音楽にまつわる「ちょっといい話」

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第25回 ロック魂が宿ったパンクな博物館[岩下の新生姜ミュージアム]

今回のゲスト

今回のゲスト

岩下和了さん

1966年生まれ。慶応大学卒業。2004年(平成16年)に、創業100年を超える岩下食品株式会社の代表取締役に就任。2015年に「岩下の新生姜ミュージアム」を開館。現在、渋谷ロフトの2階の渋谷シティラウンジにて「岩下の新生姜ミュージアムCAFE IN 渋谷」を期間限定オープン中(7月13日まで)。

岩下の新生姜は、ピンク色をしたおいしい生姜として愛され、ほとんどの人が食べたことがあるはずだ。言ってみれば国民的な食品でもあるわけだが、その社長がなんともアナーキーで面白い。今回は、その岩下食品の岩下社長を、オープン1周年を迎えた岩下の新生姜ミュージアムで直撃した。

恥かいたってかまわないからとにかく楽しんでいただけるものを

昨年6月20日に、栃木県栃木市にオープンした「岩下の新生姜ミュージアム」。岩下の新生姜の良さを知ってもらうための私設ミュージアムだが、イベントステージもあり、ここで先鋭アーティストのフリーライブも行われている。なぜこんな施設を作ったのか、まずはそこからお聞きした。

なぜこんな攻撃的なミュージアムをオープンさせたんでしょうか?

ここはもともと私設美術館だったんですね。当時名誉会長だった岩下邦夫、先代の父が10年ほど「岩下記念館(岩下美術館)」という名前で運営していたんですけど、その父が2年前の4月に亡くなったんです。日本の名品と言われる美術品が大量に陳列されていたんですけど、父がガンと戦うなかで、自分が生きているうちに処分したいと言い出し、全部売り払われてしまったんです。

そうだったんですね。

で、美術館自体は賃貸か売却かってことで、会社の総務が動き出してたんですけど、僕のほうでストップをかけたんです。亡くなって2〜3ヶ月経った頃に、母親から、お父さん最期こんなこと言ってたよと。「美術品は全部なくなってしまった。だけど美術館は残った」って。それを聞いて、それだけの達成感をもってここを作ったなら維持しないといけない、じゃあ何か活用する方法を考えようと。で、そのときパッと浮かんだのは、やりたかったことをやってみるかと。ひとつは、新生姜をアピールする場所を作ろうと。それから、これはもともと構想はあったんですけど、新生姜の料理だけを提供するカフェを作りたかった。そして3つめが音楽。父が美術で好きなことをやったんだから、お前も好きなことをやれっていう、これは置き土産だなと思って。

言ってみれば「血」ですね。

そう。ただ、全部手前勝手な話じゃないですか。それは発想の根本としてはいいけど、こんな片田舎にお客さんに来ていただくには、遠くからでも来たいと思わせるものを作らなくちゃいけないってことで、恥かいたってかまわないから捨て身で、とにかく楽しんでいただけるものを目指そうと。それで社員にプロジェクトチームを組ませて、アトラクションを考えさせていったんです。その一連の流れでいくつか出てきて。

それで攻撃的なものが。

そう。もう思いきりやっていいって。

新生姜のペンライトとか。

あれは困ったなぁとは思いましたけど。

あ、実は困ったなと思ったんですか!

思いましたよ。一番嫌だったのは、生姜の理想の形からすると、ちょっと太いんです。太いと辛みが増しちゃうんですよ。でもまあ、あれもひとつの新生姜の形だなと。

いい音楽をやってる人のところにはちゃんとお金がいかないといけない

そうしてできた、新生姜の形を模したペンライト。とても誌面ではお見せできないような形をしているのだが(笑)、その画像を社長がツイッターで初公開したときに、ものすごい勢いで一気に拡散され、200万インプレッションを超えるほどの反響があったそうだ。続いて、そんな社長の音楽論をお聞きした。

ツイッターで、「ミュージアムのライブはすべて赤字。でも、感動というモトは取り続けてる」とつぶやいていました。

ライブはね。パトロンやってるつもりは正直ないですけど、いい音楽をやってる人のところにはちゃんとお金がいかないといけないと思ってるから、ギャラはきちんと出したいと思っていて。しかも、ここでやっていただくっていうことだけで広告宣伝させていただいているようなものですから、ライブそのものは無料でやっていて。

むしろ赤字が前提だったんですね。

そう。ただ思ってるのは、何でもありのつもりなんだけど、私というフィルターが一回入ったうえでやってもらってるので。

平たく言うと、社長が好きな音楽。

そうそう。しかもどっちかというとあんまり有名じゃない人が多いから、そういう人たちをフリーライブで、そういう音楽に興味がなかった一般の来館者の方にも、ある種無理やりにでもないけど聴かせられる。そういう体験っていうのは新しい世界を見せることになって、その人の可能性を広げることにもなる。そういうことにからめられたらいいかなって、一応思ってます。

社長自身が音楽に目覚めたのは?

5つ上の兄がいるから、幼少時からビートルズとかカーペンターズとかそういうのは兄貴が持ってるステレオから流れてきてたんで知ってたんです。で、初めてライブに行ったのがシーナ&ロケッツとRCサクセションのジョイントコンサート。宇都宮で中2のときだったかな。あと、小学校6年生くらいだったと思うけど、ピストルズの「アナーキー・イン・ザ・U.K.」が流れててウワー!ってなったのはおぼえてます。そういうのが根っこですね。

そんななかでも好きなジャンルとなると、何になるんですか?

いいなっていう人はいるんだけど、ジャンルっていう考え方はあんまりないんで。うち、それで苦しめられたこともあって。漬け物っていうジャンルにカテゴライズされて結構苦しい思いをずっとしてきたんです。うちは漬け物メーカーでこれは否定しようがないんだけど、今ものすごい下がってるんですよ、漬け物業界の全体って。この船に乗ってたら沈んじゃう。漬け物コーナーで見つけやすいっていう恩恵も受けてはいるんですけど、ものの本質ってまた別のところにあるから。もし漬け物だとしたら、(取材したカフェの隣りで若い女性客が食べているおしゃれなランチをさして)こんな食べ方しないじゃないですか。

こんなミュージアムも作らないし(笑)。

縛られちゃうのはバカバカしいなと思ってるから、なるべくジャンルとかそういう人が作った概念みたいなところからは自由でいるように試みないと。で、自分が作った概念は逆にこだわったほうがいいから、どうせやるならとことんピンクにしようとか(館内はほとんどピンクで埋め尽くされている)、そういうところはありますけどね。

腹を決めて自由にやればオリジナルなことができる

この取材は、6月上旬の平日お昼に、新生姜ミュージアム内にあるカフェで行ったのだが、おじいちゃんおばあちゃんの団体客がバスで来ていたりと、館内はとてもにぎわっていた。そんな新生姜ミュージアムでは先日、なんとノイズのフリーライブも行った。

今後、このミュージアムをどうしていきたいですか?

この間やったばかりなんですけど、非常階段の美川さんが、元BiSのテンテンコちゃんとやってるMikaTenっていうユニットでやりたいって言ってくださって。最初は悩んだんです。一瞬だけ。だけど、やっちゃえ!と思って、ぜひお願いします!って。やっちゃえばやれるなって思って。

ここで、ノイズを!

そう。リハーサルでお客さん大移動(笑)。

あ、フリーだから、一般の方や、おじいちゃんおばあちゃんもいるわけで。

そうそう。で、良かったの。30分ノンストップでやってもらって、泣きそうになっちゃって。そのノリでロリータ18号のライブも決めちゃった。今度はパンク(笑)。

でもそこですね、「やっちゃえばやれる」その言葉に集約されてる気がします。

そうそう。みんな、ここがすごいとか狂ってるとか、そう言ってもらうのはうれしいんだけど、そのいっぽうで、この時代においてもみんな閉塞してるんだなって思ったの。ややこしいジジイもどんどん世の中から退場して、こんな自由なことないじゃないですか。それなのに全然みんな閉塞しているなって思ったの、この程度のことで驚いてるんじゃって。たいしたことないじゃないですか!

いやいや(笑)。ただ、おっしゃることはまさにその通りですね

どうしたら目立てるのかってことと、どうしたらここに来てもらえるのかってことの答えは似たところにあるなと思って。ほかにあるものだったら記憶に残らない。で、ほかにないものって何かっていうと、自信を持って言えるのは、俺は俺1人しかいないっていうこと。ジャンルじゃない、誰がやってるかってことなんです。いろんなことを言う人がいるけど腹を決めて自由にやれば、オリジナルなことができるんですよ

岩下社長のそんなパンク魂に、今の音楽業界の人たちが忘れかけていた、とても大切なことを思い出させてもらえた気がする。

text:吉田幸司

岩下の新生姜ミュージアム

岩下の新生姜ミュージアム

岩下の新生姜の魅力を様々な観点から紹介することを目的に、2015年6月20日にオープン。岩下の新生姜の歴史や新生姜を使った料理のレシピが見られるコーナーのほか、「世界一大きな新生姜ヘッド」「新生姜の部屋」「アルパカ広場」「ジンジャー?神社」などユニークなコーナーも。新生姜の料理が楽しめるカフェ「CAFE NEW GINGER」や、音響設備が整ったライブ・イベントスペースもある。

栃木県栃木市本町1-25(栃木駅より徒歩12分)
0282-20-5533
開館時間/10:00〜18:00(カフェは11:00〜LO17:30)
(ライブ・イベント開催日は閉館時間が変更になる場合もあります)
休館日/月・火、年末年始(ただし祝祭日は営業)

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