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2018.07.19

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小鐵 徹さん 株式会社JVCケンウッド・クリエイティブメディア JVCマスタリングセンター代官山スタジオ

名匠に聞く!
マスタリングエンジニア

小鐵 徹さん
株式会社JVCケンウッド・クリエイティブメディア JVCマスタリングセンター代官山スタジオ

マスタリングとは“素材にお化粧を施すこと”だという小鐵さん。50年以上にわたってマスタリングとカッティングを手掛けている名匠に、アナログの音の良さの秘密を聞いてみた。

text:今津 甲

アナログ盤には、人間というアナログな存在に合うような
テイストがあるんだと思うんですよ。

音が良いと言われるのは人間の耳に生理的に合うから

アナログの優位性をどんなところに感じてらっしゃいますか?

音楽もファッションのひとつ。で、ファッションにとって何が一番大事ですか?

カッコ良さ、ですかね。

その通り。靴も服も自分がそれをカッコいいと思うから買う。そこは音楽も同じで、CD好き、アナログ好き、カセット好き…いろいろいていいというのが僕の考えなんです。アナログレコードは音が良いと言われるのは、それが人間の耳に生理的に合うからじゃないか、とは思ってますけどね。

そうなるには何か理由が?

僕は30年以上カスタムメイドのアナログ卓を使い続けているんですけど、まずそこを通すだけで心地いいテイストがつくんですよ。ザ・クロマニヨンズとかはCDでもアナログテイストが欲しいっていうんで、持ち込まれた音源をこの卓を通してお化粧したうえで、一度アナログ盤にカッティングするんです。それに針を落として再生したものをコンピュータに取り込む。彼らはずっとこのやり方です。

職人たちの手で、すべてJVC製品で組まれた、世界でただひとつの小鐵さん専用のコンソール。

職人たちの手で、すべてJVC製品で組まれた、世界でただひとつの小鐵さん専用のコンソール。

アナログ回路を通しさえすればOK、なんですか?

いや、それだけでアナログ盤を作ろうとしたら聴けたもんじゃありません(笑)。カッティングマシンには不意の大入力で溝が深くなりすぎて針飛びしないように、リミッターがついているんです。曲ごとにそれで調整していく必要がある。たとえばこの歌の何分何秒に「シ」とか「サ」とか「タ」みたいな耳につきやすい音があるから、そこだけリミッターをかけようって。

そういうのってコンピュータ制御の機械だったら事前にプログラムしておけば勝手にやってくれますが。

僕が長年使っているカッティングマシンは70年代製ですからね。すべて手作業なんです。カッティングしつつ問題の箇所が来たらサッとリミッターのツマミを上げて、またすぐ戻す。でもそれが成功だったかどうかは、1曲カッティングし終わったあとに針を落として再生してみないとわからない。そこがアナログ盤の難しいところなんです。

僕らが提供したいのは音楽であって、音圧ではない

これだけ経験を積まれていてもまだ一発OKにはならないことも?

ありますね。歌のなかの「サ」や「シ」みたいな音って、シンガーによっても、1曲のなかの出てくる箇所によっても、タイミングが違いますからね。だから毎回、その曲の歌詞やノリをおぼえてからのぞんでいる。でもそういう過程を経ているからこそ、アナログ盤に人間というアナログな存在に合うようなテイストが生まれるんだと思うんですよ。

常に耳や目で判断しながら心地よい音を求めて作るゆえ?

そう! デジタルはそのままじゃ目に見えないしね。とはいえCDは針飛びとかを気にせず、より大きな音を記録することができる。だからヒップホップやテクノには向いていたりしますよね。僕もその音楽が求めているときは大きめの音でまとめるし。そういう部分でもどっちが良い悪いじゃないんです。ちょっと前までアメリカを中心にあった音圧競争だけは納得いかなかったですけどね(笑)。僕らが提供したいのは音楽であって、それを崩すような音圧ではないわけで。まあ、アナログ盤の時代も音圧競争はあったんですけどね。

アナログレコードのマスターを作るカッティングマシンは、ノイマンVMS70を使用。

アナログレコードのマスターを作るカッティングマシンは、ノイマンVMS70を使用。

あ、そうなんですか?

シングル盤をいかに有線で大きく聴かせるか、っていうのがあったんです。そのときはさっき言った方法で針飛びしそうな音だけ抑えて、極力大きな音でカッティングしましたけどね。そんな面倒くさいことしないで全体の音を下げるやり方もあったんだけど、我々は職人だから意地でも全体の音量は下げるか、っていう(笑)。

いやー本当に職人さんの世界ですね、アナログ盤の製作って。

好きでないとできない世界ですよね。僕の場合、日本にまだマスタリングって言葉がない頃から輸入盤を聴いて試行錯誤してたんです。向こうの音に感動して、そのことで自分の引き出しを増やしながら。自分がやったレコードが針飛びで回収されて、くやしい思いをしたこともあるしね。でもそうやって学んで、お客さんの要望に同時通訳の速さで応えられるぐらいまできて、今は80才まではやるつもりでいます!

Tohru Kotetsu

日本を代表するマスタリング&カッティングエンジニア。井上陽水、山下達郎、THE YELLOW MONKEY、ザ・クロマニヨンズ、くるりら多数のアーティストを手掛けている。

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