音楽にまつわる「ちょっといい話」

音楽にまつわる「ちょっといい話」

第23回 〜音楽コミュニケーションの場〜[Spincoaster Music Bar]

今回のゲスト

今回のゲスト

林 潤さん(右)

株式会社Spincoaster代表取締役。1986年生まれ、東京都出身。大手レコード会社を経て、2013年に音楽情報メディア「Spincoaster」を立ち上げる。2014年7月に株式会社Spincoasterを設立。

野島光平さん(左)

株式会社Spincoaster取締役。1986年生まれ、兵庫県神戸市出身。Spincoasterには立ち上げ当初から参加。前職は総合プロモーション会社勤務。鹿野淳主宰の「音小屋」イベント科修了生。

新宿と代々木から徒歩5分ほどの場所にある「Spincoaster Music Bar(スピンコースターミュージックバー)」は、ハイレゾ音源とアナログレコードが楽しめるミュージックバー。昨年3月にオープンした店には、ロックやJ-POPなど幅広いジャンルを愛好する若い世代の音楽ファンが集う。ハイレゾの高音質やアナログレコードのあたたかみある音に注目が集まる昨今だが、この店の大きな特徴はそれだけではない。洋楽、邦楽の最先端の音楽シーンを発信するウェブメディア「Spincoaster」と連動し、新しい音楽の楽しみ方を作ろうとしている。どうやら、かなり面白いことを思い描いているようだ。仕掛け人の2人に話を聞いた。

キュレーションメディアとして2013年にスタート

バーの母体は「Spincoaster」という2013年にスタートしたウェブメディア。音楽情報サイトが乱立するなか、彼らはどんな思いでメディアをスタートさせたのか。まずはそこから話を始めた。

自分はもともとレコード会社で働いていたんですけれど、そのときに感じていたのは、単純に、書いた人の主観で「この曲いい!」と紹介するウェブメディアが少ないということ。音楽ニュースメディアはたくさんあったので、すでに知ってるアーティストの情報を得るためには役に立つんですけど、そこからいい曲に出会うのは難しい。いっぽうで、海外にはピッチフォークのような独自のキュレーション力を持ったメディアがあるのに、国内にはなかなかない。ならば自分で作ろうと2010年くらいに考えたのがきっかけです。自分の経験では、音楽イベントでのDJのセレクトやタワレコのポップのようなところからいい曲に出会えることが多かったので、その体験をウェブ上に作ろうと思ったんですね。

野島そうして、個人ブログの集合体のような形で始まったのが2013年のことで、そこからライブイベントをするようになったのが2014年ですね。

ウェブで発信しているだけじゃなくて、海外のアーティストも含めて、自分たちがいいと思った人たちをブッキングして、ライブの場で紹介しよう、と。

野島2013年に紹介して、「Spincoaster」の最初のライブイベントに出てもらったShiggy Jr.や、結成当初から注目していたAwesome City Clubが、2015年になってようやくメジャーデビューしたり、Ykiki BeatやLUCKY TAPESも多くの人に知られるようになってきた。いち早くいい音楽を紹介してきた手応えはありますね。

「音楽のもとに人が集まれる場所」としてミュージックバーをスタート

いきのいい新人バンドや良質な音楽をいち早く紹介し、洋邦のインディシーンを発信するウェブメディアとしてスタートした「Spincoaster」。イベントも、ミュージックバーを始めたのも、一貫したコンセプトにもとづくものだった。

Spincoasterは2014年の7月に法人化しました。そのときにどういう理念で会社をやっていくかを考えたんです。

どういう理念なんでしょう?

僕らメンバーは全員、音楽を通じてみんなの人生を豊かにしていきたいと思っている。まずはそこを理念にしたんですね。それを実現するために事業をやろうと考えた。そこからこのバーのアイデアが始まっているんです。

というと?

音楽を通じて人生を豊かにするためには、音楽を通じたコミュニケーションを活性化させることが事業を通じてできればいいと思ったんです。なので、Spincoasterでやっていることは、ウェブも、ライブも、すべて何かしらの形で音楽を通じたコミュニケーションを活性化できるものなんです。そのためにはリアルな場所も必要だよねという話から、この場所のアイデアが生まれた。もともとバーをやるつもりはまったくなかったんですよ。でも、コミュニケーションをするためにはそのための場所が必要で、どうせなら、ただの音楽じゃなくて高音質のほうがいい。ハイレゾの時代も来てるし、アナログレコードも欲しい。音楽がある場所でお酒も飲みたい、ということでミュージックバーになった。

野島まず最初にあったのは「音楽のもとに人が集まれる場所」というイメージだったんです。

実際にオープンして約9ヶ月。反響はどうですか?

同じ音楽を好きな人が集まって、オフ会のようにお店を使われることが増えていますね。1人ずつ選曲して、それをみんながお酒を飲みながら聴く、という。意図していたことなんですが、予想以上に広がってると思います。当初イメージしたのとは全然違う使い方も増えてきて、それも見ていて面白い。

野島いろんなタイプのお客さんが増えましたね。たとえば、アニメ好きの人たちが集まってオフ会をやって、アニソンのハイレゾ音源をみんなで聴いたりするようなこともあった。Twitterで呼びかけあって来たり、地方から来る人、外国のお客さんも増えてきました。

大人向けの落ち着いた場というより、若者が集まるサブカルチャー的な場所になっている。

お店の作りが受け身体験じゃないですからね。お客さんがジュークボックス的にセレクトできるような要素がある。

野島ほかのバーだとジャンルとかにこだわりがあると思うんですけど、うちは特にないんです。店内にガチャガチャが置いてあって、100円で1曲リクエストできるチケットが入っていたりする。お客さんが聴きたい曲は、お客さんにとっては良い曲なので、そこはかけてあげるべきかなと思ってますね。小さい規模の店なので、それに対して嫌がる人もいないですし。

ボトルキープのように、レコードキープという制度もあるんです。常連の方は持ち込みのアナログレコードを棚に置いて、来店したときに自分が聴いたり、誰かに聴かせたりできる。

野島置いてあるレコードをお客さんが見て「これを聴きたい」とリクエストするようなことも多いですね。そこから我々とコミュニケーションしたり、お客さん同士で音楽を紹介し合ったりする。そこは理想としていたところなので、そういったことがもっとにぎわってほしいとは思っています。

この間は、ある人がX JAPANの曲をリクエストしたんですけど、たまたま隣に座った人がX JAPANが大好きで。他人同士だったんですけれど、すごく盛り上がった。そういうコミュニケーションが生まれるのはうちの店ならではだと思いますね。

野島あとは、ウェブメディアとの連動も大きいですね。僕が「路地」というバンドのリミックスについて記事を書いたら、その次の日にリミックスを手掛けた方がわざわざお礼をいいに来てくれたり。

メディアとして発信しながら、ここに来ればそれを発信している人ともコミュニケーションが取れる。そういう場を目指していますね。

次なるアクションはプレイリスト共有アプリの開発

ウェブ、イベント、バーに続き、今年のSpincoasterは新しいテクノロジーを導入した展開を考えているとか。この先の狙いも語ってもらった。

ウェブメディアもバーもやったので、次はアプリを作ろうと思っています。音楽プレイリストを共有するようなアプリにしたい。音楽情報サイトからニュースが集まってきて、日々情報収集しながらプレイリストを作っていく。そこから趣味の合う人同士がわかる。そういうアプリを作って、今度はハードを作りたい。

野島アプリとBeaconという小さな端末を連動して、それを持っている人と街ですれ違ったり、それが置いてある場所に行ったりするとプレイリストを交換できたりする。同じような音楽の趣味を持った人が知り合えるようなサービスにしたいと思っています。

メディアもバーも続けていく予定ですか?

もちろん。メディアの強みを活かして、アプリやハード、そしてバーを通してビジネスを拡大していくと考えていただいたほうが良いかもしれません。あくまでメディアが事業の軸になっています。

野島僕らはレーベルやアーティストからお金をもらって原稿を書くということはいっさいやってないんです。インタビューもしていますが、それもやりたいからやっていること。我々が好きな曲、いいと思ったものを紹介したい。そこは貫いていきたいなと思ってます。飲食店としてのビジネスはありますけど、メディアをやってるからといって、それ単体ではお金は入ってこない。そこは企業とのタイアップやスポンサーも含めて、いろんな形でビジネスにしていきたいと思っています。

ただ聴くことだけでなく、それを通じて友人や知人、見知らぬ人とのコミュニケーションが生まれることも、音楽の楽しみ方の大きなポイント。バーだけでなくウェブメディアやアプリなど様々な手法で「音楽を通じて人生を豊かにする」ことを目指す彼らの試みに期待したい。

text:柴 那典

Spincoaster Music Bar

Spincoaster Music Bar

ハイレゾとアナログレードが体感できるミュージックバー。アナログレコード用プレイヤーにトーレンスのTD309、スピーカーにムジークのRL904、ハイレゾ用再生機器にソニーHAP-Z1ES、スピーカーにKOONの400NT(特注)を使用。アナログレコードの持ち込みも可能で、ボトルキープならぬレコードキープもできる。ウェブメディア(spincoaster.com)も展開中。

東京都渋谷区代々木2-26-2 桑野ビル1-C
03-6300-9211
営業時間:カフェ/14〜19:00、バー/19:00〜LATE
定休日:日曜日(祝前日の場合は連休最終日)

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