特集記事

2018.10.19

SPECIAL

特集記事

名古屋E.L.L.

interview #2

名古屋E.L.L.
平野茂平 会長

“E.L.L.”の名称で親しまれるElectric Lady Land。名古屋でライブをするならここのステージに立ちたいというアーティストは少なくないはずだが、そのブランディング力の秘密をひも解くべく、平野会長にインタビュー!

text:吉田幸司 photo:鈴木ケイタ

マイナーだからここではなく、メジャーでもあえてここで、
ということができるといいなと思うんです。

老舗が一番設備投資をして “古いけど新しい”がコンセプト

ここ数年、新しいライブハウスが続々とオープンしている印象があります。

名古屋が特に増えていますね。同じ店が2軒目、3軒目を出したり、ここのところ毎年3軒ずつくらいオープンしている。

それはつまり、名古屋のライブハウスシーンが好調だからだと言えると思うんです。それはなぜだと思いますか?

アクセス的なこともあるんじゃないですかね。東京と大阪の間にあって東京から高速バスで2,800円で来れたりとか。これで2027年にリニアモーターカーができたら、品川まで40分ですから。もはや通勤圏ですよね。品川から吉祥寺に行くより早いくらいですよ(笑)。

愛知全体や中部地区くらいにまでその範囲を広げると、状況はどうでしょう?

岐阜や四日市など周辺にも新しい店が何軒かできてきてますね。名古屋市内ほどではないですし、ロックバー的なものとかも多いんですけど。家賃が上がっているのは名古屋駅周辺だけなので、それ以外は安くてテナントも非常に借りやすい時代にはなってますね。

そうしたなかで、E.L.L.が今一番大事にしていることというと何でしょう?

ライブハウスがすごくたくさんできてきたので、うちはエンタテインメントとしての確立といいますか、しっかりした音響照明設備だとか、ステージが高いとか客席が段になっていて見やすいとか、お客様の居住性だったりとか、そういったところでほかのエンタテインメントに負けないようにしようというのは、ここを作った段階から気にはしているところですね。

老舗だからとあぐらをかくことなく。

老舗のハンディキャップって設備が古いことだと思うんです。それをひっくり返すには、老舗が一番設備投資すれば新興のライブハウスにも勝てる。古いんだけど新しい。自分のコンセプトとしてはそうですね。

伝統と最先端の共存ですね。

2000年にここに引っ越してきた頃には、ロックがアンダーグラウンドのものから産業としてオーバーグラウンドのものになってしまっていたんです。ライブハウスがいつの間にかメジャーへの登竜門になってしまっていた。僕はカウンターカルチャーだと思って、オーバーグラウンドでは受け入れられないからライブハウスが必要だと思って始めたんですけど。簡単に言えば踏み台としての機能を要求されてしまった。ということはいわゆるメジャーのエンタテインメントで通用するだけのスキルがバンドにもスタッフにも必要だということで、2000年に引っ越しをして、はっきり言って方向転換を、非常に目に見える形でやって、この形になったんですよね。

オーバーグラウンドでも通用するバンドやスタッフを育てるライブハウスへ方向転換したと。

はい。そして、ただキャパシティだけを追い求めるのではなく、まったく同じスペックのものを用意した、いわゆる小バコと言われる150、250キャパの会場を作ったんです。今3会場あってキャパは違うんですけど、どこも過剰な音響照明設備と見やすいステージ、見やすい客席、空調から水周りに至るまでのインフラを最新のものにして。3軒ともコンセプトは同じで、キャパだけが違うんです。まあ、昔から過剰な設備投資というか、基本的に200%の設備っていうのが自分のコンセプトなので(笑)。

赤字覚悟で(笑)。

はい(笑)。だから、バンドがここでやるとカッコ良く見えるようにしたい。簡単に言うとね。たとえばストリートでやってるバンドがそのまま出ても、なかなかお金はとれないじゃないですか。ところがうちへ来てライブをやると、たとえば3千円のチケット代がとれる。それが僕、エンタテインメントだと思うので、そういう環境を目指したいということですね。なので、自分で言うのもなんですけど、設備投資に関しては、わりと金に糸目をつけてないという(笑)。

視覚的な部分も大事。しっかりした照明とか音響が必要だと思う

最近のバンドの状況については、何か思うことはありますか?

名古屋は今、若いバンドがすごく出てきてますね。ただ、うちなんかは敷居が高く見られてて、とてもじゃないけど出られないという。せっかく小さい小屋も作ったんですけどね(笑)。なので、そういう若いバンドたちが気軽に出られるような小バコが何軒もできてきたというのもあるんでしょうけど。でも大変ありがたいことに、そういう若いバンドたちもE.L.L.でやりたいと言ってくれていて。で、出てもらったりもするんですけど、残念ながらスキルがついてきてない。アンダーグラウンドとオーバーグラウンドではやっぱり違うので。そこで初めて、“いや、ちゃんとやらないとダメだよな”ってわかってもらえる。というような状況ですかね。

E.L.L.のステージに立つには、この設備に見合う力量がないといけないという。

僕は音楽って視覚的な部分も大事だと思うから、しっかりした照明とか音響が必要だと思ってこうしたんですけど、逆にそれが100%機能したときに、バンドって結構機材負けしちゃうんですね。こういう環境でちゃんと演奏が成立しないと、たとえばフェスで野外のデカいところに行っても空振りしてしまう。だけど逆に言うと、ここでできれば、アリーナとかに行っても大丈夫なんですよ。

そういう意味では、やっぱりライブハウスにはオーバーグラウンドへの橋渡し的な役割があるというか。

というか、もうその仕切りがないと思うんですよ。ボーダレスなので。オーバーグラウンドのスキルでもできる小屋を作って、たまたまそのキャパが(ホールより)小さかったというだけで。

名古屋E.L.L.

ここでちゃんと演奏が成立すれば、 アリーナに行っても大丈夫なんですよ。

職業として選んだら それで一生食い通してほしい

なるほど。一般的にはついホールとライブハウスで区別しがちですけど、それは単なるキャパの違いだけだという。

そう。で、うちは大中小と作ったんですけど、スペックをなるべく同じにして。小バコはヘボいって言われるのが嫌だったんで。たとえばお客さん1人あたりの照明の数とか、そういうのもなるべく等しく作ってるんですよ。なので内容的にはまったく同じことができる。最近は、本公演を大きいところでやって、その前の日にファンクラブライブを小さいところでやるみたいな使い方をしていただいたりもしていて。つまり、そのとき必要なキャパを提供する。それが150なのか550なのかっていうだけで。

用途に応じて使い分けができると。

で、なるべく同じスキルでできるっていうことは、アーティストのプライドを尊重できるし、アーティストのやりたいことを阻害しない。たとえばモニターは24系統くださいって言われたら、こっちでもこっちでも24系統でできますよと。マイナーだから小さいところでやるのではなく、メジャーでもあえてここで、ということができるといいなと思うんです。だから演者のほうにもっと引き出しが増えてくれば、たぶんこういうキャパはもっと活きてくるんじゃないかと思うんですけどね。

確かに。

こないだ某メジャーボーカリストが飛び入りして、ステージの上で奇しくも言ってたんですけど、「このキャパじゃいっさいごまかしがきかねーんだよ!」って。お客さんを個として認識できるキャパの限界が僕、500だと思ってるんですよ。それが千になると点に見えてくる。5千とかになると、もう波なんです。“個対個”として対峙できるマックスだと思って、僕はここのキャパを550に設定したんです。

それがアーティスト側からしたら“ごまかしがきかない”ってことになる(笑)。

そうです。お客さんがあくびしてるのまで見えちゃうわけですから(笑)。

改めて、E.L.L.というライブハウスがバンドのことを大事に考えていることがわかりました。

やっぱりね、ミュージシャンを職業として選んだら、それで一生食い通してほしいという思いがありますから。いわゆるプロとしての寿命を業界の使い捨てにされるんではなく、やっぱりちゃんと自分のアイデンティティを持って一生がんばってほしいですからね。

Electric Lady Land

Electric Lady Land

愛知県名古屋市中区大須2-10-43.(最寄り駅:大須観音駅)
052(201)5004

“E.L.L.”の名称で親しまれる、1977年にオープンした名古屋の老舗ライブハウス。2000年に現在の場所に移転。吹き抜けの天井の高さが圧巻で、同店のキャパは550人。なお、同ビル3Fにell.FITS ALL(キャパ250人)、すぐ横にell.SIZE(キャパ150人)がある。

タグ: