特集記事

2017.09.15

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佐々木 舞さん YouTube 音楽コンテンツ担当

#1_「良い音」レコーディング現場編
Ta_2(OLDCODEX)×比留間 整(レコーディングエンジニア)

数々の音にうるさいアーティストのレコーディングを手掛けるエンジニアと、ラウドバンドOLDCODEXのボーカリストの対談が実現。最新作でも手を組んだ彼らにとって、レコーディング現場の“良い音”とは?

text:岡本 明

“良い音”って結局、“蓄積”なんですよ。
いいなと思った音を覚えておくことが大事。

Ta_2の頭のなかには絵があるみたいで、イメージで言ってくる

お2人はどういうつながりで知り合われたんですか?

Ta_2アルバム『CONTRAST SILVER』で、表題曲のサウンドプロデュースをINORANさん(LUNA SEA)にお願いしたんです。そのときにINORANさんのスタッフさんでレコーディングをしたいという希望があったので、比留間さんにお会いして。それから僕らもレコーディングをお願いするようになったんですけど、気がつけば比留間さんなしでは生きられない体になっていました(笑)。

ほかのエンジニアの方との違いはどのように感じました?

Ta_2最初にキックを鳴らしている音が、すでにミックス後かなというぐらいのクオリティだったんです。キックのスピード感、音の太さが全然違って聴こえて。ほかの楽器も説得力があって、ちゃんと弾き手、叩き手がそこに見える。個人的にはそれが大きかったですね。そのうえで、「じゃあ、こういうのは試せますか?」とか。比留間さんの経験値が高いので、質問したらすぐ答えてくれるんです。「ここが気になるんです」って言うと、「ここをこうしたらどう?」って。帯域の話とか何デシベル上げてとかわからないので、スピーカーの前に行って、このあたりの上から下のあたりが欲しいとか、ここがスカッとしているようにしてほしいとか。感覚で話しても答えてくれるのが心地いいですね。

比留間Ta_2の頭のなかには絵があるみたいで、専門用語ではなくイメージで語ることが多いですね。Ta_2の場合は俳優や声優もやっているので、本当に絵を描いている感じがするんです。音に対して、赤い音とか青い音とか言ってくる。ま、そういうスイッチはどこにもないんですけどね(笑)。

プレイヤーの雰囲気が見える、人が弾いているのが見える音

そして今回の“良い音”というテーマですけど。ジャンルや曲調によって良い音の基準は違うと思いますけど、これはゆずれない、“良い音”の基準というと?

Ta_2ずっと言ってるのは、切り貼りしたような音にはしたくないということですね。エディットばかりして、この音がいいからこの音につなげる、みたなものにはしたくないんです。プレイヤーの雰囲気が見える、人が弾いているのが見える音。今は1人でも作れるじゃないですか、いろいろなソフトを駆使してそれっぽい音にして、いろいろなところから音を引っ張ってきて作れば。それが見える音は嫌だなって思いますね。

比留間OLDCODEXはライブのパフォーマンスがすごくて、人間的というか熱いんです。あれを見ちゃうと、レコーディングもそこにちゃんとつなげていかないとなって思いますね。特にアルバムは、この曲はライブのこのへんに入るんだろうなとか考えながら作るのも面白いですね。

Ta_2ひとつテーマになっているのは、ボトムの太さ。軽快になりすぎないというところはいつもあります。自分たちの根底にあるのはラウドロックなので、そういう音作りなんです。ハードロックに近い、ギターやベースがズンズン鳴って、タムがドンッて響いた途端にブワッて全身が震えるような、そういう音が基盤でありたいんです。録り音も、スネアは軽すぎないようにして、タイコ類もスピード感がありながらちゃんと叩いた点が見えるようにしたくて。手数も多いし、テクニカルなところも入れがちなんですけど、それでも音の粒が見えつつ、太さも必要ですね。

あるとすれば低音へのこだわり?

Ta_2そうですね、普通のボーカリストよりミッドローがうまみで出ていると思うので、バンドと一緒になってグッと前に出る音が心地いいなというところがありますね。

比留間でも、歌が良くなったよね。今回のレコーディング(アルバム『they go, Where?』)を始める前にマイクを吟味したいと言っていて、それで試したんです。僕がいいかなと思っているマイクをすすめて。

Ta_2NEUMANNのU67Sを使ったんです。それでも声量が上がっているのかピーキーに聴こえる、角が取れたようなピークが見える音になっていて。それは全体の倍音が録れていないからだって、「Deal with」「Scribble, and Beyond」(ともに先行シングル)のときにそういう話が出たんです。アルバムのときはそこを改善したいと言うと、比留間さんのほうからSOYUZのSU-017が良さそうだと。それを借りてもらって、なおかつヘッドアンプも試しました。今までオールドNeveの1073を使っていたんですけど、ほかのものも試したいので、AMS Neveのリイシューモデルを借りて1073と1084を使って。アナログ的であり今の音も入っている、帯域もしっかり録れている。そうしたら、比留間さんからもっといいヘッドアンプがあるって言われて(笑)、adt-audioのV700シリーズのFET TYPEを使ってみたら、SOYUZの017に合っていて。それは1073よりも、ボーカルの置き位置がめっちゃ前まで来るんです。際限なく前に来てくれる。シングルではシャウトとかディストーションの効いた声だったんですけど、アルバムを通してそれはしたくなくて。シングルを聴いた人がアルバムを聴いたとき、意外に大人っぽいなと感じたり、メロディックな曲、世界観を作る曲を多めにしたかったので、そのためにはボーカルの近さ、帯域が全部録れていることが必要だったので、いいものを見つけたと思いました。

ハイレゾはスタジオで作っている音に圧倒的に近くて情報量が多い

スタジオの大型スピーカーだけでなく、ラジカセ、ヘッドホン、イヤホンでチェックというのもありますか?

比留間今は卓の上に置くニアフィールドが軸になっている現場が多いんじゃないですか。ユーザーもイヤホンが多いので、一応イヤホンでも確認しますけど。スピーカーとは違うので、そこは両方を聴きくらべながら間をとっていくことになります。仕事で使うヘッドホンは、オープンエアーだとSENNHEISERのHD 600、密閉型だとTAGO STUDIOで開発されたT3-01。その2つが多いですね。あと、OLDCODEXのレコーディングにかかわり始めた頃、Ta_2からハイレゾの話を聞いて、ヘーって言ってたら、Astell&KernのAKシリーズを使う機会をいただきまして。おかげでミックスのチェックはそれで全部できるので楽です。

Ta_2ハイレゾもそうですけど、名盤と言われるアルバムって、名盤になったものが最終的に良い音ということになるじゃないですか。たとえばニルヴァーナの音だって、当時は何でこの音でやってたんだろう?って思っても、それを聴いて育った人は、あの音最高だよねって思うんですよ。それをハイレゾで聴いて、“俺が聴いていた音と違う”“やっぱりレコードのほうが良かった”と思う人もいるかもしれない。結局、自分の「思い出補正」で作られているんですよ。だけど、原音を聴いてみたら、“あれ、こんな音?”って思うんですよね。

比留間年代が進むにつれてレンジが広がっているんですよ。下もそうだし。昔の音は今みたいに下が出てない音源が多い、軽い。でも当時はそんなこと思ってなかった。

Ta_2名盤をいい状態で聴いて、自分の耳にその音の貯金をしたいんです。俺は生粋のミュージシャンではなかったので、圧倒的に経験値が足りない。それで、ひたすら聴こうと思ったんです。片っ端から取り込んで、マスターに近い環境を作って聴く。それでハイレゾを試すようになりました。それを知っていれば、このアルバムいいよねっていうとき、iPhoneやmp3プレーヤーで聴いたときとの劣化の差がわかるじゃないですか。ここが圧縮されているとか。たとえばmp3プレーヤーだと、ミッドハイ、ミッドローが最初になくなっていく。円形からだんだん十字架に近い形になって音が出ていくんだなって、自分のなかでイメージができるんです。それだったらマスターを知っているほうが絶対いいんです。マスターに一番近い状態、スタジオリファレンスまでいけますよというものが、AK380、320。

比留間早かったよね、僕らがハイレゾはどうだろう?っていうときにTa_2はもう使ってた。ハイレゾはスタジオで作っている音に圧倒的に近いんです。そうなるとCDを聴かなくなるんですよ。CDはサンプリングレートが低くなるけれど、でもこれはそのまま聴ける。マスターからコピーしてそのまま聴けるから、このほうが情報量が多いんです。

アナログレコードに近くなってる?

比留間アナログは上が100kHzくらいまで入りますから。とにかく上が変わりますね。

Ta_2空間が一気に広がります。

比留間だから、さっきの「円形が十字架になる」というのは表現として合ってるんです。もともとなめらかなんですよ。アナログってずっと周波数がつながっているので、イメージは丸なんです。デジタルってどこかがなくなってる。

Ta_2“良い音”って結局、“蓄積”なんですよ。これがいいなと思った音を覚えておくことなんじゃないかな。

Ta_2 PROFILE

Ta_2

ボーカリストとペインターという変則編成のラウドロックバンドOLDCODEXのボーカリスト。5thアルバム『they go,Where?』を引っ提げ、現在ツアー中。2018年にはアリーナ公演も開催。1月13日(土)神戸ワールド記念ホール、2月8日(木)横浜アリーナ。

『they go, Where?』

ランティス/LACA-35650(限定盤:写真)、LACA-15650(通常盤)/発売中

Ta_2おすすめイヤホン

カスタムインイヤーモニターの先駆者ジェリー・ハービーが率いるブランドのユニバーサルモデルのイヤホン。12個のドライバーを搭載し、ハイレゾプレーヤーにも最適。

比留間 整 PROFILE

比留間 整

BUCK-TICK、OLDCODEX、L'Arc〜en〜Ciel、CIVILIAN、氣志團など、数々のロックバンド、アーティストのレコーディングを手掛けるエンジニア。

比留間 整おすすめイヤホン

比留間氏がレコーディングで使用しているヘッドホン2種。タゴスタジオは、音楽プロデューサー多胡邦夫氏が群馬県高崎市と手を組み立ち上げたレコーディングスタジオ。

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