音楽にまつわる「ちょっといい話」

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第29回 アナログシンセブーム再燃[Five G Music Technology]

今回のゲスト

今回のゲスト

鈴木清継さん

(Five G Music Technology代表)
1957年、静岡県生まれ。1990年にシンセサイザープロショップFive G Music Technologyをオープン。輸入代理店業務を行う有限会社福産起業の社長でもある。

 アナログシンセがブームになっている。アプリ化したシンセではなく、その前の世代のデジタル回路で構成された実機でもなく、最初期からある形のシンセサイザーが、である。しかもこのブームは幅広い。若手バンドのメンバーの口からその名が出るかと思えば、ガジェットを中心に紹介するWEBマガジンの常連になっていたりもする。あのピコ太郎は、アナログシンセと同様の回路を持つ往年のドラムマシーンの音を使ったことでも話題になった。昨年の夏に本誌で松武秀樹さんに取材させていただいたとき、使い古された巨大なモーグシンセサイザーを背に「最近はこれが気に入ってるんです」と披露された、手の上に乗るようなサイズの新型モーグ。今思えばあれも昨今のアナログシンセ事情を物語っていた。
 今回は、その事情をより深く探るべく、その道の第一人者を訪ねることになった。今や世界的に有名なアナログシンセの専門店、Five Gのオーナー、鈴木清継氏である。

1台1台に開発者の思い入れや個性をすごく感じたんです

JR原宿駅の竹下口を降り直進すれば、かの竹下通り。わずかに右に向きを変えて角のビルの4階に上がるとFive G。この寸差がもたらす結果の違いには笑ってしまう。店の入口で、来日した欧米バンドのメンバー風の若者たちとすれ違う。ハンパない量の楽器で埋めつくされた店内では、女性客が店員とディープすぎる会話を交わしている。そしてインタビューは始まった。

まずはアナログシンセの魅力を、鈴木さんの体験を通してお話しいただけますか?

僕はもともとギターをやってたんです。エフェクターで音を変えるのが好きだったし、ギターシンセも試したし、シンセが入ってるプログレも好きだったりしたんです。で、当時、もう40年近く前になりますけど、高田馬場にエレクトロニック・アートセンターというのがあった。非営利の団体で、主宰は上原和夫先生といって大阪芸大の教授も務めた日本のコンピュータミュージックの草分けのような方。学生なんかが触れることができないようなすごい楽器もいろいろあって、そこに通っているうちにアナログシンセにどんどん興味が出てきたんです。

アナログシンセのどんな部分に惹かれていったんですか?

1台1台に開発者の思い入れや個性をすごく感じたんです。デザインとかも含めて、楽器としてね。あと、音がのちのデジタルシンセにくらべて好みだったんです。プロの方と話しても「アナログシンセは音に抜けがある。奥行きを感じる」って言いますしね。それから僕はエフェクターの自作とかもしてたんですけど、修理という面から見た場合、アナログシンセは汎用の部品を使ってることが多くて修理しやすかったんです。これがデジタルシンセになるとメーカーごとに特殊なチップを使ってたりして難しいんですが。

そしていつしか専門店を開くことに。

そのために地球を1周しましたね。仕入れ先を開拓するために。香港、ドバイ経由でイタリア、フランス、ドイツ、オランダからイギリス、そこからアメリカ東海岸、西海岸に行って日本に戻ってくる。その間、見たこともないようなシンセに出会ったし、修理専門の業者もチェックしました。今は配線図をネットで落とせますけど、当時はメーカーの印刷されたものを買うしかなかったし、入手が難しい修理パーツなども大量に買ってきました。

コードをつないで音を出すという行為自体も新鮮なのかもしれない

インターネットがない時代ゆえの開拓旅行だった。メールもなかったので帰国後も海外とはすべて国際電話とファクス。しかも時差があるので真夜中の電話が日常だったという。こうして世界中に張りめぐらされたネットワークも今はほとんどが入れ替わったという。世代交代の波である。

シンセ業界にも新しい風が吹いてるんですね。

最近のシンセサイザーブームで新しいメーカーがどんどん出てきてるんですよ。なかには10代で創業した人もいるようですよ。

そこまで!

今、コンピュータは誰でも持ってるじゃないですか? で、フリーのCAD(設計ソフト)とかを使って自分で回路図を作って、基板を作って、っていうのができてしまいますから。

そうしたなかから出てきたシンセ界のヒット作というと?

やっぱりユーロラックでしょうね。これはもともとドイツのDOEPFERというメーカーが20年ぐらい前に作ったモジュラーシンセ(シンセの各機能を配線でつないで音を作っていくタイプ)の規格なんですが、7〜8年前からNAMMショー(毎年アメリカで行われる世界最大規模の楽器展)に行くとユーロラック規格のシンセを作ってる連中が目につくようになった。今は全世界で200社以上もあると言われてます。

共通規格のシンセを各社が競って作る。ユーザー側からすれば異なるメーカーのものを混在させながら自分だけのシンセを組み立てられる。確かにこれは今までになかった形だと思います。ただ、それで音を出すには各モジュールをいちいちコードでつないでいかないといけない、というのはアナログシンセのなかでも初期の形ですよね。それがなぜ今ブームなのか…。

たとえばユーロラックが一番盛り上がっているアメリカはシンセサイザーの歴史を作ってきた国で、すごく懐が深くマーケットが広いんですよね。だからコードでつないでゼロから音を作っていこう、という人の数も多い。日本でも松武秀樹さんなどベテランの方々は昔からそのタイプのシンセで音作りされてきましたけど、今の10代、20代の若者にとっては、自分でコードをつないで音を出す、という行為自体も新鮮なんじゃないですかね?

最近の傾向として日本では“シンセ女子”も増えている

今やこうしたタイプのシンセをシュミレートしたアプリもある。「でも、指先やマウスで配線の真似をするのと実際のコードをつなぐのとでは行為が違いますよね?」と鈴木さん。なんとなくブームの一端が見えてくる話である。そんなことも含めアナログシンセブームの理由を尋ねてみた。

モジュラーシンセが登場してから50年あまり。再びブームになっているというのは面白い現象ですね。

そのへんは音楽とも似てますよね。

大きなサイクルでブームがめぐる。

はい。それこそYouTubeで70年代のロックとかを観れば、そこにモジュラーシンセが映ってたりもする。それで興味を持つ、ということだってあるかもしれない。それと、エレキギターなんかの世界から少し遅れて、ようやくシンセもビンテージの世界が確立してきたんです。モーグもコルグもシーケンシャルも、自社の往年の名機のレプリカを出すようになった。フェンダーやギブソンがやってるのと同じように。そのへんもブームの牽引力になってるところがありますね。あと、80年代に200万円近くして買えなかったシンセが今は40万円ぐらいで手に入る。それは当時のシンセポップで育って今は収入もそこそこある中高年にはありがたい話だったりもしますよね。

より若い世代とアナログシンセのかかわり方でいうと、どんな感じですか?

最初はコンピュータ内のプラグインでシンセに触れていて、次に“じゃあ、本物はどうなんだろう?”と思って実機に触れる。そこで“やっぱ音の密度が違うよね”ってなってバーチャルからリアルに移行する、というパターンもありますね。あと、最近の傾向として女の子が増えてるんです。“シンセ女子”って呼んでるんですけどね(笑)。今世界中でモジュラーシンセのフェスティバルが開催されてるんですけど、東京での模様を写真に撮って海外の取引先に送ると驚かれるんですよ。“日本ではなんでこんなに女の子が多いんだ?”って。

あ、日本固有の現象なんですね。

はい。向こうは男ばっかりなんです。日本は今、女の子のほうが積極的なのかもしれませんね。男の子より惹かれるのかな(笑)?

シンセのほうに惹かれる(笑)。このブーム、鈴木さんとしてはどうなっていってほしいと思います?

特にモジュラーシンセをいじってる若いユーザーって、今はまだドッドッドとかピュピュピュとか音そのものを作って満足してる状態なんですよね。確かにみんな新しいことをやってるには違いないんだけど、あの音だけを2時間爆音で聴かされたりするとちょっと(笑)。音作りの楽しさはわかるのですが、その音色をどう使うのかが次のステップかな。もう少しポップな形で活かしてくれる人が出てくるといいですね。

mp3でもCDでもなくレコードやカセットテープ。今回お聞きした話はそれとかぎりなく近いものを持っていた。これまでより格段に手間をかけて提供されるサードウェーブ系のコーヒーもまた同質だろう。ワンクリックの時代に次々と現れる真逆の世界。手間が価値を生むというのはとても明るい話だと感じる。

text:今津 甲

Five G Music Technology

Five G Music Technology

1990年にビンテージシンセサイザーの専門店として代々木でスタート。現在は原宿駅前に店を構え、シンセサイザープロショップとして、ビンテージのみならず、現行品および中古のアナログ/デジタルシンセ、モジュラーシンセ、レコーディング機器などの展示と販売を行っている。また、数多くの著名アーティストもシンセの修理でお世話になっている。

Five Gで特に人気なのが、下の写真のシーケンシャルのプロフェット6。名器と呼ばれたプロフェット5の意志を受け継いだ6ボイスのアナログシンセだ。

Five G Music Technology
東京都渋谷区神宮前1-14-2 ル・ポンテビル4F
営業時間 : 12:00〜20:00(火曜定休)
TEL : 03-3746-0861(店舗)、03-3746-0863(インターネット通販)

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