音楽にまつわる「ちょっといい話」

音楽にまつわる「ちょっといい話」

第26回 音楽が自殺を考えている若者を救う[tellme.link]

今回のゲスト

今回のゲスト

小杉“GEESS”茂さん

1965年生まれ。明治大学卒業後、1990年にHOWLING BULLを設立。UNITEDやHi-STANDARDなど、現在までに200を超えるアーティストのマネージメント、プロデュース、リリースを手掛ける。2013年にはエンタテインメントビジネス向けのコーチングとカウンセリングスキル養成プログラムを提供する「株式会社Creative Communication Management」を設立。また、個人向けカウンセリングルーム「マインドクラフト」もオープンしている。

小杉さんは知る人ぞ知る、ハウリング・ブルの社長。国内外のメタルやパンクシーンに精通し、これまで数多くのバンドを輩出、また“AIR JAM”や“BEAST FEAST”といったフェスも手掛けてきた人物だ。それが、突如としてカウンセリングを始め、彼のロックなキャラクターを知っている人がざわついたのが今から3年前のこと。そして、その小杉さんがまた新たなことを起こそうとしている。若者の自殺を止めるためのWEBプラットフォーム「tellme.link(テルミードットリンク)」を立ち上げるための準備を、この夏に開始したのだ。

カウンセリングの能力はマネージメントにも活かせる

2013年から、小杉さんはカウンセリング技術をマネージメントに応用し始めた。自分のブログにも「アーティスト・マネージメントに使える心理学」というコラムをアップし、なるほどと思わせるマネージメントテクニックを公開し、大きな反響を呼んだ。

マネージメントやレーベルを手掛けている小杉さんが、2013年にカウンセリングを始めたきっかけは何だったんですか?

最初のきっかけは2000年にあるアーティストから電話があって、鬱病になっちゃったんですって言われて。そのとき何もしてあげることができなくて、元気になったらまた一緒にがんばろうねぐらいのことしか言えなかったんですよ。いや、もっと適当なこと言ったかもしれないな。

なぜなら、その知識がないから。

がんばってって言っちゃいけないとかそういう断片的な噂みたいなことしか知らなかったから、言葉に気をつけなきゃいけないなと思って。「まあ、そのうちすぐ良くなるよ」なんて適当なこと言って終わったんだけど、結局そのあと彼は長いこと鬱病の人生を味わうことになるんですよ。で、そのあと、2003年だったかな、1人、自殺者が出たんです、うちに所属しているバンドのなかで。それは鬱病が原因かどうかわからないんだけど、彼が死を選んだことに対して、事務所として何もできなかったことがすごく僕のなかで引っかかっていて。そういうパーソナルな悩みはバンドの運営と関係ないものだってずっと考えてたんですよ。それは家族なり奥さんなり、もしくは医者とかがやることでしょうみたいな。

難しい問題ですね。

でも、実はそんなことなくて。アーティストって、物事を頭のなかで考えてクリエイトしていくじゃない? だからそういうものから守ってあげないと、彼らは活動できないんだってことに2005年ぐらいに気づくんですよ、軽く。で、自分にはスキルが足りないなってずっと思ってて。だって僕らはマネージメントするのに学校行ったわけじゃないし。流れで友達のCD作るために会社作ったような人だから(笑)。だけど、どうやらそういうことじゃないぞと。そのときに、たまたまメタリカの『Some Kind Of Monster』っていう映画を観て。

邦題は『メタリカ:真実の瞬間』、ドキュメント映画ですね。

あの人たちもバンドがバラバラになっちゃうわけじゃない? ジェイムズがアル中になって。そこからどう立ち直るか、アーティストとマネージメントとカウンセラーとがチームになって、レコーディングしながら復活していく。それ観てたら「あれ? 意外とマネージメントってこうあるべきかも」って思ったんですよ。カウンセリングの能力ってマネージメントにも活かせるんじゃないかってそのとき直感的に思って、これは学ぶべきだって思ったんですね。そうするとアーティストのそばにずっと寄り添える存在になるんじゃないかと思ったんです。アーティストの役に立ちたい。マネージメントはバンドに対して何ができるか。それはスケジュール組むだけじゃないよね。じゃあ、カウンセリングができるマネージャーなんてあんまりいないんじゃね?って思って、ひそかに学びだしたの。

学校へ行ったんですね。

そう。おばさんたちに混じって(笑)。

目標設定を具体的にしてその日が来るまでにどう動くか

そうして、カウンセリングのスキルをマネージメントに取り入れていった。では、実際にはどんなことを行っているのか、そのさわりの部分を教えてもらった。

カウンセリングとは、実際にはどういうことをするんですか?

最初はカウンセリングを窓口に行ったんだけど、コーチングっていうのもあって、そっちのほうがよりマネージメントに使えるなって思ったんですよ。カウンセリングっていうのは、要はマイナスな人をプラスマイナスゼロくらいまで持ってくる感じね。元の状態にする。それが主にカウンセリングの役割だとしたら、コーチングっていうのは、普通の人をその人が望んでいる状態になるまで励まし続けるっていうね。

その方法は具体的には?

いや、しゃべれるけど、おそらく200時間くらいかかる(笑)。しかも、申し訳ないけどそれを話すなら授業料もらうよ(笑)。

わかりました(笑)。

カウンセリングっていうのは、その人が抱えてる問題を解決する。要は、それが解決できないから悩んでるわけだよね。だから、それをその人が解決できるように、話を聞くのがカウンセリングなんですよ。

問題を解決してあげる?

いや、それを本人に気づいてもらえるようにうながすってことかな、カウンセリングは。人間は基本的に解決できるんですよ。問題を作った時点で、実はどこかに問題を解決する力もその人は持ってる。問題を解決する力がなければその問題って実は作れないんですよ。それに気づくか気づかないかだけのこと。たとえば赤ちゃんは恋愛問題で悩まないじゃん。それと一緒。

なるほど。それに対して、コーチングは、目標を達成する手助けをすると。

そうそう。それが本来のマネージメントの姿だと思うの。根本的な。

今実践している具体例はあります?

今はその途中だけど、2022年に東京ドームでやるって言ってる、今まだキャパ300人くらいのアーティストがいて。あと、ヨーロッパツアーをヘッドライナーとしてまわるって言っているアーティストがいて、そのアーティストは先日、ドイツに行った。まだヘッドライナーじゃないけどね。

目標に向かっての動きを今している最中ということですね。

だって俺のところに来たとき、その2つともお客さんなんてほとんどいなかったんだもん。それがクアトロを満杯にできるぐらいまでは来てるわけ。1年で。だから面白いぞと思って。やっぱり目標設定を明確にするってことだよね。目標設定を具体的にして、その日が来るまでにどう動くかっていうのをみんなで話す。それぞれの役割も決めて、じゃあ明日どう動くか。東京ドームを2022年にやるって言った人たちは、そこから逆算していったら、じゃあここでクアトロいっぱいにできてないとダメですねってなる。で、それに向けてみんなで一生懸命いろんなことをやるわけ、死にものぐるいで。それの連続なんだよね、結局。

自殺したくなった人がアクセスしてきたら誰かとつながる場所

その小杉さんが、また新たなことを始めようと動き出した。それが「tellme.link」だ。一番の目的は、若者の自殺を止めること。今年の夏に思い立ったため、まだ具体的には何も決まっていないそうだが、それがどんなものであるのかの構想をお聞きした。

で、今準備を進めているという「tellme.link」についてですが。

それもやらないといけないことだなって気づいちゃったんですよ。若者のメンタルをサポートするNPO団体の代表の方から、若年層の自殺問題について話をうかがう機会があって「俺が考えていたことがこの延長線上にあるかも」ってちょっと思ったんですね。それは、2004〜5年にアメリカで“TAKE ACTION”っていう運動があって。Hopeless Recordsっていうインディレーベルがやってたんだけど、若い子が夜に自殺するじゃない。その前に「ここに電話してね」みたいなホットラインを作ってたの。その電話番号をオムニバスCDに載せて、すごい安い値段で売ったりとかキャンペーン用のツアーをやったりとか。死にたくなったときにそこに電話すると、誰かにつながる。これって音楽でできることだなってずっと思ってたんだけど、カウンセリングとかよくわかってなかったからその頃はできなかったんですよ。でもよく考えたら、それが今ならできるなと思って。あ、これで自殺を止められるんだって。

カウンセリングを学んだ今ならと。そうしたことを音楽に携わってる人たちがやるというのも興味深いです。

だって俺たち、若い子たちに支えられてるじゃん。彼らが1人もいなかったらCDなんて売れないんだから。だから何か恩返しひとつぐらいしとこうよみたいな思いもあって。同じ音楽聴く仲間じゃんって感じ。

具体的に何をやるんでしょう?

WEB上にプラットフォームを作ろうと思ってるんです。死にたくなった人がそこにアクセスしてきたら誰かとつながる。今、そのプラットフォームを作るための資金集めと人集めと賛同者を集めてる感じかな。

電話じゃないんですね?

今の子は電話するのもつらいんだって。だから主にLINEでのやり取りになるんだけど、そのプラットフォームに行くと、音楽好きなカウンセラーがいっぱいいる。たとえばメタル好きなカウンセラーがいたり。もっと言うと、音楽好きな人たちをカウンセラーに育てるっていうのもある。音楽好きな人だったら音楽好きな人の悩みもわかるじゃん。

なるほど。今、ここで一番伝えたいことは何でしょう?

お金ちょうだい(笑)。

そこ大事ですよね(笑)。

あと、協力してくれる人も。カウンセラーも必要だし、たとえばWEB作れますよとか、何かスキルを持ってる人も必要だし。

この「tellme.link」の支援をしたいと思う方はもちろん、興味を持った方は、とりあえず「geess@howling-bull.co.jp」までメールをしてほしい、とのことだ。

text:吉田幸司

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