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2016.03.09

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PROLOGUE [ラジオの基礎知識] 進化するラジオの未来予想図

音楽の魅力を言葉で伝えてくれるラジオと、現代の生活に欠かせないインターネット。この2つを融合させた、時代にマッチした新たなラジオのスタイルとは?ラジコの生みの親でもある三浦教授に寄稿していただいた。

text:三浦文夫(関西大学社会学部メディア専攻教授)

ラジオは音楽の魅力を言葉で伝えてくれます。
そのラジオの魅力とネット配信サービスを融合させる動きが進んでいます。

みなさんはラジオにどんなイメージを持っていますか? 昨年の春、僕が座長を務める民放連ラジオ再価値化研究グループが、中高生対象にインタビューを行いました。そこでは、ラジオを聴いたことのない人には「おじいちゃんが公園で競馬を聴いている」「あまり人気のないタレントが出ているのでは?」といった自分の生活に関係ないというイメージを持つ人が多数を占めていました。それから5日間、実際にラジオを聴いてもらうと「好きなアーティストがゲスト出演してうれしかった」「いろいろな音楽を聴けて楽しかった」など、評価は一変しました。

若者のラジオ離れは深刻ですが、スマートフォンとSNS中心の現代のメディア環境のなか、ラジオは大きく進化しようとしています。そして、ラジオはいろいろな音楽の出会いの場を提供してくれます。本題に入る前に、少し昔話につきあってください。

AMラジオとFMラジオ

小学校高学年の頃、目に見えない電波によって音が伝わる無線に憧れていました。そこで、お小遣いで小さなロケット型の鉱石ラジオを買いました。コイルとゲルマニウムだけの簡単な構造で、電池がなくてもイヤホンでラジオを聴くことができました。ただ、感度が悪いため、クリップ付きのアンテナをトタン屋根やブリキの雨どいに付けたりして、少しでも受信状態を良くする工夫をしなければなりませんでした。そして、雑音の合間のDJの話や音楽を必死に聴いていました。受信機というハードへの興味が入り口でしたが、次第にラジオ番組というソフトに惹かれていきました。

鉱石ラジオで聴くことができるのはTBSラジオ、ニッポン放送、文化放送、朝日放送、毎日放送、ラジオ大阪などのAMラジオです。AMとは振幅変調(Amplitude Modulatio

n)のことで、音の波を電波の強弱に変換して送信する方法のことです。送受信機の構造も簡単で、電波の帯域もあまり必要ありません。526.5KHz〜1606.5KHzという中波と呼ばれる周波数を使っているため、中波ラジオとも呼ばれます。夜になると電離層に反射し遠くまで届くようになり、大陸からの放送が聴こえることもあります。ただ、雑音が入りやすく、音質もそれほど良くありません。

ビートルズが解散した1970年、エフエム東京、エフエム大阪などの民放FMラジオが誕生します。FMとは周波数変調(Frequency Modulation)のことで、音の波を周波数の変化に変換して送信する方法のことです。送受信機の構造は若干複雑ですが、音質が良いため音楽放送に適しています。日本では76.1MHz〜89.9MHzの周波数が総務省からFM放送に割り当てられています。僕は同じ年に中学生になりトランジスタラジオを手に入れFMラジオも聴くことができるようになったのですが、音楽との出会いはもっぱらAMラジオでした。

開局当時のFMラジオは音響メーカーの広告主が多かったこともあり、立体音響(ステレオ)や音質の良さを強調する番組が多く、AMラジオのようにDJが自分の音楽に対する思い入れを語るといったことはあまりありませんでした。けれども、次第にFMラジオも音質の良さだけでなく、DJのトークにより音楽の魅力を伝えるようになっていきました。さらに、1980年代の終わりにはJ-WAVE 、FM802といった第二FM局と呼ばれる新たな民放ラジオが誕生し、音楽ステーションとしてのポジションがより明確になっていきました。そして、1990年代になりラジオから次々にヒット曲が誕生していきます。

新しい音楽との出会い

ところで、みなさんは新しい音楽にどのようにして出会っていますか? SNSや口コミで気になった曲をYouTubeで検索し、そこから関連動画をチェックするといったパターンが多いのではないでしょうか。ただ、それだけではどうしても音楽の幅はせまくなってしまいます。そこに、LINE MUSIC、AWA、Apple Musicなどのサブスクリプションサービスが登場します。これらは、好きな音楽を、いつでもどこでも楽しむことができる、とても便利なものです。そこでは、アーティストの好みや、シチュエーション別など様々なプレイリストが用意されていて、新しい音楽に出会うことができます。そして、気に入れば、そのアーティストの楽曲をもっと深く知ることもできます。けれども、手軽にいくらでも聴くことができるために、BGMとしてスルーしてしまうこともあるのではないでしょうか。

いっぽう、ラジオは音楽の魅力を言葉で伝えてくれます。歌詞、サウンドだけでなくアーティストや楽曲にまつわる様々なストーリーが展開されます。音楽とトークがからみ合うことによって、その楽しみ方に広がりができるのです。こうした、ラジオの魅力とネット配信サービスを融合させる動きが進んでいます。

たとえば、Apple Musicは2015年6月のサービス開始から半年で全世界での有料会員が650万人と非常に好調ですが、Beats 1というラジオサービスが目玉になっています。Beats 1では、英国BBCのRadio 1の人気DJゼイン・ロウをはじめ、一流のDJをレギュラーに迎えています。米国のPandora Radioなど、ユーザーの好みに合わせた音楽を自動的に配信するサービスも人気ですが、生身の人間の選曲やトークの魅力にはかなわないのではないでしょうか。

タイムフリー聴取とシェアラジオが実現できたら、
若者のラジオリスナーの復活だけでなく、音楽マーケットの活性化にもつながると期待。

「シェアラジオ」の必要性

さて、日本のラジオはどうなっていくのでしょうか。音楽との関係を中心に考えていきましょう。ラジオの最大の課題はリスナーの減少を食い止めることです。特に若者のラジオ離れは深刻です。おそらく周りを見て

も、車のなか以外でラジオ受信機を見ることはあまりないでしょう。もっとも、若者はラジオだけでなく、テレビ、新聞、雑誌という旧来のマスメディアとの接触も減少し、スマートフォンでSNSやゲームに時間を費やすようになっています。つまり、いくら魅力的なラジオ番組を制作しても、こうしたメディア環境のなかに入り込まなければ、届けることが難しい状況なのです。

僕は20年前からネットでラジオを配信できないかと考え、様々な試みをしてきました。そして、それがラジコという形で実現し、今ではスマートフォンでもラジオが聴けるようになりました。それでも、ラジオ未体験の人にとっては、まだハードルが高いのではないでしょうか。

そこで、スマートフォンとSNSという環境にもっと深く入り込み、ラジオを自分たちのメディアだととらえてもらうにはどうしたら良いのか、民放連の研究会で検討してきました。そして、ラジオを聴いていて「これは!」と思ったら、友達と簡単にシェアでき、そこから簡単に聴けるようにすべきだと考えました。

これを「シェアラジオ」と呼ぶことにしました。ただ、せっかくシェアされても番組が終わっていては聴くことができません。一定期間は放送後の番組を聴くことができる機能(タイムフリー聴取)がないと、シェアラジオは絵に描いた餅になってしまいます。タイムフリー聴取とシェアラジオの実現には、様々な技術的な課題の解決や、音楽をはじめとする権利者の理解と協力が必要です。ただ、このサービスは、若者のラジオリスナーの復活だけでなく、音楽マーケットの活性化にもつながると期待しています。

ワイドFMの利点

ラジオの大きなニュースに一昨年から始まったワイドFM(FM補完放送)があります。これはAMラジオがFMでも同時に放送されるというサービスです。つまりAMラジオは従来の中波に加え、FM、インターネット(ラジコ)と3種類の伝送路を持つことになりました。しかも、FM、ラジコについてはFMラジオとの音質の違いはありません。ただし、ワイドFMは90.1MHz〜95

MHzという従来のFMラジオで使っていなかった周波数を総務省から割り当てられたため、新しい受信機が必要になります。ここに、タイムフリー聴取とシェアラジオが加われば、ラジオを伝えるためのインフラはほぼ完成します。

ラジオの可能性

日本の地上波民放ラジオは101局ですが、米国は11,000局以上あります。たとえば、ニューヨークのような大都市では日本の全放送局数を超える150局以上のラジオを聴くことができます。それぞれの局は特定のオーディエンスをしっかりとつかむために、ロック、ジャズ、カントリー、ヒップホップ、EDM、ラテンなどジャンルを明確にした編成をしています。そのため、リスナーとしても、自分の好みに合った局を探すことができます。

いっぽう、日本では放送局数が限られているため、どうしても多くの人に受け入れられる最大公約数的な総合編成を取らざるを得ません。例外として、大阪のFM802とFM COCOLOは同じ事業者が2波を持ち、若者向き、大人向きと編成を明確に分けています。

タイムフリー聴取の話とは少し矛盾しますが、ラジオにとって大切なキーワードはライブ(生放送)とローカリティです。それぞれの地域の話題を同時に共有するというのがラジオ本来の姿ではないでしょうか。DJのパーソナリティを活かし、地域の情報をふんだんに織り込んだワイド番組が柱なのです。

いっぽう、週末や深夜などに編成されている趣味性の強い箱番組もラジオの魅力です。そこで、「ヴィジュアル系」「EDM」「レゲエ」「プログレ」など思いっきりセグメントした音楽番組を編成してはどうでしょうか。タイムフリー聴取、シェアラジオが実現できたとしたら、好みの番組を自分なりに編成するということも可能になります。そのとき、そうしたセグメントされた番組は大きな威力を発揮します。

番組の内容に合わせた情報をスマートフォンの画面にプッシュする機能についての検討も進んでいます。そうすれば、気になった音楽から、すぐにその楽曲やアーティスト情報などを知ることもできます。さらに、そこから楽曲やチケットの購入も可能になります。

このように、ラジオは新しいメディア環境のなかで様々な進化を遂げようとしています。みなさんもぜひ、ラジオに親しんでください。そして心を揺さぶられるような音楽に出会うことを願っています。

三浦文夫

関西大学社会学部メディア専攻教授、日本のポピュラー音楽のアーカイブ構築、アーティストの才能と魅力を広めるアーティストコモンズの活動に携わっている。ラジコを考案、実用化した人物でもある。著作に『少女時代と日本の音楽生態系』(日経プレミアシリーズ)などがある。

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