャンネルとしてMVは楽曲を伝える重要なアイテムでした。当時はスペシャのヘビーローテーションなどからもヒットが生まれてきた時代でもありました。楽曲ヒットとともにMVが話題になった作品で印象深いのは、竹内鉄郎監督が手掛けたウルフルズの「ガッツだぜ!!」ですね。楽曲コンセプトを江戸時代風の設定の世界観で表現した素晴らしいビデオです。スペシャでもたくさんかけましたし、初年度のMVAでは“VIDEO OF THE YEAR”を受賞しています。その後、2000年以降にインターネットが発達してYouTubeなど動画投稿サービスが人気になったことでMV人気は確立しました。

スペシャなどの音楽チャンネルが、映像作家育成を含め、MV文化の土壌を作り、広めたことで今があるのですね。

スペシャができたばかりの90年代当初は、海外のMVのほうがダントツにクオリティの高い時代でした。スター監督がたくさん出てきた時期で、当時活躍したその後、デヴィッド・フィンチャー、スパイク・ジョーンズ、マーク・ロマネク、ミシェル・ゴンドリーらはその後映画監督としても活躍しています。スター監督だけの作品集、MV集がリリースされていた時代もありました。その影響を受けているミュージシャンや映像監督は多いですね。

「ガッツだぜ!」ウルフルズ
(C)ユニバーサルミュージック

楽曲作りと映像作りが表裏一体となっている

最近では、ヤバイTシャツ屋さんの寿司くん(こやまたくや)や、yahyelの山田健人さんなど、音楽と並列で映像もクリエイトするアーティストが増えました。

私もそれは感じていて、ここ4〜5年、映像へも理解ある若いアーティストがたくさん登場していますね。バンドをやってる子もいれば、ヒップホップ界隈などでも自分たちのクルーのなかに映像担当がいたり、そういうチームを持っているケースが増えていて。

King Gnuもそうですよね。

King Gnuも、メンバーの常田大希さんが主宰するクリエイティブレーベルチームPERIM ETRONがあってMVやアートワークを手掛けていますね。King Gnu以外でもTempalayやTENDOUJIの映像も作っています。

ヤバTの寿司くんは特殊ですよね?

寿司くんはバンドメンバーでありつつ、もともと大阪芸大で映像を勉強していた方で。すごいスペシャを観てくれている方なんですよ。バンド以前から映像を作っていて、仲間であった岡崎体育さんのMVも初期から手掛けて、「MUSIC VIDEO」という作品では文化庁メディア芸術祭で賞も受賞しています。山田健人さんは自身のyahyelはもちろんですが盟友であるSuchmosもデビュー当時からMVを撮っています。その後は宇多田ヒカルや水曜日のカンパネラも手掛けていますね。あと、最近の若いヒップホップのアーティストの周りにも独自のネットワークがあり、若いディレクターがたくさんいます。クルーのなかにいる場合も多いです。海外も同じような動きがあって、Superorganismというバンドにはデザインや映像表現担当がいるんです。ともすれば、楽曲作りと映像作りが表裏一体となっていて。面白い傾向ですね。

チームに理解者となる映像作家がいると強い

近年、特に印象深かったアーティストや作品をうかがってもいいですか?

前に説明した、MVに焦点を当てたアワードMVAは2015年に一度終了し、今はアーティストとクリエイターの1年の活躍に焦点を当てた新しいアワードとして“SPACE SHOWER MUSIC AWARDS”を開催しています。そのなかでも年間で活躍してMV監督に贈るベストビデオディレクター賞はMVAに引き続き設けています。yahyelの山田健人さんは去年受賞で、今年は水曜日のカンパネラや米津玄師「Lemon」、あいみょん「マリーゴールド」、KID FRESINO「Coincidence」を手掛けた山田智和さんが受賞しました。

ちなみに、ここ数年、新人であればあるほど、ハードルが下がったこともありMVの制作費がかけられないという現状もあるようです。そんななか、寿司くんが手掛けた岡崎体育のヒット曲「MUSIC VIDEO」は7万円以下で作られたと話題になりました。もちろん、予算以上に岡崎体育や寿司くんのアイデア、行動力、プロットの素晴らしさがあってのことだと思いますが。

衝撃的でした。あるあるネタというMV愛を感じながら、新しさを感じました。アイデアが斬新で、ヤバTのビデオも全部そうなのですが、予算の使い方が面白いんですよ。“えっ、そこに使う?”みたいな。でも、機材にかかる費用が昔にくらべてリーズナブルになってきた昨今、アイデアを重視するということは、とても重要な要素だと思います。そのためにも、チームに理解者となる映像作家がいると強いですよね。

かつて放送機材で撮っていた時代もあれば、今はiPhoneでも撮影できたり編集できる時代ですもんね。スマホで編集するのが遊びの一環となる時代となりました。

映像の在り方が変わってきていると思います。撮影機材もプロ仕様のものからアマチュア仕様のものまで安価で手に入るようになり、編集もPC上でもスマホでも完結する時代となりました。昔にくらべ誰でも動画に触れるチャンスが増えているし、動画に対するハードルが下がっていると思います。無闇に予算をかけなくてもMVは作れる時代になってきていますから。

表現者のこだわりは予算で測れるものではなく、作品の付加価値を表現してくれるチームの重要性ということですよね。映像作家を讃える“SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2019”などで、映像作家への評価基準といったものはありますか?

MVはその曲の世界観をさらに広げるための機能を持っています。楽曲の魅力をより良く表現してくれる作品は素晴らしいと思いますし、時代感や、その監督が年間でどのくらい素晴らしいミュージックビデオ作品を作られたかという点にポイントを置いています。

「アルクアラウンド」サカナクション
(C)NF Records

みんなで踊れる作品や縦型などスマホ向けの作品も増えてきた

MV編集で流行っている傾向などはありますか?

時代性が表れますよね。最近だったらあえて90年代っぽいような、ゲームっぽい画質で演出する作品が増えている気がします。あと、ここ数年では、ダンスがポイントでみんなその振り付けで踊れる作品や縦型の映像など、スマホで観て完結する作品なども増えました。AR機能がついていたり360度のVR作品など、スペシャの放送ではなかなかその作品の本意が伝わらない場合もあります。

でも、その監督の取り組みを評価する場としては機能していますよね。では、MVの歴史を語るうえで欠かせないという作品をいつくか教えてください。

先ほど話したウルフルズの「ガッツだぜ!!」や、こんな作品が日本から出てきたんだって感動したのは宇多田ヒカルさんの「traveling」。紀里谷和明監督による色彩感覚のすごさや、作品自体も観たことのない世界観に驚かされました。いつも印象深いビデオを出してくれるといえば電気グルーヴもそうですし、サカナクションもそう。MVAでの賞を何度も獲ってもらったし、「アルクアラウンド」や「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」は“VIDEO OF THE YEAR”を受賞してもらいました。MVAでは丹修一監督、丹下紘希監督らの作品や、児玉裕一監督などもベストビデオディレクターの常連だったりしますね。きゃりーぱみゅぱみゅさんと田向潤監督の登場もMVの新しい時代を感じました。あとは、コーネリアス作品もすごいですよね。近年は星野源さんとか、米津玄師さん、椎名林檎さん、平井堅さん、水曜日のカンパネラをはじめ、期待を裏切ることのない素晴らしい作品を出し続けてくれるアーティストさんがたくさんいらっしゃいますね。

これから活躍していこうというアーティストや、マネージメントのスタッフへ、MV制作で悩んでいる方へ向けてアドバイスをお願いします。

最近は、どんな新人アーティストさんでもMVを作るようになりましたよね。昔は予算がかかるものだから作りたくても作れない時代もあったと思います。とはいえ、なかなか予算がかけられないとすれば、仲間内というか、クルーとは言わなくても自分たちの世界観を理解してくれる友人に頼んだり、SNSで探してみたり、興味ある人と手作りするアーティストも増えていますよね。MVを作って発信したら、世界中で観られる時代になりましたから。

スペシャが映像作家の評価軸を作ったことで、憧れた子がクリエイターとなり、新人アーティストのビデオ作品が増えたのかもしれませんね。

MVの監督たちと話していると、MVは好きでやりつつ、将来的にはCMや映画を撮ってみたいとか、自分の作品を広げていきたいとおっしゃる方も多いし、登竜門のひとつとなっています。それこそ、低予算でも作品を撮れる新しい映像作家の需要は増えていますよね。今後も驚きの作品と出会えることを楽しみにしています。

PROFILE

開局直後にスペースシャワー(現スペースシャワーネットワーク)入社。編成部、ミュージックディレクターを経て現在の部署に。“SPACE SHOWER MUSIC AWARDS”の統括プロデューサーを務める。

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