音楽にまつわる「ちょっといい話」

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第33回 音楽制作者のための「任意後見」のすすめ[任意後見制度]

今回のゲスト

今回のゲスト

佐々和亮さん

(特定非営利活動法人 任意後見利用促進協会 理事長)
1954年、横浜生まれ。早稲田大学卒業。放送局、広告代理店を経て、フリープロデューサーとして活動。海事補佐人だった父親が認知症・要介護となりサポートをした経験から、任意後見の重要性を痛感し、普及・啓蒙活動を開始し、現在に至る。2017年に任意後見利用促進協会(日本スマートライフ協会より改称)理事長に就任。

 みなさんは「任意後見」という国家制度をご存知だろうか。簡単に言うと、あなたが認知症になる前に、認知症になったあとのお金や生活のことを、家族など信頼できる人たちにお願いしておこうというものだ。
 今回は、この任意後見が音楽制作者にとってもいかに重要な制度であるかを、NPO法人「任意後見利用促進協会」の佐々理事長にわかりやすく解説していただいた。

2025年には日本人の10人に1人が認知症に?

 任意後見制度とはどんなもので、なぜ大事なのか、そもそも私たちが認知症になる危険性はどれくらいあるのか? まずはそうした基本中の基本から教えていただいた。

まずは「任意後見制度」とは何か、そこから教えてください。

「任意後見契約に関する法律」という特別法で定められた国が利用促進している契約制度で、あなたが認知症になる前に、認知症になったあとのお金や生活をどのようにするのかをあらかじめ決めておくものです。たとえば、私が父親だとしたら、長男にはこれを頼む、長女にはこれを頼むと、そういうふうにあなたとあなたが信頼できる人との間で契約を結んで準備します。そして、ここも大事なポイントなんですが、この制度の利点は、認知症にならずに人生をまっとうできたときは効力が発生しないことです。つまり、認知症になったときのための「掛け捨て保険」のようなものとお考えいただけるとわかりやすいと思います。

なるほど。

人は認知症になると、自分で自分のことを認識できなくなるので、これまで通りの社会生活を送ることが困難になります。たとえば、預貯金の入出金、金融資産や不動産・動産の売却・処分、署名・押印、申請手続きなど、また法人団体等の役員の場合は業務執行もできなくなります。だからこそ、認知症になる前に、任意後見を利用して自分の意思をはっきりさせておくことが重要だと言えるわけです。ちなみに欧米先進諸国では任意後見で認知症に備えることがスタンダードになっています。

とはいえ、多くの人は自分が認知症になるなんて想像できないと思うんです。

2015年の1月に厚生労働省が発表しましたが、2025年には認知症患者が700万人を超えると言われています(『認知症施策推進総合戦略〜認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて〜(新オレンジプラン)』)。それを受けてNHKが特集を組んだんですが、そこでは、予備軍と言える軽度認知症も含めたら2025年に1,300万人時代に突入すると言っていたんです。1,300万人といったら国民10人に1人ですよね?

日本人の10人に1人…決して他人事ではないわけですね。では、任意後見をしないで認知症になってしまった場合はどうなるんですか?

その場合、「成年後見制度(法定後見)」を利用することになります。ただし、この制度では家庭裁判所がすべてを決めますので、家裁が選ぶ第三者(弁護士や司法書士等)によって、認知症になったあなた名義のすべての財産や生活が管理されることになります。あなたの財産から、たとえば家族の生活費や医療費、子供や孫の教育費なども捻出することができなくなります。

言ってみれば、任意後見は家族や大切な人を守るための制度でもあるわけですね。

おっしゃる通りです。

任意後見の手続きに必要なことを教えてください。

絶対条件は、あなた(委任者)と、あなたの信頼できる人(受任者)に契約能力があること、あなたがあなたの信頼できる人にお願いすることを決めて公正証書で契約すること。以上です。任意後見契約は公証役場で公正証書にします。費用の目安は3〜4万円です。それしかかかりません。書類作成の手数料だけで、公証役場で公証人に相談するのも無料ですから。それで認知症になったときの安全を確保できるんです。公正証書にするのは公証役場ですから、公証人がキーマンということになります。

著作権使用料や印税等を第三者に管理されないように

そうした任意後見制度の周知のために尽力している佐々さんだが、実は、この制度は音楽制作者たちにもとても大事なものであるという。

佐々さんは実体験で大変な目にあったそうですね。

私の父は70才のときに認知症を発症しました。父はすこぶる健康で、「俺は認知症になどなるわけがない!」と豪語していたので心底驚きました。一番困ったのは、預貯金や金融資産、不動産が父の名義になっていたことです。家庭裁判所から「父名義の財産はすべて、父のため以外に使えません」と告げられ茫然自失となったことを思い出します。84才で亡くなりましたが、その間、母は5回入院しました。しかし父の財産からは1円も拠出することができませんでした。父の正妻である母の入院費すら認められないなんてどうかしていると憤りを感じました。このようなことから成年後見制度のあり方に疑問を持ち、任意後見を正しく周知させる活動を始めたんです。

なんでも、この任意後見は音楽制作者にとってもとても重要な制度だそうですね。

お金の話で恐縮なんですが、一番大きな問題は、認知症になってから利用する成年後見制度では、音楽制作者のみなさまが心を込めて作った作品の著作権使用料や印税等が第三者によってすべて管理されてしまうということです。だからこそ、任意後見を利用していただきたいと思うわけです。

音楽を制作するうえで権利はつきものだし、だったらなおさら大事ということですね。

そうなんです。音楽は芸術ですから。みなさんがどんな夢を持って作詞作曲したんだろうと思うと、縁もゆかりもない第三者に管理されてしまうのはいかがなものか。それが任意後見であれば、信頼できるマネージャーに頼んでおくとか、そういうことも決められますから。

歌を歌うと脳が活性化するという説もありますから

なお、現在佐々さんは、イメージソングを作るなど、音楽を使って任意後見の大事さを一般に、特に若い世代に広めようと画策しているそうだ。そんな佐々さんから、音楽の魅力についても話を聞いた。

佐々さんにとって、音楽とはどんな魅力を持つものだと思いますか?

音楽に国境はないじゃないですか。だから音楽は、すべての国境を越えて人々の心に届けられる素敵な贈り物だと思います。

佐々さんも音楽をやられていたり?

ときどきクラシックや歌謡曲を流しながら指揮者の真似事をしています。体操がわりといったらお叱りを受けそうですが、結構いい運動になります(笑)。それと、ギターもたまに弾くんですが、弾いていると頭が冴えてくるんですよ。

極論を言うと、音楽が認知症予防につながることもあるんでしょうか?

最近になって、認知症ケアのひとつとして「音楽療法」が注目を浴びています。当協会理事の町田洋子さん(日本体育大学音楽講師)は、ご主人の町田和彦さん(早稲田大学名誉教授)とともに、ご高齢者の施設を訪問し、入居者と唱歌を歌う活動を行っていて、とても好評です。入居者は歌うことで表情を取り戻し、笑顔が生まれると聞きます。歌を歌うと脳が活性化するという説もありますから。あと音楽療法と並んであるのは、タクティールケア。

相手の手足や背中に優しく手で触れる、というやつですね。

そうです。それから回想法というのがあるんですよ。昔話をする。それも脳のどこかを復興させるらしいんです。

東日本大震災のときには、多くのアーティストが音楽に無力さを感じたと言っていたんですが、人を元気にさせてくれるわけで、音楽の力というのは、やっぱりすごいということなんでしょうね。

音楽にはものすごい力がありますよ。だって、ここまでスッと脳を活性化するものって、ほかに何があります?

そうですよね。だから、音楽を作っている人は、音楽に自信を持っていい。

その通りです。それはジャンルも問いません。親しい弁護士は、事務所で音楽をかけてますからね。「音楽を聴いてると訴訟の文言がスラスラ出てくるんだよ」と(笑)。

素晴らしい!

だから堂々と、自信を持ってください。音楽を聴けば脳が活性化するということを、私の知るかぎり否定する人はいませんから。

音楽は芸術であり文化であるが、もっと根源的に大事なことを、この取材を通して知れた気がする。音楽は人の心を豊かにし、そして人に生きる力を与えるものなのだ。

text:吉田幸司

任意後見制度

任意後見制度

「任意後見制度」とは、あなたが認知症になったときに備えて、あなたの身上と財産を守る日本の法律制度のこと。家庭裁判所にすべてが決められてしまう「成年後見制度」と違い、あなたの意思で老後のことが決められる「自己決定権」を尊重していることが最大の特長だ。より詳しく知りたい方には、任意後見制度の普及と推進を目的としたNPO法人「任意後見利用促進協会」が企画した『任意後見サポートキット』(一般社団法人 任意後見サポートクラブ著/文芸社発行)がおすすめ。

http://www.vgpa.or.jp/

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