名物プロデューサー列伝

2016.11.15

INTERVIEW

名物プロデューサー列伝

株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント REDプロジェクトルーム 加茂啓太郎さん

vol.69 株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント REDプロジェクトルーム 加茂啓太郎さん

EMI時代にウルフルズ、ナンバーガールや氣志團など数々の原石を発掘し、音楽プロダクション側からもリスペクトを集めているレコードメーカーの名物プロデューサーにして、今年3月にソニー・ミュージックエンタテインメント(以下SME)に電撃移籍した加茂さんに、新人発掘・育成の心得を聞いた。

text:吉田幸司 photo:岡本麻衣(ODD JOB LTD.)

“意味わかんない、でもなんかすごい”っていうのに
出会いたいだけですね、いつも思ってるのは。

新天地SMEへ

ユニバーサルからSMEへはどういう経緯で移られたんですか?

ユニバーサルを昨年いっぱいで退社して、そのタイミングでSMEから「うちにどうですか?」っていうお話をもらったんです。最初はSD事業部かなと思っていたら、REDプロジェクトルームっていう部署で。何て言うんでしょう、ちょっと実験的な部署なんですよ。できて2年目で、個人事業主みたいな人たちが集まっていて、何か面白いことをやってみないかみたいな。だから細かい規定というよりは、任せるから何かやってみろみたいな(笑)。で、3月1日からこっちに来て、今、半年ちょっとっていう感じですね。

現状はどういったことを?

フィロソフィーのダンスっていうアイドルグループは、SMEとマネージメント契約してやっています。で、クリトリック・リスと田中茉裕ちゃんはいわゆるワンショット契約をしてアルバムを作っていて。あとはMINAMISとエドガー・サリヴァンっていうバンドを、という感じですね。

アイドルというカルチャー

業界内で加茂さんにはロックのイメージが強いと思うんですが、そのフィロソフィーのダンスにしろ、ユニバーサル時代の寺嶋由芙さんにしろ、それがなぜアイドルにも目が向くようになったんでしょうか?

90年代とか2000年前後って、自分もいろいろやっていましたけど、毎月毎月、時代を更新するようなアーティストが出てきたじゃないですか。やっぱりあれを経験しちゃうと、“これすげえな”って思うものとなかなか出会えなくて。2000年前後に日本のロックの型ってだいたい作られたから、モデルチェンジはあっても、なかなかニューモデルは出てこない。それでアイドルを見たら、BiSとでんぱ組.incが大きいですけど、今までのアイドルとは全然違うストリートカルチャーだったことにインパクトを受けたんです。でんぱ組.incなんて秋葉原の片隅で「ワールドワイドでんぱ組」って言ってたのが、本当にワールドワイドになっちゃったっていう。

メンバーが立つので精一杯の秋葉原の小さなステージから、ワールドツアーを成功させるまでに上り詰めましたからね。

それが面白いなと思って観に行ってたら、自分もミイラ取りがミイラになるみたいにハマっちゃって(笑)。あと、お客さんのその場を楽しもうっていうオープンな雰囲気とか、むしろこっちのほうがロックだなっていうか。「Do What You Want」っていうメッセージがロックにあるけど、ロックのほうが形式化とか形骸化とかしちゃって、みんな乗らないと乗らないとか、メディアがほめないと評価が定まらないとか、そういう権威主義的なものがだんだんできてきてしまった。でも、アイドルはそういうのは何も関係なくて。お客さんのマナーも、ある意味すごく良いし。で、買うものは買ってくれるし(笑)。

確かに(笑)。

カルチャーとしてすごく面白かった。音楽もビジュアルも日本のオリジナルでクリエイティブだなって思いました。ミックス(曲に合わせて叫ぶファンのかけ声)とコールなんて、もはやインタラクティブアートですからね。それでアイドルイベントを自分でやってみていろいろわかりました。アイドル用語ではマネージメントって言わずに、運営って言うんだとか、前物販とか終演後物販ってどういうことなんだとか(笑)。そんなときにたまたま寺嶋由芙ちゃんが移籍先を探している話がきたんで、じゃあ僕で良かったらやらせてくださいとお願いしたんです。

そこからアイドル運営も始まった。

由芙ちゃんを1年間やって、人脈とかノウハウとか身につけたんで、このままこれを使わないのはもったいないなと思って、じゃあやっぱりグループアイドルをやらないとっていう。それでオーディションを始めたのが2014年の秋ぐらい。

ちょうど2年前ですね。

それで去年8月にフィロソフィーのダンスの1回目のお披露目ライブがあって、っていう感じですね。

株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント REDプロジェクトルーム 加茂啓太郎さん

アイドルはカルチャーとしてすごく面白い。日本のオリジナルでクリエイティブだなって。

新人発掘と育成について

加茂さんが新人発掘で一番心掛けていることというと、何ですか?

見つけるコツみたいな? コツはね、運と勘と行動力ってよく言ってますけど。

あと「自分の想像を超えるもの」というのもよく言われてますよね。

そう。どういうアーティストを探してますか?って聞かれても、やっぱり自分の想像を超えたものが見たいから。“意味わかんねえな、でもなんかすごいな”っていうのに出会いたいっていうだけですね、いつも思ってるのは。ビートルズだってレッド・ツェッペリンだってセックス・ピストルズだって、出てきたとき、世の中の人は“なんだこれ?”って思ったわけじゃないですか。やっぱり驚きがないとっていう。

で、そういうものと出会うには運と勘と行動力が必要だと。突き詰めると、それは現場にとにかく行くということですね。

そうですね。いくらネットでチェックできたりする世の中になっても、アイドルもそうだけど、やっぱり現場に行かないとわからないっていうのはありますから。

育成ということに関してはどうです?

バンドだったら、週2回スタジオ入って、月2曲新曲作って、月2回ライブをやるのを、2年間やれって言いますね。本気でやりたかったら2年間はそれぐらいのスタンスでやってみろって。自分に運と才能があればそれで風景が変わってくるし、それで何も変わらなかったら考え直せっていう。

即戦力を求めるのではなく、2年はとにかくがむしゃらにやるという。

ひたすら音楽のためだけに。それやったら、もう音楽とバイト以外のことをする時間なんか絶対なくなっちゃうから。それぐらいの気持ちでやってみろってバンドには言いますね。やっぱりどんなに才能があっても、努力がないところで才能が実ることはないじゃないですか。

個人的な興味からも聞きたいんですけど(笑)、「遅咲きの新人」と言えるクリトリック・リスとはどう出会ったんですか?

クリトリック・リスは4〜5年前に見て、この人やばいなと思って。で、イベントとか来てもらって仲良くなって、CD出さないんですか?みたいな話をして。いやー出す気はないんですよみたいな感じだけど、出しましょうよみたいな話をずっとしていて、それでユニバーサルから去年の年末に出したら、思いのほか売れて。渋谷WWWとかもソールドアウトして。まだ点から面にはなってないですけど、少しずついろんなものが芽を出し始めてるんで、うまくいけば綾小路きみまろみたいにならないかなと思ってます(笑)。何かが起きるかもしれないっていうところで期待してる感じですね。

それもさっきの“想像を超える”につながりますね。

36才で音楽始めて、42才で会社やめて、46才でデビューアルバムって、音楽史上においてもほかにないと思うんですよね。

しかも“なんだこれ?”っていうあのライブには感動すらおぼえますからね。

そうなんです。ソウルマンですからね。彼の音楽のコンセプトは負け犬に対しての慈愛の視線だから、そこがグッと来るんでしょうね。観た人はみんな好きになる。広告代理店の部長だったのをやめちゃったから年収が10分の1になったって言ってますけど(笑)、ある種人生かけてやってますよね。そういう生き方も含めてすごい。

新人マネージャーへ

加茂さんは音楽プロデューサーの山口哲一さんと新人育成プロジェクト「ラフ・ダイアモンド」をスタートさせました。基本的にはSNSを駆使した、可視化されたオーディションというとらえ方ですか?

そうですね。山口さんがWEB系メディアにすごく強いので、そのへんのノウハウとかアイデアを拝借してちょっとやってみようっていう感じです。そこで突然“これはすごい”っていうのが見つかるかどうか正直そこまではわからないですけど、いいアーティストがいたら活動をサポートしていきますよっていう感じですね。

最後に、新人マネージャーたちに何かアドバイスをいただければと思います。

長年やってる人間のスキルとか経験値よりも、若いマネージャーの愛情がそれを超えるときがあるじゃないですか。そういうのはいいですよね。

マネージメントって、扱っているのは“物”ではなく“人”ですからね。

そうなんですよ。経験もないしスキルもない、あるのはもう愛情だけだったりする、それがマジックを生む瞬間を見たいですね。

PROFILE

株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント REDプロジェクトルーム 加茂啓太郎さん

加茂啓太郎

1960年、東京都生まれ。青山学院大学卒業後、1983年に東芝EMI(現在ユニバーサル・ミュージック)に入社、1998年に新人発掘部署「グレートハンティング」を立ち上げ、ナンバーガール、氣志團、フジファブリック、ベースボールベアー、相対性理論、赤い公園などを手掛ける。今年3月よりSMEに移り、現在はフィロソフィーのダンス、クリトリック・リス、田中芙裕などを手掛けている。

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