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2016.11.15

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証言「1986年」その2 垂石克哉さん

証言「1986年」その2 垂石克哉さん
オリコン株式会社 取締役副社長

日本のヒット状況を可視化するサービスとして、もっとも知られているのがオリコンチャート。70年代初頭からヒットの動向を見守ってきた同社の垂石氏に、1986年周辺の音楽事情をはじめ、その裏側についてまでお聞きした。

text:吉田幸司

50万枚のヒットに今のミリオン以上に匹敵する
重みがあった。業界全体がワクワクしてましたよね。

デジタルへの転換期ということで当時、危惧していたことがあった

1986年はCDの生産枚数がLPを初めて上回った年でもあり、オリコンとしても激動の年だったんじゃないでしょうか。

今だから話せることですけども、確かにアナログからデジタルへの転換期ということで、その当時、スタッフがすごく危惧していたことがあって。それは何かと言うと、当時、シングル盤の売り上げが激減したんですね。年間1位で50万枚に届かない。それまでミリオンセラー規模のシングルが年に1枚は出ていたのが、その年にいきなりその半分になっちゃって、これはひょっとしたらシングルがなくなるかもしれないなと。もしそうなった場合に、じゃあオリコンランキングはどうしていけばいいんだろう、いや、これからはアルバムの時代だろうからアルバムを強化しよう、みたいなことで、ランキングの方向性についてケンケンガクガクとやってた時期でした。

偶然にも先日Spotifyが日本でローンチしましたけど、1986年も時代の切り替わりを体感するタイミングだったんですね。

でもちょっとだけでしたけどね。そのあとアナログからデジタル、要するにシングルCDへの切り換えがうまくいって、いきなりシングル売り上げが急増したんですよ。で、90年代に入ったらドラマタイアップとカラオケで大ヒットが続出するようになったので、結果的に言うと、特に心配するようなことは何も起きなかったんですね。

でも、1986年になぜそんなことが?

やっぱりシングルはアナログが中心だったので。CDの生産が1982年にスタートして、1984年に49,800円のプレーヤーがソニーから出るんですよ。そこで一気に普及したので、ちょうど端境期だったんですね。

要は、購買層がちょうど迷ってるときだったんですね。

どっちにしようか迷いつつ、シングルのアナログ盤を買うのをちょっと控え始めた時期だったっていうことでしょうね。

業界売上規模は当時で3千億くらい。ただ、必ず伸びていた

今のチャート的な潮流はいかがです?

今一番大きいのは、即売を中心としたアイドルが多数出てきてるってことですよね。

それには様々な意見がありますけど、それでも多くのアーティストがオリコン1位に憧れている状況に変わりはないですよね。1986年頃はそのあたりどうでした?

80年代はまさにそうですね。僕が入社したのが70年代後半で、その頃はまだ、たとえばコンサートに行くとアーティストのみなさんが「ヒットチャートで1位とった」「ヒットチャートでベストテンに入った」と話していたんです。それが、ちょうど1985年前後から「オリコンで1位とった」「オリコンでベストテン入った」と言うようになったんです。よくよく考えてみると、うちが1979年に一般誌を発売したんですね。そのあたりからヒットチャート=オリコンになっていくんです。それがステージ上のトークにも表われてきたという。

業界向けの『コンフィデンス』と別に一般向けの雑誌を出してオリコンの名前が浸透したと。当時はどれくらい売れれば一般にヒットと言われていたんでしょうか。

当時のシングル盤ってそんなに大ヒットしてるわけじゃないんですよね。おおよそで言うと30万枚ぐらいかな。1970年代後半で業界売上規模が1千500億円くらいだったんですね。よく豆腐産業と一緒と言われてましたけど。それが、1986年当時で3千億くらいになって。ちょうど倍ぐらいですね。ただ、必ず伸びていた時代。

ずっと右肩上がりで、誰もがこれが永遠に続くと思っていた時代ですよね。90年代を基準にしたら売れてないと思われがちですけど、実は右肩上がりの時代だったから、みんながとにかくワクワクしてた。

本当そうだと思います。だから50万枚のヒットに今のミリオン以上に匹敵する重みがあった。ビッグネームが新たな作品を出すたびに、みんなが今度はいったいどんな作品なんだろうってワクワクしてた時代ですよね、それこそ。

新しい潮流が次々と出てきた時代。

まさにその通りですよね。そのあとの90年代って、ひとつのヒットの方程式みたいなものができちゃったけど、その前の時代で、まだいろいろ試行錯誤してるものがヒットに結びつく感じがあった。80年代ということで言うと、後半にはホコ天、イカ天のロックブームもありましたし。特にイカ天は印象深くて、大ヒットまではいかないまでもセールスに直結して、スマッシュヒットくらいのものが続出してましたからね。

1986年はそうした激動の前夜みたいな時代だったんでしょうね。

音楽バブルに入る直前で、アナログからデジタルへの変換まっただなか。でも成長は毎年確実で、不安なく、みんなが仕事を楽しんでいた。すごくいい時代でしたね。

what's “オリコン”?

1967年に創業し、日本初のレコード売り上げランキング誌『総合芸能市場調査』(現在の『コンフィデンス』)を創刊。1979年に一般向けの週刊誌も創刊(2016年に休刊)。WEB版の「ORICON STYLE」も手掛けている。

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