音楽にまつわる「ちょっといい話」

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第27回 音響にこだわる映画館[立川シネマシティ「極上爆音上映」]

今回のゲスト

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遠山武志さん

シネマシティ株式会社 企画室室長。大学生時代の1997年に立川シネマシティでバイトを始め、2004年に入社。2009年にマイケル・ジャクソンの『THIS IS IT』を極上音響で上映して以降、数々の「極上音響上映」「極上爆音上映」を手掛けている。

複数上映する映画館が「シネコン」という名で呼ばれ、全国均一できれいな設備で楽しめるようになって早数年。そんななか、音響にこだわるインディペンデントな元祖シネコン映画館、立川シネマシティの存在はロックだ。
 設立は1994年だが、2015年に「極上爆音上映」と題して映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のために数百万円するウーファーを追加購入したことで、ファンの聖地となりバズったことは記憶に新しい。しかし、誤解してほしくないのが「爆音」と言いつつも、ただ音量が大きいだけではないということ。クリアで繊細な音作りによって、いわゆる衣擦れや無音からの音の立ち上がりなど、音の響きにこれでもかとこだわっていることに注目したい。

映画ファンのための映画館を目指しました

「極上爆音上映」「極上音響上映」などの企画を考える遠山企画室長は1975年生まれ。学生時代はバンドマンであり、音楽業界も夢見た音楽好きだ。そんな遠山氏はなぜ映画館スタッフの道を選んだのか?

立川シネマシティにはいつからいらっしゃるのでしょうか?

大学生だった1997年から立川シネマシティでバイトを始めました。映画『もののけ姫』の初日が初仕事でした。2000年の頭に2号館となるシネマ・ツーのプロジェクトが立ち上がりまして、オリジナルな映画館作りに参加できるなんて“映画ファン究極の夢でしょ”と思い、気がついたら2016年の今に至る感じでなんです。

立川シネマシティは、大手資本が入ってるわけじゃないですよね?

ご存知の通り最近はシネコン合戦が進んでいて、大手チェーンが増えています。そんななか、どうやってインディペンデントなシネコンが生き残っていくかを考えた結果、音にこだわる「極上爆音上映」や「極上音響上映」が生まれました。

なぜ音へこだわったのでしょうか?

HuluやNetflix、アマゾン・プライムビデオも始まって“スマホやタブレットでいくらでも映画を観られる昨今、なんで映画館で観なきゃいけないの?”という発想になると思うんです。それぞれ各社、劇場の魅力を打ち出すために体験型をテーマに4DXやIMAXなどチャレンジされていますよね。でも、立川シネマシティは小さい劇場なので、映画ファンじゃない人や普段映画館で映画を観ないような人をがんばって引っ張ってくることではなく、すでに映画が大好きな方たちに何度も足を運んでもらうことに注力する、という方向に舵をきったほうが劇場の在り方として正しいかなと。映画ファンのための映画館を目指しました。

立川シネマシティは劇場のことをスタジオって呼んでいるんです

劇場で映画を観る価値をどうやって生み出すのか? そんな問いに答えるべく、立川シネマシティでは、設立当初からこだわっていた音響を大切にした映画館の在り方へと“選択と集中”することになった。

差別化となったのが音へのこだわりなのですね。

はい、音響にこだわる「極上爆音上映」「極上音響上映」でした。大事なのは、映画の魅力をどれだけ高められるかだと思っています。それ以外の付加価値は考えていません。なので音響の設備に関しての宣伝は全然していません。わざと書いてないんです。爆音っていうとマニア向け上映みたいな感じがありますけど、主に新作で行っていますので、知らずにいらっしゃった方でも“わぁ、うるさい!”ってならないように心掛けてます。ボリューム勝負ではないんです。低域はすごい出してるんですけどね。なので、どなたが観られても不快な感じにはならないと思います。

音響設備へのこだわりは?

もともと、シネマ・ワン設立時から音響にお金をかけていたんです。シネマ・ツーは全館、世界トップクラスのブランドMeyer Soundのスピーカーです。日本のライブハウスでも使っているところがありますね。有名な話だとディズニーランドは全部Meyer Soundだそうです。本当はシネマ用でなくPA用なんですよ。そもそも、立川シネマシティは劇場のことをスタジオって呼んでいるんです。なぜかというとレコーディングスタジオの音を、レコーディングスタジオそのまま再現しようというコンセプトなんですね。

コンセプトから異色なんですね。

映画館のサウンドとして、ある意味異端かもしれません。映画館の音というのは普通、あまりシャープにしたりクリアにしすぎたりはしないんですよ。ハコにしてもデッドにしちゃうんで反響はないんです。でも、うちでは反響を残しています。全部音を吸っちゃうとおいしいところの音も吸われちゃうので残そうという考えなんですね。そのコンセプトを作ったのはサウンドスペースコンポーザーの井出祐昭さんと、サウンドシステムデザイナーの増旭さんです。今も調整をお願いしています。日本の音響界でトップクラスのすごい方々なんですよ。

「極上音響上映」は、マイケル・ジャクソン『THIS IS IT』をきっかけに始まったそうですね。

ライブ的な考え方で、コンソールを使ってPAさんがやっているようなことをやり始めたのが2009年でした。単純に僕がマイケルが大好きで来日したときに観に行ってたんです。自分は映画館の仕事を選んだ時点で音楽の仕事をあきらめていたんですけど、マイケルが亡くなったときに何かやりたいと思ったんです。作品ごとに、ライブのように映画を味わってもらおうと思ったのが最初のきっかけでした。

作品ごとに音響を調整したことが他社との差別化になったのですね。

そうなんです。それまではプロの音響の方やオーディオマニア、映画マニアの方など、知る人ぞ知る映画館だったんです。音って目に見えないですし、言葉に表現しにくいじゃないですか? その後も、ミュージカルや音楽ドキュメンタリー作品も上映しました。そんななか、アクションやSFも音を調整して観たいというお客さんの要望をいただいて。音楽系はアーティストごとに動員が別れちゃうんですけど、SFやアクションは、『ゴジラ』を観る人は『ジュラシックワールド』『マッドマックス』も観る方が多いじゃないですか。つまりファンが積み重なっていくことで立川シネマシティが注目されていくようになりました。

音楽業界でいえばCDやソフトではなく、ライブだった

立川シネマシティは、フードへもこだわっている。以前はパンも焼いていたというのだから驚かされる。現在もカフェが併設されており、ファン目線でかゆいところに手が届くホスピタリティが居心地よい。

映画館の武器として音響を選んだことが成功の秘訣となったのですね。

スマホが浸透してきたときに“映画終わりじゃん”って思ったんですよ。ところが一昨年ぐらいから映画人気がまた盛り上がってるんですね。2015年は業界全体としてここ5年で一番興行収入が多かったんです。映画というのは、音楽業界でいえば実はCDやソフトではなく、ライブのほうだったのではないかと。戦略的にうちはそっちに寄せることを考えました。

年会費1,000円を支払うことで、平日1,000円で観られる、映画ファンを大切にしたシステムも素晴らしいですよね。

2000年代の頭くらいからシネコンが増えて、映画料金が高いというバッシングが増えたことを受けて、各興行会社がいろんな割引施策を始めたんです。ポイントカードやサービスデーを作ったんですね。でも、映画館ごとに詳細が違ったり、お客さんによっては1,800円払うつもりで来たのに1,100円で観られてしまうこともある。それだと次に来たときに定価だと損した気分になるかもしれない。それは良くないと思ったんです。なので、シンプルに、映画好きな方が観たいときにいつでもお得になるような、映画ファンのための映画館っていうコンセプトに忠実なサービスを考えました。

映画ファンだったら、サービスがあればリピートしてくれそうですもんね。

ほとんど映画館に足を運ばない方にとっては、映画料金が数百円高い安いというのはそれほど気にならないと思うんですよ。ですので全員対象の割引はやめて、有料会員にサービスを集中しました。ポイント制もやめましたので、無料入場者はほとんどいません。よって、客単価は上がっています。そのぶん有料会員様に還元しています。会員価格を下げることでリピート率をさらに上げる施策にもなっています。加えて「極上爆音上映」「極上音響上映」は、かなり時間もコストもかけてるんですけど、追加料金をいただいていないんです。その作品を愛しているお客さんにリピートしてもらいやすい価格、サービスを一番に大事にしています。

常にお客さんの立場で映画を愛する遠山さんだからこそ、成熟した業界のなかで生まれた歪みに気がつき、体験型エンタテインメントの潮流にいち早く気がつくことができたのだろう。音響にこだわるインディペンデントな立川シネマシティに注目していきたい。

text:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)

「極上爆音上映」

「極上爆音上映」

1994年にオープンした東京初のシネコン&THX認定シアター「立川シネマシティ シネマ・ワン」から徒歩2分の場所に、2004年にオープンした「シネマ・ツー」で開催中。2009年にマイケル・ジャクソン『THIS IS IT』で行った「極上音響上映」の流れを汲み、2014年に『GODZILLA』で「極上爆音上映」をスタート。ただ音がデカいのではなく、耳障りにならない極上の音響が話題を集め、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『シン・ゴジラ』などで大反響を呼んだ。

立川シネマシティ シネマ・ツー
東京都立川市曙町2-42-26
(JR立川駅より徒歩6分、多摩モノレール立川北駅より徒歩2分)
042-525-1237(10:00-21:00)、042-525-1251(24時間音声対応サービス)

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